第13話 加藤さんとの交流



午後の作業が一段落し、僕は作業台でデザインのラフをまとめていた。隣では加藤さんが集中した表情で何かを書き込んでいる。


「七夕さん。」

突然加藤さんが話しかけてきた。


「はい?」

僕が手を止めると、彼はスケッチブックを僕の方に差し出した。


「このデザイン、七夕さんの意見が聞きたいんです。」


スケッチには、彼が描いた新しい制服のデザインがあった。それはシンプルでありながらも優雅さを感じさせるもので、どこか懐かしさを覚えるようなデザインだった。


「これ…すごくいいですね。」

僕は本心から感心した。「どこか、家族を思い出させるような温かさがあります。」


加藤は少しだけ笑みを浮かべ、腕を組んだ。

「そう感じてもらえるのなら嬉しいです。僕も誰かの記憶に残る服を作りたいと思っているんです。」


「誰かの記憶に残る服…ですか。」

僕はその言葉に惹かれた。まるで、彼の過去に何か特別な想いがあるかのように聞こえた。


「七夕さんはどうですか?何か特別な想いでデザインした服ってありますか?」

加藤が尋ねる。


僕は少し考え込み、静かに答えた。

「実はあります。母が亡くなった時、僕は彼女のために服をデザインしました。それが、デザイナーとしての最初の一歩だったんです。」


加藤さんは驚いた表情を浮かべた。

「それは…七夕さんにとって、とても大切な服だったんでしょうね。」


「ええ。」

僕は小さく頷いた。「でも、それ以来、デザインに込める想いは変わっていません。誰かの心に寄り添えるような服を作りたい。それが、僕の目標です。」


加藤さんはしばらく黙って僕の話を聞いていたが、やがて小さく微笑んだ。

「いい目標ですね。七夕さんのそういうところ、尊敬します。」


その言葉に、僕は少し照れながらも、彼に対する親近感をさらに深めた。




その日の夜、家で犬と静かな時間を過ごしていると、また玄関のノック音が響いた。


「誰だ…?」

僕は少し警戒しながらドアを開けた。


そこに立っていたのは、蛇塚刑事だった。


「七夕さん、また来たよ。」

蛇塚はいつもの調子で言った。


「刑事さん…今日は何の用ですか?」

僕が尋ねると、蛇塚は玄関先に立ったまま静かに言った。


「少し確認したいことがあるんだ。お前、最近加藤って男と接してるだろう。」


「加藤さんがどうかしましたか?」

僕は少し驚きながら答えた。


蛇塚は険しい表情で続けた。

「あいつのこと、ちゃんと調べた方がいいかもしれない。妙な噂があるんだ。」


「噂…ですか?」

胸の奥に冷たい感覚が広がる。


「まだ断言はできない。ただ、お前も気をつけろよ。今は詳しいことは言えないが、あまり深入りしすぎるな。」

蛇塚はそれだけ言うと、ふっと煙草を咥え直した。


僕は戸惑いながら頷いたが、胸の中でざわつく不安が広がる。加藤の言動には、確かに何か隠されているような気がしてならなかった。



次の日、僕はいつも通り制服店へ出勤したが、どこか気持ちが落ち着かなかった。蛇塚刑事の言葉が頭を離れず、加藤を見るたびに微妙な違和感を覚える。


「七夕さん、大丈夫ですか?」

加藤さんが心配そうに声をかけてくる。


「え?あ、はい、大丈夫です。」

僕は慌てて笑顔を作った。


彼は特に怪しい様子も見せず、相変わらず優しい笑顔を浮かべている。その態度に少し安心しながらも、どこか緊張感が抜けないまま一日が過ぎていった。


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地獄帰りのデザイナー、悪魔と戦うヒーローになる。 三つ星 @junk777

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