第34話 賢い女神様の対策方法
「何時かは来るかと思っておったが、ついに来おったか……」
女神を追い返した後。
四畳半の狭苦しいアパートの一室で、リトルは唸り声を上げる。
数多の異世界を渡り歩いてきた邪神の話は有名だったが、彼は、必ずと言って良いほどに神同士のトラブルは発生する……と語っていた。
当たり前といえば当たり前のことだった。
その世界を管理している神にとって、新興宗教がその世界に起こることは信仰の分散を意味する。
信仰が分散すれば、当然、世界の支配権も危うくなる。
世界の支配権と言われても、人間の立場からするといまいちイメージが湧かないが、株式会社の持ち株比率でイメージするとわかりやすい。
株式会社の支配権を握るには株式の半数以上……所謂、50.1%が
また、持ち株比率が33.4%を超えれば、株主総会の特別決議を単独で否決する権限を持ち得る。つまりコレは、会社の決定に対するアレコレについて口出しする権利を得るということのため、実質的に支配権の一部を奪われている状態となる。
上記を踏まえて、株式会社の支配権を握るには、単独で特別決議を通すことの出来る66.7%以上の持ち株比率が必要とされている。
神の視点からコレを世界に当てはめると――神が世界の支配権を握るには、世界人口の66.7%以上の信仰を得る必要を意味した。
現時点では、この世界の女神は66.7%以上の信仰を得ている。
ところが。
キモオタ三邪神の登場により、その
世界規模でみれば、たかだか、チャンネル登録者数100万人程度の取るに足りない存在ではあったが……世界人口80億に対し、全体のわずか0.0125%とはいえ、外界の神による信仰の奪取は明確な侵略行為であり、既にその信仰を奪っている現状においては『万が一』も有り得ることだった。
当然、女神の立場に立ってみれば、外来宗教による偶像崇拝など認められるわけもない。
神の座において女神より遥か格上の三邪神が、ただ、自分たちのアクスタやらタペストリーが欲しいだけという
そのため、三邪神と女神の間には、わかりやすく温度差が生じていた。
「もう一度、話し合いの場を設けて、グッズ化だけでも認めてもらえんかのう?」
「ぶっ殺した方が早くないですか?」
穏健派のリトルに対し、過激派のマリフは白い猫耳を動かしながら提案する。
「斯様なことをすれば、この世界の人間はどうなる?」
腕を組んで瞑目し、セティはささやいた。
「そうじゃそうじゃ! 考えなしに口開くのはやめんかカス!」
「我々で支配すれば良いではないですか。オタクにとって希望溢れる夢の世界を創りましょうよ」
「阿呆が。我らはソレを為せなかったからこそ『邪神』と呼ばれているのだろうが。キモオタ引きニートには
諌めるリトルとセティに目を向け、マリフは唇を尖らせて反発する。
「でしたら、どうするんですか? グッズ化は諦めると?」
「じゃから、話し合いをしてじゃなぁ」
「フハッ、散々、足蹴にしておいてか」
侃々諤々の議論の後、リトルは大きなため息を吐く。
「女神とてアホではない筈じゃ。この世界の実権を握っておるのじゃから、遣り様は幾らでもあるじゃろ。人々の頭から、わしらの存在を消して失くすくらいはやってのけるじゃろうなぁ」
「然り。グッズ化するという目的の根本理由を失くすのが最善手」
「でも、あの女神、アホだからDtuberデビューして対抗するとかやってきそうじゃないですか?」
マリフのジョークを受けて、リトルは笑い声を上げる。
「なんで、わざわざ、Dtuberで対抗してくる意味があるんじゃ。わしらをこの世界から追い出すのが目的であるのに、世界規模で見てみればほんの僅かでしかないDtuber業界を土台として相争う意味ないじゃろ」
「冗談ですよ冗談、まぁ、ショートブレイクを挟んでから対抗策を考えましょう」
笑いながら、マリフはモニターにDtubeを投影させて――
『こ、こんにちは〜! わたし、女神でぇ〜す! き、キモオタ三邪神は悪い侵略神なので、皆さんは推したらダメですよ〜? ちゃ、チャンネル登録? とかってのを、下のボタンからお願いします〜!』
見覚えのある姿を視認し、すーっとその顔面から笑みが消えた。
「「「…………」」」
『え? アレ、コレってコメント? あ、ありがとうございます〜!』
「「「…………」」」
無言で、リトルはモニターを消して――
「「「……アホだ」」」
三邪神の意見が綺麗に一致した。
名状しがたい邪神様は、ダンジョン配信で無双する~配信切り忘れで本体ポロリ、BAN不可避だと思ったらバズりまくってグッズ化しました~ かるぼなーらうどん @makuramoto
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