緑色になったカエル
「おはよう。遅刻するわよ」
耳元で声がしたので、目をさますとカエルが弘樹の耳元に座っていた。
「ヤバい、寝坊した」
弘樹は慌てて起き上がった。
「まだ、大丈夫よ。朝食を食べる時間くらいはあるわ」
「起こしてくれたのか」
「昨日は遅くまでプレゼンの準備で頑張ってたから、寝坊するんじゃないか心配であたし眠れなかったんだから」
「お前は寝てないのか」
「まあね」
カエルが赤くなった目をこすった。
「お前、徹夜して体調壊すなよ。体は大丈夫か。また体が赤くなってんじゃないか」
弘樹はカエルの全身を見た。
すると、なんと、カエルの体は鮮やかな緑色になっていた。
「お前、体の色が緑色になったじゃねえか」
「そうなの。今日の朝、気づいたら緑色になってたの。あたしこれで隣町の田んぼに行けるわ」
カエルはニコニコと嬉しそうな表情を浮かべた。
「ほんと、よかったなー」
弘樹は目頭をおさえた。
「心優しいあなたのおかげよ」
カエルが弘樹の頬にキスをした。
「俺は何もしてないけどな。でもよかったよ」
弘樹は涙を拭った。
「そんなことより、しっかり朝ごはん食べて、今日のプレゼンにそなえなきゃダメよ」
「そうだな。お前のことは、また帰ってからだな」
弘樹は急いで朝ごはんを食べた。いつも通りカエルの分を残して皿においた。
「お前の分はここに置いとくからな。しっかり食べろよ。じゃあ、行ってくるな」
「いってらっしゃい。プレゼン頑張ってね。成功を祈ってるわ」
カエルの言う通りだった。しっかり準備しておけば、プレゼンもうまくいく。課長からも褒められた。
プレゼンが終わってから、課長が少し涙ぐんでいるように見えたのは、弘樹の頑張りが嬉しかったからだろうか。課長は弘樹に頑張ってほしくてきつくあたっていたのかもしれない。
カエルに言われてから、弘樹なりに努力して、営業成績も少しずつだが上向きはじめていた。
自分が出来ないことを棚にあげて課長はパワハラだと非難ばかりしたことを反省しながら自宅へと向かった。
カエルのお陰だ。帰ったらカエルに報告しよう。
カエルも元気になったみたいだし、今日は奮発して、カエルに旨いものをご馳走しよう。
マンションのドアを開けると、明かりが消えていた。明かりはつけて出て行ったはずなのに、おかしいなと思いつつ明かりをつけた。
「おーい」
カエルを呼んだが返事はない。
風呂場のドアを開けてみるが、真っ暗だ。
「おい、カエル、どこだ」
部屋はシンとしたままだ。
最初にカエルと交わした会話を思い出してみる。
『なんか、ウルトラマンみたいだな。じゃあ、お前を育てるのはお前の体が緑色になるまでの約束だ。緑色になったら黙って俺の前から姿を消してくれ』
『わかったわ。約束する』
まさかと思った。
弘樹は部屋を飛び出してマンションの駐輪場に向かった。
「カエル、黙って出て行かなくてもよかったんだよ」
ペダルを踏みながら呟いた。涙がボロボロと溢れるのを拭いながら全速力で進む。
隣町の田んぼに到着した。ゲロゲロとカエルの声が響き渡る。
「おーい」
真っ暗な田んぼに向かって叫んだが、ゲロゲロとカエルの声が聞こえるだけだ。
「今日のプレゼンはうまくいったぞ」
『ゲロゲロ、ゲロゲロ』
「課長からはじめて褒められたぞ」
『ゲロゲロ、ゲロゲロ』
「お前のお陰だからな」
『ゲロゲロ、ゲロゲロ』
「いい男見つけろよー」
『ゲロゲロ、ゲロゲロ』
「ここは絶対にコインパーキングにはさせないからな」
『ゲロゲロ、ゲロゲロ』
「何があっても、俺がこの田んぼを守るからなー」
『ゲロゲロ、ゲロゲロ』
真っ赤なカエル まつだつま @sujya
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