第7話 魔法石発掘場
医療施設の方も、話し合いをした。その結果、広場に近い場所で造る事になった。
医療施設。転生前の大きな病院をイメージすれば良いと思う。ぼくは幸いにも病院とは縁遠い生活を送ってきた。でも、大丈夫。
実は、転生前のぼくの父が大病院の病院長なんだ。だから、病院には詳しい。
「ふみゅ、ちゅごいの」
「あの、ずっと気になっていたんですが、転生前のあそことここってどっちが文化レベル高いんですか?」
「こっち。ここはそうでもないけど、向こうで言うテレビとか冷蔵庫とかもあるの。家電系制覇してるの。それに、あの世界で、未来都市とか言っていたような感じの……ちょっと違うけど、そんな感じの場所もあるの」
「向こうで言うところの、空飛ぶ列車とか。それに、空中都市に、巨大ショッピングモール。人工食品とか、永久機関とかも。他にも」
ここがそうでないだけだったみたい。文化レベル高すぎる。こんな場所で、転生前の知識が役に立つんだろうかと思うくらい。
少なくとも、ここでは役に立っているから良いけど。
「そもそも、魔力は無限にあるようなものだから、それを使って水を永久的に出すとかもできるし、天候が荒れる事が少ないから、植物も育ちやすい」
「魔力は無限なんですか?」
「うん。魔力を使ったら、その魔力は自然に還る。自然の魔力は常に循環しているんだ」
転生前に読んでいた本では、魔法が使える世界は、中世くらいの文化レベルだった。科学が発展していれば、近未来の文化レベル。
この世界は、その両方が揃っているようなものだ。
「でも、ここはまだそんなふうにはできないから、地道にいけば良いよ」
「はい。でも、寝具はしっかりしたいです。十年前から、それは思っていました。睡眠は大事なので、寝具だけはしっかりしましょう」
「ふふ、君ってそんなふうに熱弁するんだ。しかも、寝具って、エレみたい」
「エレは、ふかふかが好きなだけなの。わたわたのお花があるの。それで作るベッドはふかふかなの」
これはまた、成長魔法の出番みたい。この成長魔法。かなり使える。
昔のぼく、もとい、未来の書のチェリルドは、成長魔法が使えたんだとしたら、どうして使わなかったんだろうか。日記には使えたような事が書かれていたのに。
この便利さを知らなかったなんて。
「わたわたの種はこれなの。プレゼントするから、一緒に作ろ」
「はい」
エンジェリアから、白い一センチくらいの種をもらった。
これを植えて、成長魔法を使う。
気持ち良さそうな、真っ白い上質の綿。これで作るベッドは確かにふかふかで寝心地が良さそう。
「ふみゅ、エレも自分の分を作るの」
エンジェリアは、成長魔法は使えない。でも、生命魔法。伝説級の魔法を使う事ができる。
流石は未来の書の主人公。
エンジェリアは、生命魔法で、種無しに綿を作る。
「ふかぁなの」
「ぼくも作ろっと」
フォルも生命魔法を使える。これはフォルから聞いた話だけど、この魔法を使えるのは、エンジェリアとフォルだけみたい。
そんな貴重な魔法を間近で見られる。
「エレ、どう?」
「むかつくの。エレよりふかぁなの」
「エレを想って作ったから」
「ふみゅ⁉︎」
そういえば、転生前の星音って、兄妹設定忘れたかのように、蝶華とベタベタしていた気がする。兄妹設定があったからかもしれないけど。
婚約者がいる手前、関係のない異性との過度な接触は悪印象になるから。
考えてみれば、転生した今、婚約破棄をするまでは、エンジェリアはフォルとここまでいちゃつかなかったから、兄妹だからこそかもしれない。
「チェルドのも中々なの」
「ありがとうございます」
「ふみゅ、これはチェルドだからできる事なの。成長魔法で、わたわたをもっとおっきくして」
「やってみます」
領民達に配るためだろう。ぼくは、エンジェリアに言われて、成長魔法を使って、三つの綿を大きくした。
「ふにゅ。とりあえずこれくらいで良いの。お次は布。ここに、事前に用意したエレエレ特製布がありまちゅ。これに綿を入れたいでちゅ。でも、その前に十年間でいっぱい頑張ったから、褒めろでちゅ」
「頑張ってくれてありがとうございます。エレはすごいです」
この十年間でぼくは、エンジェリアの褒め方を覚えた。
エンジェリアは、満足そうに布を渡してくれた。
ぼくは、布に綿を詰める。
「三つ一緒に入れてみるの」
エンジェリアは、楽しそうに、三種のブレンド綿を入れている。ぼくもやってみよう。
「そういえば、ここから少し離れたところに、魔法石の発掘場所があった。そこの整備をすれば、魔法石をいっぱい手に入れられるかも」
「そうですね。近くに、倉庫と休憩所を作りましょう。それに、ツルハシも欲しいですね」
「そうだね。魔法石を使えば、誰でも魔法具を使える。そうすれば、もっと発展すると思うよ」
転生前に当たり前だった光景。そんな感じの場所ができるかもしれない。
もしかしたら、それ以上も。
「ふみゅ。全部入れ終わったの」
「はやっ⁉︎もうできたんですか⁉︎」
百以上あるのに、早すぎる。
「エレ、あそこの世界のお菓子好きなの。お礼はそれで良いの」
「お菓子……それ良いですね!あの世界のお菓子をここの名産品にして売り出せば、お金を稼ぐ事ができそうです」
「ふみゅ、エレには思いつかないの」
「ですが、こことあの世界では食材が違います」
「そこは任せるの。はい、このお菓子の種を使って、あの世界の食材を作れるの」
なんでもありになってきている気がする。
「ポイントはこれでないないなの」
どこの悪徳商店だろうか。勝手に支給して勝手にポイントを使う。でも、これでお金を稼ぐ事ができるなら、良いかもしれない。
勝手にの部分は納得していないけど。
できるだけ、長持ちするのが良いから、転生前に星音が好きだった、苺クッキーにしよう。中に苺ジャムが入ったクッキー。
問題は、クッキーはぼく苦手なんだ。
転生前に月華がよく作っていたから、頼んでみよう。材料は渡して。
とりあえず、材料を種から作ろう。
ぼくは成長魔法を使って、種から、苺クッキーの材料を作った。
「ふにゅ⁉︎これは、エレがあの世界で大好きだった、苺クッキー⁉︎」
反応が早い。これなら、エレエレポイント稼ぎにもなりそう。自分で作れれば。
作ってもいない。材料だけでポイントがつくほど安くはないだろうから。
そう思っていると、エンジェリアが、魔法機械を取り出して、ポチポチと連打してる。
ぼくは、気になって魔法機械を取り出して、エレエレポイントを見た。
現在のエレエレポイントは千ポイント。安かった。
「お菓子で釣って、ポイント稼ぎとは、やるね」
「材料だけでこうなるとは思ってませんよ」
「あの子、安いから」
「……これ、量産ってどうしましょう?僕が成長魔法で作らない限りは作れないとなると量産は難しいかと」
「君の味方は、天才魔法具技師に調合師。それに、氷の王子様に」
「エレの王子様であり、神獣の王の実子なの。チェルドが成長させたあとの種は、記憶して、同じの作れるようにしてあるの。チェルドは、転生前の知識と成長魔法で、オリジナルの無双をしてくれれば良いの」
「エレ、覚えたての言葉使いまくる子供の真似しない」
本当に頼りになる。転生前の知識と種さえあれば知識と組み合わせてチートすぎる成長魔法。
転生前に読んでいた、改革系の本のように無双はできないけど、みんなと協力してあの世界以上に発展した領地を作れそう。
「一人じゃできない事ばかりなんだから、人を頼るのが良いの。適材適所なの」
無双に憧れはするけど、これはこれで良いと思う。無双に憧れていて、転生前は無双系ばかり見ていたけど。
「チェルドって、頼る事が良いって思っていなさそうだよね」
「そんな事は……昔はあったかもしれません」
「エレを見てみな。ゼロ呼び出して、縫うのやらせている。しかも、自分はふかふかを味わって邪魔している」
「ぼくも手伝います。みんなでやれば早く終わるでしょう。ついでに、邪魔は一人分だけだと思うので」
エンジェリアが寝ようとしているのをみんなで阻止しながら、敷布団を作った。
敷布団ができたら、次は枕。
「枕はもうできてるの。褒めて褒めて」
「すごいです」
「適当になってる⁉︎」
「では、魔法石の発掘場へ行ってみましょう。フォル、案内頼めますか?」
「うん」
領地改革のためにも、魔法石は重要アイテム。ぼくは、フォルに頼んで、魔法石の発掘場へ案内してもらった。
**********
魔法石の発掘場は、魔物が大量に沸いている。それに、ここまで歩くのに、道が歩きづらい。ここの整備もしたい。
発掘場の方だ。いつ崩壊するか分からないくらい不安定な場所。崩壊しないように、支えをつけておいた方が良いと思う。
これは、今すぐにできそう。
ちょうどエレエレポイントがいっぱいあるから。
「エレ、今って建築の種持ってますか?」
「ふみゅ、あれは生命魔法で生み出すからいつでも渡せるの」
ぼくは、魔法機械を取り出して、エレエレポイントで建築の種を買った。
「ふみゅ、まいどありなの」
「ありがとうございます」
早速建築の種を使う。成長魔法で成長させて、支えを造る。崩壊しないように、できるだけ頑丈に。
万が一の事も考えなければいけないけど、あいにくとその知識がない。転生前にはそんな事考えていないから。
「ポイントで魔法具と交換」
「良いのがあるんですか?」
「支えよりも安心できるような結界魔法具。半永久」
「ポイントとレベル足ります?」
「……特別サービスで全ポイントと引き換えに」
「買います」
本当はレベルが足りないのに特別サービスしてくれるとは。これは良ゲー通り越して、神ゲー。
ぼくは、フィルから結界魔法具を受け取った。
どこに置くかも重要そうだ。人が触らない場所に置きたい。
「なお、この魔法具は、一度起動すれば、なくなる。効果は半永久」
適当に置こう。起動さえすれば良い。
学園である程度学んだけど、これは普通にチートだと思う。でも、心強い。
ぼくは、適当に魔法具を置いて起動させた。
起動させると光となって消えた。これで、結界ができたのだろう。
「次は、休憩所と倉庫ですね」
「エレ撫でたらあげるの」
この頭撫で撫では、完全にポイント稼ぎ目的だけでやる事に思えてくる。
少し頭を撫でると、エンジェリアは満足そうに建築の種をくれた。しかも二つ。
「入る人数、十人くらいで想定して」
「分かりました」
これなら、休憩所は大規模じゃなくて良い。今までの建築よりも簡単だ。
僕は、成長魔法で、小さな建物を造った。小さいと言っても、今までに比べればで、十人は余裕で入る広さ。
その隣に、倉庫を造る。広さは、変わらないくらいで。
この辺の知識はそんなにないけど、これで大丈夫だと信じたい。
「休憩所があるなんて良い場所なの。普通はないの」
「そうなんですか?」
「うん。帰れなければ、野宿確定だから」
「それは大変ですね」
「そんな事ないと思うけど。魔物が大量にいる森に、武器を渡されず、魔力封印の魔法具を付けられて放置されるよりよっぽど楽だよ」
まるで体験談のように具体的に言う。
この世界の修行だろうか。それにしても過酷すぎる。
ぼくは絶対にやりたくない。
なにわともあれ、ここでの目的は済んだ。これで、仕事という概念も生まれる。
今までこの領地ではそれがなかったから。
魔法石があれば、お金のやり取りもできるだろうから、それで、給料を払って雇える。それに、エンジェリア達の協力で、お菓子も販売できるから、その店での雇用も。
他にも、学校があるから先生も必要だ。
先生は、筆記試験と面接で決めるようにしたいけど、まずは校長かな。
「何考えてるの?」
「学校の校長を誰にしようかと」
「それなら、一番物知りのオジェツが良いの」
「では、帰ったらやってくれるか聞いてみましょう。それと、お菓子屋さんの名前と店員も」
「名前なら」
「エレは考えなくて良いです」
エンジェリアのネーミングセンスは散々見てきた。初めての店だから、みんなで話し合って決めるのも良いかもしれない。
思い入れのある店にしたいから。
「……店員は、人の子で、チュチュラって子がいるの。料理が上手なの」
「そうなんですね。では、そっちも頼んでみます」
「魔法石はまだやらない方が良いの。魔物さん危険」
「そうですね。先に魔物をどうにかして、道の整備もしましょう」
「……結界魔法具、今なら安い」
ポイントがなくて買えない。
道はレンガだと大変だから別の方法を考えよう。
「何か良い道はないでしょうか」
「氷の道なら作れるぞ」
「お花の道なら作れるの」
「魔法具の道なら作れる」
「悲鳴が鳴り止まない道なら作れるよ」
氷は滑って危ない。お花は道になれない。魔法具は、どうしたいか分からない。最後は論外。
転生前の世界ではコンクリートで道を作っていたけど、そもそも、魔物がいて道を作るのに長く止まるのは危険。
「……冗談抜きで、作れるよ。それに、この道なら魔物は入ってこれない」
幻想的な光の道。とても歩きやすい。フォルはこういうのが好きなんだろうか。
「始末書書かされたら、手伝わせるから」
「はい。ありがとうございます」
魔法の私用に関する事だと思う。始末書を書かされるっていうのは分からないけど。
魔法の私用くらい良い気がするのに。
とりあえず、道問題は解決。
「始末書の危険冒してまで手伝ったんだから、この環境でしか育たない花があるから、育てて。種はあげるから」
「それって、エルグにぃに頼まれてる」
「……」
「分かりました」
なんの事か分からないけど、道を造ってもらっているから、そのくらいはお安いご用意。
「そういえば、あの種の植物、育ててたら量産されたから」
「ふみゅ、それに、エレ達も知らない種生まれたの。チェルドすごいの」
「うん。今度植えて見せて欲しいよ」
エンジェリアとフォルが感心する種。どんな種か気になる。
ぼくは、帰る間、ずっと種の事が頭から離れなかった。
奇跡を背負う領主 碧猫 @koumoriusa
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