第6話 やり残した事
十年後、ぼくは、無事主席で学園を卒業した。そして、ぼくは、今領地へ帰る魔法車に乗っている。
エンジェリア達とは定期的に連絡して、近況報告とかは行なっていた。それでも、会えはしていないから、会うのが楽しみ。
みんな見違えるように成長しているんだろうか。それとも、会えばすぐに分かるだろうか。
連絡魔法具越しでは、伝わる事は少ない。知っている事とすれば、エンジェリアがまともに喋れるようになった事だけ。
十年前は、理解はできるけど、滑舌が悪かった。それが、今では普通に話せている。
そういえば、この十年で婚約破棄もしたんだった。エンジェリアは想い人がいるから。ぼくは、友人の座をもらった。
エンジェリアが想い人とくっつく事を、応援する。
ゼロは、ぼくの部屋の宝石を全て使って、ペンダントを作ったと言っていた。それを、ぼくが頼んだと言って、領民達に配ったと報告きた後、信用度が上がってた。ついでに、ゼロゼロポイントが増えていた。
ゼロは、エンジェリアが勝手に決めたポイントの名前に不服申し立てていた。本人には言っても意味がないから、ぼくに。
ゼロとの連絡は、近況報告とエンジェリアへの愚痴がほとんどだった。
フィルは、ぼくが勉強分からないと丁寧に教えてくれた。一番相談に乗ってくれていたと思う。それに、魔法具の話を良くしてくれた。
おかげで、魔法具に関して詳しくなれた。
学園で、自分で魔法具を作るという課題があったんだ。その時に、ぼく一人だけ完成度が違うと先生が驚いていた。
その話をしたら、フィルフィルポイントが増えていた。
フィルも、この名前は嫌みたいで、変えて欲しいと言っていた。これも本人に言わず、ぼくに。
フォルとは、雑談とかが多かった。それに、魔法とか、こっちの世界の歴史とかも教えてくれた。学園の授業では知る事のないような事ばかり。
それに、戦術とかも教えてくれた。おかげで毎回実技一位通過できた。
相談も色々した。暴論が多くて、参考にはならなかったけど。
フォルフォルポイントは、今一番持っている。全体的に値段高いから、いっぱい買えるわけではないけど。
フォルは、あの名前の事を聞いたら、苦笑いだけ返ってきた。
現在のポイントは、エレエレポイントは二百ポイント。エレの相手をするだと思われる。
ゼロゼロポイントは二百三十ポイント。これはまだ分からない。
フィルフィルポイントは三百ポイント。何かでフィルからの評価がもらえる事と思われる。魔法具の完成度が高かったのように。
フォルフォルポイントは五百ポイント。フォルを頼る事だと思われる。
領地の方は、みんなが畑できたと自慢してきていた。エンジェリア達も、色々と育てるのに協力しているみたい。エンジェリアが、怪しい植物を育てようとしている助けてと、ゼロとフィルから連絡がきた事もあった。
調合に使う安全な植物だったけど、畑で作るなってかなり怒られたみたい。フォルとの連絡中にエンジェリアが泣きながら来て、二人で頑張って慰めていた。そうしたら、なぜかエレエレポイント減った。二百五十ポイントあったのに。
畑は今、野菜と果物を育てているみたい。エンジェリア特性栄養ドリンクで栄養たっぷりの野菜ができたと言っていた。
栄養たっぷりの野菜、領地へ帰るのをより一層楽しみにさせてくれた。
**********
ようやく帰ってきた。懐かしい場所。ぼくの家。十年経っても変わる事がない。
「おかえりなさいませ。ご主人様」
「……」
「おかえりなさいませ。ご主人様」
帰って早々、シェオンに格好をしたゼロが出迎えてくれた。
ぼくは、すぐに反応できなかった。エンジェリアに無理矢理やられているのか、涙目のゼロを見て止まっていた。
「おかえりなさいませ。ご主人様」
ゲームのNPCみたいに同じ言葉を繰り返している。
「えっと、ただいま。ゼロ」
十五になって違和感ないとか、凄すぎる。
「お疲れでしょう。本日は部屋でごゆっくりお休みください」
「ぼく、領地へ」
「休めつってんだろ。お前が部屋に戻るまで俺はこの格好のままでいろって言われてんだよ。早く部屋戻れ」
「何があったんですか?」
「……みんなで一緒に負けたらメイドやるって品評会して、罰ゲームで負けた。魔物組とか強すぎんだろ」
本当に変わっていない。みんな楽しそうにしている。こんなに面白い人達のためにも、これから領地開拓を頑張る。
と意気込む前に、部屋へ戻ろう。流石に可哀想だから。
「では、一度部屋に戻ってから、領地に行きます」
「頼むからそうしてくれ」
ぼくは一度部屋に戻った。
ぼくも制服は脱ごうかな。それに、持ってきたものを片付けておこう。
机の引き出しを開けると、あの日記が入っている。ぼくは、その日記の上に、在学中に何度か送られてきた、エンジェリア達からの手紙を入れた。
連絡魔法具で通話していたけど、手紙も年に一回送られてきていた。
他愛のない内容だけど、それがぼくには嬉しかった。
「着替えた。改めておかえり」
「はい。ただいま」
「早速領地に行くか?エレが早く早くって急かしてる」
ゼロが見せてくれた連絡魔法具に、ぼくが帰ってきてからの短時間で、百件以上エンジェリアからメッセージが届いている。
これは早く行かなければ。
「行きましょう。ぼくも転移魔法使えるようになったので、ぼくが使います」
「転移魔法って、現在開発中の特殊ゲートがねぇと、位置情報難しいけど大丈夫か?変なところいかねぇか?」
「……」
「いくら地図を見れたとしても難しいからな。今度一緒に練習しようぜ」
「はい」
「って事で今日は俺がやる」
ゼロが転移魔法を使ってくれた。
**********
十年ぶりに行くエレエレ商店。
エレエレ商店があったはずの場所に豪邸ができている。
「ふみゅ、きたにきたの。おかえりなの」
「ただいま。あの、エレエレ商店は」
「ここなの。領主様の拠点として改築したの。お家とお店の兼用。エレエレ商店は、エレエレ高級店へとなったの」
十年でネーミングセンスは培われていない。エンジェリアは、変わらぬネーミングセンスをしていた。
「おかえり、チェルド。魔法具持ってきた?」
「はい。光を出すだけの魔法具ですが」
「……転生前の知識が合わさった面白い構造をしている。これだったら、魔力回路をもっと単純にした方が長持ちする。これをこうすれば単純になる」
「そうなんですか。ありがとうございます」
帰る前にフィルに、魔法具を持ってきて欲しいと頼まれていた。ぼくが褒められた魔法具を見てみたいって。
長持ちも考えるのは、授業では学ばなかった。とにかく、難しそうなのを作れば良いって感じの内容だった。
フィルは、ぼくなりに作ってみた魔法具を興味深そうに見ている。
転生前の機械の知識とかを入れた、ぼくの魔法具。
「知識の活用の仕方がすごい。チェルドらしさの出ている、世界で一つだけの魔法具だ」
「ありがとうございます」
こんなに好評してくれるなんて。フィルは、有名な魔法具技師。そんな相手からのこの評価は、嬉しすぎる。
「あっ、おかえり。これ、卒業祝い」
「ありがとうございます」
とても高そうな服。そういえば、服とか全部支給されていて、今着れる服が、一着しかなかった。
制服以外でだと。
「少しは領主らしい服でも着て気合い入れな」
「はい」
「……気合いは十分すぎるほど入っているか」
「十年間、何もできなかったので」
「……チェルドってさ、何でいつの時も、意外と背が高いの?可愛い系ならもっと低くあれよ」
ぼく、身長百六十六センチなんだけど。フォルと三センチしか違わない。
転生前、高校時代、月華と蝶華と裏蝶は身長が変わらなかった。裏蝶が少しだけ高いくらい。体格もそこまで変わるわけじゃない。
それでも、男子校の紅一点とか蝶華が言われていた。
転生後も身長は変わらない。
「フォルはこれがちょうど良いの。高くなったら、エレが困る」
「……うん。これで良い」
この十年間で、エンジェリアは、進展があったみたい。婚約破棄があって、堂々としていられるからってだけかもしれないけど。
エンジェリアは、フォルが好きだから、くっついて欲しい。ぼくの好きな二人が、恋人になってくれれば嬉しい。
「チェルド、早速畑見に行こうよ。みんなで頑張ったんだ。エレが野菜いやだとか言うのを無視して」
そういえば、この十年でぼくにも進展があった。十年前、気まずくなっていたフォルとの仲。
十年前では、こんな積極的なフォルは見れなかった。
ぼくの手を握って、楽しそうに畑の方向を指差す。早く早くと言うかのように、手を引っ張る。
「はい」
ぼくはフォルと一緒に畑へ向かった。
みんなで造ったレンガ道を走って。
レンガ道は定期的に整備されているみたい。みんな大事に使ってくれている事が分かる。
「すごい、あの荒廃した場所がこんなにも豊かになるなんて」
「エレが毎日のように栄養ドリンクをかけていたんだ。そうしたら、とんでもなくでかい野菜が生まれたけど」
「どうしたんですか?」
「みんなで美味しくいただいたよ。あの後から、栄養ドリンクが改良されて、くそでか野菜は作られなくなった」
本当に楽しそうでなによりというか、少し羨ましい。ぼくは、学園生活あまり楽しくなかったから。
医療施設を造っていなかったけど、みんな大丈夫そう。この世界の人って強いみたい。
「領主様が帰っていらしたわ」
「大きくなられて。見違えるようです」
「お久しぶりです。皆様、元気に過ごされてましたか?」
「ええ、怪我や病気は姫様と蝶様が治してくださいましたから」
エンジェリアとフォルは癒し魔法が使える。それで治してくれたんだろう。
フォルを見ると、畑を見ている。話は聞いていないみたい。
「……畑に猫描かれてる」
よく見ると、小さな猫が畑の土の隅っこに描かれている。しかも上手い。
こんな事をやるとすれば、子供達かエンジェリア以外考えられない。ここでは猫なんて見た事がない。エンジェリアだろう。
猫の下に何か書かれている。
星の花ミディリシェル植えた場所。
ミディリシェルは聞いた事がある。あの本で、エンジェリアが使っていた偽名。
由来は知らんかったけど、この世界の花の名前だったみたい。
「そういえば、もう直ぐ、聖星祭だ」
「聖星祭?どんな祭りですか?」
「エレが育てている花を飾って、祈りを捧げるんだ。それに屋台とかもあった。あの子、聖星の子だから、毎年やっているんだ」
「……この種ってもっとありますか?ここでもやりましょう」
「良いですね」
「わたちも賛成です」
領民達が次々と賛成と言ってくれる。
エンジェリアのためにも、ここの開拓を頑張るための息抜きとしても、やって良いと思う。
フォルは、どうだろうか。何かを数えている。
「足りそう、かな。良いよ。その代わり、忙しくなる。みんなで楽しむ場所を作って、ミディリシェルを咲かせないといけないから。成長魔法で頑張ってね」
「はい」
「とりあえず、十年間で溜まった建築の種で、家を造ろっか。魔物組は、まとまって暮らしているけど、人は家族同士で暮らすから」
「そんなの後でというか、いりません」
「我々も、こうして共同生活を送っていると、これが当たり前になって、これの楽しさに気づいたんです」
「じゃあ、医療施設でいっか。あと学校」
医療施設と学校は十年前から造りたかった。ようやく造れる。
でも、どの辺にしよう。これは、十年前、何かを造る時の恒例だったあれをみんなでやるのが良いと思う。畑は広場の側だから、ちょうど良い。
十年前に何かを造る時にやっていた、看板の地図に描くというやり方。
どこにするかはみんなで決める。これも、懐かしい。
「エレ地図読めないの」
「わたちも地図読めない」
「ぼくもー」
「わたしもー」
子供は地図が読めない子が多い。エンジェリアも混ざっているのは気にしない。
子供の意見も聞きたいけど、どうするべきだろうか。
ここは、一人で悩むんじゃなくて、人を頼ろう。子供達と同じく地図が読めないエンジェリア。彼女なら、地図を読めない同士で何か分かり合えるかもしれない。
「エレ、子供達の意見を聞きたいです」
「みゅ、任されたの。どうする?どんなところが良い?エレ的には、歩かずに行けるところがおすすめだけど。でも、運動いっぱいできる広い場所も良いかも」
「広い場所」
「広い場所が良い」
「遊びたい」
「ふみゅ、ここあちゅいから水浴びしたいよねー」
「したいー」
エンジェリアに任せて正解だった。子供達の事が良く分かっている。
広くて、水浴びができる場所。子供達の意見はこの二つみたい。
あとは、大人達で場所を決めよう。子供達の希望に合う場所を探してあげるのが今回の大人組の役割だと思う。
「こことか少し離れてますが、どうでしょうか?」
「ここも良いんじゃないかしら?」
「ここも候補地として良いでしょう」
候補地が五ヶ所。どこにしようか、どうやって決めようか。
誰かに相談して、と考えていると、エンジェリアが見にきた。
地図読めないって言っていたけど。
「ふみゅふみゅ。エレエレ占い術ー……」
「エレ?」
「……ここなの。一番安全なの」
エンジェリアが選んだのは、ここから一番近い候補地。子供達の安全を守るのも大人の役目だから、この候補地で決定で良いかもしれない。みんなが賛成すればだけど。
「ここでよろしいですか?」
「姫が言うんなら」
「姫に従います」
エンジェリアが言うからって全員賛成。確か、あの本にエンジェリアは未来の可能性を視る事ができる不思議な能力を持っていると書いてあった。
それだけじゃない気がするけど、みんなが賛成したなら、ここに造ろう。
ぼくは、地図に学校の場所を描いてからそこへ向かった。
広い敷地。運動場で隣にプール。雨の日も運動できるように体育館も造りたい。校舎は、一つで良いかな。そんなに多くないから。
「種」
「ありがとうございます」
フォルから建築の種をもらい、十年ぶりの成長魔法建築をした。
転生前に通った学校。その記憶を再現する。
「ふみゅぅ、懐かしいの」
「うん。昔通ったね。幼稚園……じゃなくて小学校」
「えっ、今素で間違えた?」
「フィルうるさい」
「完成度高いな」
そう、ぼく達が転生前に通った小学校。エンジェリア達が懐かしく感じる完成度で、造る事ができた。
これで、十年前にやりたかった二件の建物のうち一つが完了。あとは、医療施設。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます