第2話 「喫茶店『Virgin’s Cafe』へようこそ」

しゃべる黒猫――ミケとの出会いから数日後、悠人は自分の「魔法使いとしての現実」をようやく受け入れつつあった。

もっとも、使える魔法はお粗末なものばかり。


例えば、朝食にパンを焼こうとすると、なぜか焦げた食パンが頭上に降ってくる魔法。あるいは、洗濯物を一瞬で乾かすつもりが近所中の洗濯物が空中を漂う始末。

「魔法使いになったって、俺の人生、何も良くなってないじゃねぇか……」


そんな愚痴をこぼす悠人に、ミケは笑いながらこう言った。

「まぁまぁ、そんなガタガタ言うな。今日は面白い場所に連れて行ってやるよ。」


喫茶店『Virgin’s Cafe』


連れて来られたのは、街の隅っこにある古びた喫茶店だった。入口の看板には大きく『Virgin’s Cafe(ヴァージンズカフェ)』と書かれている。


「なんだよ、ここ……怪しい宗教とかじゃないだろうな?」


悠人は警戒しながら入口を見つめるが、ミケは得意げにしっぽを振った。

「まぁ、行ってみりゃわかるさ。」


恐る恐る扉を開けた悠人。

すると、中から聞こえてきたのは、まるで男子校の休み時間のような大声とくだらない笑い声だった。


「おい、今日も彼女いない歴を更新したぞ!」

「俺なんか生まれてこの方、女性と二人きりで話したこともねぇ!」

「お前ら、童貞界のプロフェッショナルだな!」


店内には、どこからどう見ても冴えない中年男性たちが何人も集まっている。その全員がスーツや作業着の上からマントや謎の装飾品を身に着け、明らかに魔法使い風の雰囲気を醸し出している。


悠人は思わず一歩引き、振り返ってミケに問いかけた。

「おい、これなんだよ!?」


ミケはケラケラと笑いながら答える。

「ここは童貞魔法使いサークルの集会所、『Virgin’s Cafe』だ。童貞魔法使いの仲間たちが集まって、日々くだらない話をする場さ。」


悠人は頭を抱えた。

「冗談だろ……俺、こんな連中と一緒なのかよ?」


そのとき、ひとりの男が悠人に気づき、満面の笑みで駆け寄ってきた。

「おっ、新入りか!?ようこそ、童貞魔法の世界へ!」


そう言って手を差し出してきたのは、40代くらいの中年男性だった。名前を聞くと、彼は「自称」リーダーの佐藤と名乗った。

「俺も魔法が使えるようになったときは驚いたぜ!でも、ここに来れば安心だ。お前も今日から『仲間』だ!」


悠人は返す言葉を見つけられず、ミケを睨んだ。

「おい、どういうつもりだよ、ここ連れてきたの……!」


ミケは悠人の肩に飛び乗ると、耳元でささやいた。

「お前、ここで情報収集するんだよ。童貞魔法使いとして生きるコツとか、使える魔法のヒントをな。」


「そんなの、別にいらねぇよ!」


「そう言うなって。ほら、座れ座れ。」


気づけば、悠人は半ば強引に席に座らされ、周りの童貞魔法使いたちに囲まれていた。

そして始まる、しょうもない会話の嵐――


佐藤:「俺、この前街で女子高生と目が合ったんだよ!絶対に俺に気があるな、あれは!」

山田:「いやいや、たまたま視界に入っただけだろ。それにお前、童貞卒業したら死ぬんだぞ?」

佐藤:「そ、それもそうだな……危ねぇ危ねぇ。」


高橋:「俺の魔法、家の鍵を一瞬で開けられるんだけど……これ、もしかして犯罪?」

田中:「いや、それ普通にやばいだろ。」


悠人:「……帰りてぇ。」


しかし、童貞魔法使いたちの話を聞くうちに、悠人はあることに気づいた。

彼らはみな、冴えない人生を送っているが、自分の魔法を通じてささやかな喜びを見つけている。そして何より、童貞であることを笑い飛ばせる強さがあった。


「俺も……少しは、こんなふうに開き直れるようになれるのかな。」


少しずつ、悠人の表情がほぐれていく。そして彼は、初めて笑顔でこう言った。

「じゃあ、俺の魔法も見せてやるよ。くだらねぇけどな。」


次回「初めての誘惑!悶々とする日々」

「真理の急接近に悠人の理性が崩壊寸前!?命がけの童貞魔法使いが初めての誘惑に悶々とする!」

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「三十歳、童貞、卒業出来なかった俺は魔法が使えるようになっていた。」 名無しの権兵衛 @NoName69

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