「三十歳、童貞、卒業出来なかった俺は魔法が使えるようになっていた。」

名無しの権兵衛

第1話「童貞30年、魔法覚醒」


「あー、俺の人生、終わってんな……」


30歳の誕生日を迎えた田中悠人は、狭いワンルームの部屋で独り言をつぶやいていた。

仕事は非正規派遣社員。趣味はアニメとAV鑑賞。友達はゼロ。彼女どころか恋愛経験すらない。30年間、何一つ成し遂げることなく生きてきた。


目の前の机には、スーパーの割引シールが貼られたケーキと安い缶ビール。そして、自分で買った「おめでとう30歳」という文字がプリントされた紙帽子が無残に転がっている。


「よし、気を取り直して、いつものやるか……」


ケーキを一口で頬張り、悠人はパソコンの前に座ると、お気に入りのAVサイトを開いた。選りすぐりの動画を探し出し、ヘッドホンを装着する。


「俺がこの瞬間、童貞を卒業する確率はゼロだしな!」


――その瞬間だった。


部屋の空気が急に重たくなり、妙な風が吹き始めた。照明がチカチカと点滅し、やがて不気味な紫色の光が部屋全体を包む。悠人は驚きのあまり手を止める。


「えっ、なにこれ?停電?いや、待て、幽霊とか?」


だが、そんな悠人の疑問をよそに、紫色の光の中から一匹の黒猫が現れた。


「やあ、童貞魔法使いさん。おめでとう!」


「はぁ!?猫がしゃべった!?」


悠人は椅子から転げ落ち、慌てて身を起こす。目の前には黒くて艶やかな毛並みの猫が悠然と座っていた。


「お前、なんでしゃべってんだよ!?てか、誰だよお前!」


黒猫は悠人の質問を無視して大きく伸びをすると、ニヤリと笑うような表情でこう言った。


「お前、知ってるか?30年間童貞を貫くと魔法使いになれるって噂。」


「え……いや、それネットのネタだろ?ただの都市伝説じゃん。」


「それが現実なんだよなぁ。お前、見事にその条件クリアしたわけだ。」


「嘘だろ……?」


悠人が呆然とする中、黒猫は楽しげに跳ね回りながら説明を続ける。


「で、だ。お前、魔法使いになったわけだが、ひとつ重要な注意事項がある。」


「……なに?」


「童貞卒業したら――その瞬間に死ぬ。」


「……は?」


悠人は耳を疑った。だが、黒猫は真剣な表情でうなずきながら繰り返す。


「童貞を捨てたら、命を失う。それがお前の『魔法使い』の宿命だ。」


「いやいやいや、ちょっと待てよ!なんでそんな理不尽な条件つけられんだよ!」


「知らねぇよ。お前が30年間、女と縁がなかったことへの罰だろ?ギャハハハ!」


黒猫は悠人を指さして笑いながら転げ回る。


「おいおい、笑い事じゃねぇぞ!俺、どうすりゃいいんだよ!」


「どうするもこうするもねぇよ。モテるようになったとしても、童貞守るしかねぇだろ。」


「モテるわけねぇだろ、この俺が!」


「いや、これが意外とあるんだな。魔法使いってやつは、どういうわけか女にモテるらしいからな。」


悠人は頭を抱えながら黒猫を睨みつける。


「それ、まじで勘弁してくれよ……!」


こうして、田中悠人の「童貞魔法使い」としての冴えない人生が幕を開けた。


次回:「喫茶店『Virgin’s Cafe』へようこそ」

しゃべる黒猫・ミケに連れられ、悠人が訪れた場所は――童貞魔法使いの秘密基地!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る