第2話

「何だよ」

光司が、いつになく声を荒げて言った。

「今日、携帯の明細書が来たんだけど、通話料金がいつもより8千円高くなってるの。これって、誰と電話しているの?」

真子は、光司に言い訳して欲しかった。せめて、嘘でも

「仕事の相手だ」

と言って欲しかった。

でも、光司は、

「いつも行ってるスナックの女の子だよ。名前は、亜利砂」

と、あっさり白状した。

「好きなの?光司?絶対浮気はしないって言ってたじゃない。どうしちゃったの?」

真子が、悲しそうな目で光司を見つめた。

「ああ。そんなこと言ったことあったな?でも人間なんだから、絶対なんてことないだろ?なんたって、女は若い方がいいに決まってるじゃないか。亜利砂は、肌はピチピチだし、俺色に染まっていく感じがたまらないんだよな。真子は、俺だけが悪いって言うのか?変わったのは君の方だろ」

光司を問い詰める筈が、何だか逆に真子が攻められるなんて、思ってもいなかった。

「最近は、一緒に出かけようと言っても、疲れてるとか言って、出かけることも減ったし、夜の回数も減った。俺に関心がなくなってきたんだろ?」

光司が寂しそうに言った。

確かにここの所、真子は仕事が忙しくなって、光司の事だけを考えている訳にはいかなかった。

「ごめんなさい、光司。しよ」

真子が甘えた声で、光司の胸に頭を乗せた。

「もういいよ。今日は、下で寝るよ。明日、出ていく」

光司はそう言うと、毛布を持って部屋を出ると、下に降りて行った。

次の日の朝、光司は本当にスーツケースに荷物を詰め込むと、家を出て行った。

真子は、それから暫くは、光司の夢ばかり見ていた。

光司にもう一度、

「愛してる」

と言って欲しかった。光司に抱きしめて欲しかった。

光司がいなくなって、一ヶ月が過ぎた。

真子は少しずつ光司のいない生活に慣れてきた。

今日は日曜日。

「明日市役所に出してこよう」

真子はペンケースから、ボールペンを一本取り出して、離婚届けに署名すると、静かにペンを置いて、ロッキングチェアにもたれ掛かった。

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愛してるって言って @rui-turuta

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