愛してるって言って

@rui-turuta

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第1話

窓から爽やかな風が入ってきた。

「ふうっ」

白石真子は、ロッキングチェアを軽く揺すりながら、ため息を吐いた。

「どうしてこんなことになってしまったのかしら?」

真子の横にあるダイニングテーブルの上には、一枚の紙が置かれている。

それは今朝、郵便受けに入っていたものだった。

夫の光司が家を出て行ってから、ちょうど一ヶ月が過ぎた。

光司は、行き付けのスナックの女の子に熱をあげ、その子と暮らす為に、家を出て行ったのだ。

出会った頃の光司は、本当に優しかった。光司には、真子しか見えていなかった。真子のスマホには、昼休みになると、毎日光司から電話がかかってきた。休みの度に、山や海、映画やコンサート、色々なところへ連れて行ってくれた。真子も光司と一緒にいるのが楽しかった。光司と一緒にいるのが当たり前になっていた。

光司は、ベッドの中で毎日、

「愛してる」

と、真子の乳房を弄びながら耳元で囁いた。

誕生日には、赤いバラの花束をプレゼントしてくれた。

「一生浮気はしない。約束するよ」

が、光司の口癖だった。

真子が、光司の浮気に気付いたのは二ヶ月前だった。

「先に風呂入るよ。真子も直ぐおいで」

と光司がいつものように真子を誘った。

「うん。お皿片付けたら行く」

真子が答えて、布巾でお皿を拭いていた時、光司のスマホにメッセージが届いた。真子がチラッと覗くと、

「会いたい」

と書いてあった。

真子は、一瞬目の前が真っ暗になった。

光司がまさか、浮気していたなんて。

「まこっ、早く来いよ」

バスルームから、光司の声が聞こえて、真子はハッと我に帰った。

「どうしよう」

真子は、脱衣場で服を脱ぎなから、光司に聞こうか聞くまいか考えていた。

待ちきれない光司が、全身濡れたまま、バスルームのドアを開けて出てくると、裸の真子を抱き上げた。

光司は、真子を抱き上げたままバスタブに座り、真子を自分の前に座らせると、後ろから抱きしめながら、耳元で、

「まこ、愛してる。まこ、愛してる」

と、何度も囁いた。

真子は、光司を問い詰める機会を逃した。

バスルームから出た二人は、バスタオルで身体を拭くと、いつものようにそのままベッドに向かった。

真子の豊かな胸に顔を埋めた光司は、乳房を吸い尽くすと、真子のお腹から太ももに唇を這わせた。

一週間後、届いた携帯の明細書を見た真子は、通話料金が跳ね上がったのを見て、光司の浮気を確信した。

真子に電話している分は、家族割りで無料なのだから、家族以外の人に電話していることになる。

「これ、どういう事か説明して」

いつものように、ベッドで光司が真子の乳房に手を這わせてきた時、光司が、

「愛してる」

といいかけたのを遮って、真子が、明細書を出した。

「何だよ、急に。終わってからでもいいだろっ」

光司は、真子から明細書を取り上げると、床に投げて、真子の上に身体を覆い被せてきた。

「はっきりさせないと、私、もう光司とはできないから」

真子は、光司の身体をすり抜けて起き上がり、明細書を拾った。

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