第2話

華が飲み会の席から、祐也に電話をかけた時、最初は、

「明日、朝早いから今からは無理」

と言われたのだった。

「どうしても今日会いたい」

と無理を言って、

「少しだけ」

と来てもらったのだった。祐也はいつもなんだかんだ言っても、華のわがままを聞いてくれる。

そう言えば、スナックの帰り、近くのスーパーが閉まっていたので、わざわざ遠回りしてコンビニに寄って食料を買い込んだのだった。

スナックのカウンターで、並んで飲みながら、

「明日から出張で、3ヵ月長崎に行くから、しばらく会えない」

と祐也に言われて、

「なら、朝ごはんを作るから、一緒に食べよう」

と、華が言ったのだ。

それで、朝食の材料をコンビニで買ったのだった。華は、冷蔵庫を開けて中を見た。いつも、ビールや酎ハイが主で食料品はほとんど入っていない冷蔵庫に、玉子や野菜や肉やパイナップルも入っていた。

華は普段、料理はほとんどしないが、一応実家が居酒屋をしていて、学生時代は、よく手伝わされたので、一通りの家庭料理はできる。

華の頭に少しずつ、昨夜の記憶がよみがえってきた。

「てことは、今日から3ヶ月会えないってことじゃない?」

祐也が怒るのも無理はない。初めて祐也が怒った。今まで祐也とは、喧嘩をしたことがなかった。それはきっと、祐也に告白されて付き合ってあげたと、華はちょっと上から目線で祐也を見ていたからだ。祐也が華の言う事を聞くのは当たり前だと思っていた。なのに、いつの間にか華の心は、祐也でいっぱいになっていた。これで、祐也に「別れよう」なんて言われたらどうしようと思うと、目の前が真っ暗になった。華は、自分がこんなにも祐也の事を好きになっていたことに気がついた。華は、自分が情けなくて、枕に顔を埋めた。その瞬間、枕からふわっと、祐也の香水の残り香が流れ、華を包み込んだ。

「祐也」

華は思わず枕を抱きしめた。

その時、ラインの着信音がして、祐也から写真が送られてきた。それは、

「長崎から帰ったら、一緒に朝ごはん食べよう」

とメッセージが添えられ、祐也が駅で立ち食いそばを食べている写真だった。祐也の顔は、華に向かって笑っていた。

「はい。今日は本当にごめんなさい。気を付けて行ってらっしゃい」

返信を打ちながら、ホッとした華の目は、涙で潤んでいた。

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