第三章

ひまわり

第36話

大会前日になった。

桂は夕飯の後、いつものように瞳をマンションまで送って行った。

「いよいよ明日ね。頑張って」

瞳が自転車を右手で持って、左手でガッツポーズをした。

「これから、最後の調整してくるよ」

桂はそう言うと、瞳に手を挙げて颯爽と走って行った。瞳は、桂の姿が見えなくなるまで見送っていた。

桂がいつも走っている公園に近づくと、ポツポツと雨が降り出して、すぐに大粒の雨が桂の全身に降りかかってきた。更に雨足が強くなり、桂はピッチを上げた。

階段を駆け下りようとした時、不意に目の前に下から勢いよく駆け上がって来た黒い影が見えた。桂は、避けようとしてバランスを崩し、階段の一番上から勢いよく転げ落ちた。

暗闇の中で、黒い影は、身動きもせずに横たわっている桂を階段の上から見て、薄笑いを浮かべると、そのまま走り去って行った。

人通りのない夜の公園。横たわる桂の全身に、容赦なく雨が降り注いでいた。桂の頭部から流れ出た血が、雨に流されて一本の道を描いていた。

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