動きだす思惑

2024年4月2日 午前10時32分


国語の授業終わりに異変があったのは、路地陽平だけではなかった。


岡崎エリは手の震えが止まらなかった。


それを見た曽根美奈が声をかける。

「大丈夫ですか?」


岡崎エリは天井を見上げて何度か深呼吸をする。

「大丈夫ですわ。ご心配有難う御座います」


「みーな。更衣室行こう」

岡崎マリが声をかけ、曽根美奈の腕を引っ張る。

「あの。保健室行きたかったら、付き添いますので言って下さいね」

「いーから。行くよ」

更に強引に引っ張り、2人は更衣室へと消えていく。

そんな2人の後ろ姿を岡崎エリは冷たい目線で見ていた。


岡崎エリが更衣室に入る頃には、江頭うさぎと岡田河南しなかいなかった。

「何で断ったの」

「20万人のフォロワーがいる河南ちゃんには分からないよ。1000人のフォロワーさえ維持できないのに、100万なんて…」

言い争っていた。


岡崎エリは着替え終わると2人に近づく。

「お話中すみません。私は岡崎エリと申します。インスターって写真で色々な物や出来事を紹介するアプリですよね?」

突然に声をかけられ、2人は不快な視線を送る。


「申し訳御座いません。ただ、お二方とお友達になりたいだけですの」

「友達…」

岡崎河南は何となく警戒した。

「父が商業ビルをいくつか持っておりまして、そのビル内に入っております店舗を紹介して頂ければ嬉しく思います」


「紹介!」

江頭うさぎは少し前のめりになった。

「ええ。もし宜しければ今週末ランチにご招待させて頂けませんこと?ラ・テニッシュを予約させて頂きますわ」

「ラ・テニッシュ!予約のとれない高級フランス料理店じゃん」

岡田河南も、前のめりになりかけたが警戒する。

直感で、この女は私ではコントロール出来ないと分かったから。


「お気に召しませんでしたら、他のジャンルのお店に致しますわ」

「うさぎは行きたいにゃ!河南は?」

もう機嫌は直っていた。


「今週末はライブがあるから行けないわ…」

「岡田河南さんはアイドルですものね。考えが足らず申し訳御座いません」

岡崎エリは深々と頭を下げた。

「いやいや。頭を上げて」

その腰の低い態度に、岡田河南の警戒も少しとけていく。


「岡田河南さんへは、ご迷惑でなければパティスリー高田のマカロンとチョコを差し入れさせて頂けませんこと?」

江頭うさぎは空いた口が塞がらない。

そのお店も人気過ぎて、入手困難店だった。 


「う、嬉しいけど」

「良かったですわ。そろそろ教室戻りましょう」

岡崎エリの嘘くさい笑顔。

でも、誘惑には勝ってなかった。

そして、更衣室の時計が10時45分を指している。



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高校生パズル @yyunsuke

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