第0′話 エピローグ

「これより我が第十三騎士団は、魔王のコアのカケラを探す事に更に尽力する事になる。

 冒険者ギルドにも積極的に協力を要請する。

 皆もそのつもりで居てくれ。以上だ」



「「「「はい!」」」」」

 

 アルフレッドも団長の言葉にしっかり腹からの返事をするが、心の中では、わざわざそれだけを言いたかったのか?と拍子抜けだった。


 イゴール団長に集められて何の話をするかと思えば、単に今までやっていた事を今後もやって行くという宣言だった。

 ただ、冒険者という言葉に、一人の人外の少女の姿が思い浮かんだのは事実だ。

 


 アルフレッドは全体での訓練後も、一人での鍛錬を欠かさない。

 誰よりも強くなりたい。

 ……その思いが死への不安から来るものだとしても、それすら乗り越えられる強さが欲しい。


 いつものメニューを終えた時だった。


「…………誰ですか?」


 アルフレッドは戦いの場に身を置く事で、段々と気配に敏感になっている。


「アル……久しぶり」


「ミスティカ!」


 鎧を身に付け、兜は相変わらず少女の顔をハッキリとは見せてくれない。

 だが……アルフレッドは自分の心拍数が上がるのを感じていた。

 自分の表情を……感情もコントロール出来ていない。

 アルフレッドは我ながら鈍い所があるとは思っているが、それでも、この感情がどの様に呼ばれるものなのか、既に自覚出来ていた。


 ミスティカと会うたびに……その姿を考えるだけで辛い未来を忘れられて幸せだった。

 彼女なら自分をそんな運命から救ってくれるのでは無いかと……。

 

 そして、そんな彼女が目の前で微笑んでいた。

 高い位置に結った綺麗な長い銀髪が風にそよぐ。

 大きな三角形の耳も、大きな尻尾も愛らしい。


「貴方の呪いを解けるかも知れないの……」


 アルフレッドは息を呑んだ。


 果たして……アルフレッドが望んだ通り、ミスティカは呪わしい将来から連れ出してくれる。

 アルフレッドは決意した。

 何が何でも彼女を手放してはいけない。


 彼女の説明によると、魔王のコアのカケラを手に入れるたびに、神聖魔法を持つ人が浄化し、薔薇の魔女のコアを上回る力を持つ量を集められれば呪いは解けるそうだ。


 そして、ふと思い浮かんだ事があった。


「もしかして……うちの団長にも先に知らせてくれたのか?

 魔王のコアに俺の呪いの解呪の力があるかも知れないと?」


「うん……協力を沢山の人から得た方が良いと思ったの。

 貴方に話をするのが後になってごめんなさい」


「いや、良いんだ。そっか……団長も俺のために……有難い話だ」


 アルフレッドは自分の人生が急にひらけて来たのを感じていた。


 アルフレッドはミスティカを真っ直ぐに見つめた。ミスティカもこちらを見てくれている。

 他ならぬ自分だけを今は……。


 またと無いチャンスだと感じた。

 自分の為にこれ程の協力をしてくれるなら、その気持ちを信じても良いんじゃ無いだろうか?


「ミスティカ……俺の気持ちを聞いて欲しい」


「ん?何?もちろん聞いてあげるけど」


 ミスティカが小首をちょこんと傾げた。

 愛らしい姿に今すぐに抱きしめたくなる。


「俺と……交際してくれないか?」


 心臓がバクバクと大きな音を立てている。

 全身を血液がザァザァと音を立てて流れているのが煩い。

 彼女なら自分の気持ちに応えてくれると信じ、見つめていたが……ミスティカは困惑している様だった。


「あの……わた…………スカーレットは?」


 それは、浮かれ切ったアルフレッドの気持ちを冷やし、一気に落ち着かせるのに十分なひと言だった。

 アルフレッドは唇を噛んでしばらく沈黙していたが、ミスティカへの気持ちに気が付いてた時から誰にも言わずに決めていた事を口にする。


「婚約破棄しようと思っている」


 ミスティカは半歩後ろによろめく様に下がった。

 驚いている様だ。

 アルフレッドは自分の本気の気持ちを信じて貰いたいと、意気込み、踏み込む。


「スカーレットの事は妹みたいに思っているが、結婚するなんて今まで一度も考えた事がない!

 あの子の事はちゃんとケジメをつけてくる!それまで待っていてくれないか?」


 アルフレッドは今の自分にできる精一杯の誠意を見せた。

 しかし……


「信じられない……頭を冷やして下さい。今日はさようなら」


 思い掛け無いミスティカの反応にアルフレッドは慌てる。

 ミスティカはサッと白狼の背中に乗ってしまった。


「待ってくれ!君をもっと知りたいんだ!行かないでくれミスティカ!顔を見せてくれ!」


「それはダメ!別にアルのこと嫌いな訳じゃ無いけど……今は話したくない…………」


 俯くミスティカの表情は分からない。

 どうして彼女は俺を拒絶する?

 

「俺のこと嫌ってはいないんだろ?だから何度も会いにきてくれるんだろう!?

 頼む……俺は君が、君のことが好きなんだ!!」


 白狼が金色の瞳でアルフレッドを睨み、低く唸り声を上げる。


 剥き出しになった鋭い歯に、騎士としてそれなりに場数を踏んだアルフレッドですらたじろいだ。

 それを背中に乗るミスティカが撫でて、何かを囁いて狼を落ち着かせたが、何を言っていたのかは聞き取れなかった。


 そして、今度はアルフレッドに向かって聞こえる様に大きな声で、その真っ直ぐな告白を一刀両断にした。


「貴方も貴族なら婚約をそう簡単に覆せないと知っているでしょう?

 婚約者を大事にしなさい。私は貴方の友人としてこれからも話は聞いてあげるし、勿論今後も貴方を助けてあげるわ!」


 確かに婚約破棄は大変な事だ。

 しかし、スカーレットは自分が呪われた男と婚約している事を知らないのだ。

 ロイド伯爵家の方だって知れば破棄する事を納得するはずだ……自分の祖父母も、呪いの事を黙っていた事を突けば少しは孫の話を聞いてくれるだろう。


「婚約は……きっと破棄する!

 だから俺の手を取ってくれ!」


 ミスティカに手を伸ばす。

 彼女を手放したくない。

 なのに……


「お断りよ!いくよ!ニクス!!」


 彼女は怒っている様だった。

 彼女が行ってしまう……。


「待って!待ってくれ!!」


 アルフレッドは必死に引き止めた。

 しかし、少女は狼と共に行ってしまった。


「ミスティカ……また会いにきてくれるんだろ?」


 アルフレッドの胸中には、呪いを解く方法を知った喜びよりも、初恋が叶わなかった悲しみの方が大きく渦巻いていた。

 しかし、やるべき事は山程にある。

 アルフレッドは一人でしばらくその場に留まっていたが、辛い気持ちを抱えたまま、やがて歩き出した。

 

 


 


 

あとがき

他の作品を書きはしているので、ここで一旦完結にさせていただきます。

ここまで読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m

また、二章以降思いついたら連載再開するかも知れませんが、その時はよろしくお願いします!

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耳と尻尾の令嬢 〜婚約者の片想いの相手は変身した私!? ありあんと @ari_ant10

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