第45話 浄化

 その小さな摘むほどのカケラは、不吉な闇を纏っていた。


「間近で見るのは初めてね」


『レッティなら触っても平気なんでしょ?』


 最近はニクスと共に魔王のコアのカケラを持つ魔物を探して休暇を過ごしている。

 ……勉強は少しお休みしているので、次のテストでは首席の座はリートスに取られてしまいそうだ。


 そして、カケラを探しをして、遂に見つけた魔物。

 ニクスの嗅覚がカケラ集めに役に立ってくれた。レッティも変身すれば少しは嗅覚が鋭くなるが、ニクスと比べれば全然役に立たない。


「なんか……臭い訳じゃ無いのに嫌な感じがする匂いね」


『でしょぉ?独特で他に無いよね』


 奇妙なお香の様な香りだが、何故か不安を掻き立てられるのだ。

 レッティは恐る恐る禍々しい黒いカケラを摘んだ。


「凄く嫌な感じ……」


 しかし、今の所は精神を乗っ取られそう……みたいな事にはなっていない。


「神聖魔法を使えば良いらしいけど……」


 とりあえず、カケラに回復魔法を使う。他に使えるのが無いからだ。

 黄緑色の精霊もレッティの側に寄り添う様に姿を現した。


 神聖魔法の輝きが、カケラから漏れ出す闇を包み……暫く拮抗していたが、少しずつ闇が弱まる。


「もう少し……」


 魔力を注ぎ続ける。

 しかし、順調に思えたのに中々闇が消え切らない。


「まだなの……?」


 カケラとしてはかなり小さい方なのに……。

 魔力を注ぐ量を減らすとジワジワと黒さが増してくる。カケラの抵抗を肌に感じる。


『一気にやっちゃえ!』


「うん!」


 レッティはニクスに言われた通りに一気に魔力を注ぎ込む。

 カケラは尚も抵抗し続けるが、無理やりに押さえつける為、魔力の全てを一気に注いだ。


 ――――あ……意識が


 魔力の全てを注ぎ込んだせいで、意識が遠のく。魔力切れ。小さい頃は偶にやってしまっていたけど、最近は久しぶりだ。


 ――ぼすん


 柔らかく暖かなものの中に自分が突っ込んだのが分かった。

 そのままレッティは気を失った。



 ♢♢♢♢♢


 ――これで世界は平和に……

 ――イーロス!やめて……どうして?

 ――そこまでして力を望むとは愚かな!死んでもくれてやるものか……お前が私を殺し奪おうとしたコイツでお前の血筋を絶やしてやろう……

 ――ああ……何もかも上手くいかない。


 


「ん……」


 レッティは微睡から目覚めた。

 嫌な夢を見ていた気がするが、怖くて悲しい気分だったこと以外は思い出す前に霧散した。

 そして、浮かんでいた負の感情も直ぐに覚醒する意識の中に消えてしまった。

 優しく暖かなものに包まれている。


『レッティ……起きた?』


 優しくレッティに呼びかけたのは、真っ白な神獣、ニクスだった。


『一気に魔力を使い切ったから眠くなっちゃったんだね』


「……うん…………あっ!そうだ!」


 何故そんな事になったのか、一気に記憶がハッキリしてきた。

 手の中に視線を落とすと、神秘的な心洗われる様な光を放つ、小さな宝石のカケラの様なものがあった。

 仄かな暖かさを感じる。

 

「これ……もしかして」


『上手く行ったね!これでアイツは治るって事?』


 ニクスが一件落着と笑うが、どうやらこの呑気な白狼は話をしっかり理解はしていなかったようだ。

 

「違うよ……流石にこれっぽっちじゃダメだと思う。

 ……でも、上手く行ったんだね」


『強い敵と戦えるんなら、僕はなんでも良いよ』


「頼りにしてるね」


 レッティは、ニクスの首に抱きつき、真っ白な毛に埋もれた。


「早くアルにも教えてあげよう……きっと喜んでくれる」


 そして、結婚しないなんて言わなくなるはず……。

 アルフレッドと夫婦として過ごす自分を想像するのは今は難しいが、きっと、これからゆっくり仲良くなれば……。


『今から行くの?』


「うん。善は急げってね」


 乗りやすい様に頭を下げたニクスにレッティは飛び乗った。

 

 

 

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