金髪美少女のギャルに告白されたが、僕は断った。なぜなら、僕は彼女を知らないから。クラスメイトらしいけど、どうでもいい。
第2話 偽名って決めるの大変! だからこそ、かわいいのにしたいよね。そして悩む。
第2話 偽名って決めるの大変! だからこそ、かわいいのにしたいよね。そして悩む。
ななみと立てた計画通りに行動する。
「連絡先を交換してくれない?」
「いいよ」
「今度の休日、遊びに出かけない?」
「いいよ」
「じゃあ、公園とか、どうかな? ボートがある広いとこ」
「いいよ」
いいよ、3回目。
不思議な程、順調過ぎる気がする。
だが、承諾を得られ、嬉しい限りだ。
公園にやってきた。
広大で料金を支払わないと入場すらできない。
入場ゲート前で待ち合わせる。
「おはよう」
「! おはよう」
僕は人を見分けるのが苦手だ。
だからだろう。ななみが誰なのかわからない。同じクラスらしいが、脳内で一人一人当てはめてみるもしっくりくる人はいない。
園内は休日ということもあり多くの人で賑わっていた。特に小さな子供を連れた家族が多い。
入園すると、すぐ目の前にボートに乗れる池が広がっていた。
「さっそくだけど、ボートに乗ろうか」
「いいよ」
また、いいよ……。
気にし過ぎか。
ボート乗り場に向かう。
待ってる人はいない。待ち時間なしで乗れそうだ。
「ローボートとサイクルボートがあるんだね。どっちにしようか」
「両方!」
「え……でも、こういうのって普通どっちかじゃない?」
「普通がどうなのかは知らないけど両方乗りたい!」
瞳をきらきらと輝かせている。
そんなに乗りたかったのか。
誘ったのは僕なのに、笑真の方が乗り気だ。
「そう、わかった」
とりあえず、手で漕ぐタイプのローボートから乗ってみる。
先に僕がボートに乗り、
イキってるように見られるかな?
そんな一抹の不安はあるも、行動してしまった手前、もう後戻りできない。
笑真は気恥ずかしそうな仕草をするも、僕の手を取ってくれた。
ボートは不安定ゆえ、彼女が乗った勢いで揺れる。
「ありがとう」
照れた表情がかわいらしい。
ボートを漕ぐ。
休日であることから人が多い。
ぶつからないよう配慮する。
「ふんー! 気持ちいいね」
雲一つない快晴。
「
「正直に言うと、ちょっと……」
「だよね。なんだか動きがぎこちないし」
「そんなに⁉」
「うん!」
ショックだな。そんなに動きに出てたなんて。
「いつも通りでいいのに」
「いつも?」
「ほら、きっさ……」
「きっさ?」
「えっと……レトロな喫茶店にいると思えばいいんじゃないかな?」
「なるほど、確かに、ななみと喫茶店にいる時は緊張してないかも」
しまった。
なに言ってるんだ、僕は。
デート中に他の女の名前を出すなんて。
「ななみ?」
ほら、なんか怪しんでる!
うっかり浮気を自白した人の気持ちが今ならわかるよ、うん。
走り去りたいけど、池でボートに居る。
逃げ場はない。くー!
「ななみと知り合いなんだ」
両掌を合わせ、満面の笑顔を向けてくる。
笑顔が怖い。
「そうなんだ。笑真も知ってるの?」
「知ってるもなにも同じクラスだし」
「そうだよね。でも、教室で見たことないんだよね」
「そりゃ、シークレットクラスメイトだから」
「そうか。シークレットクラスメイトか。なら知らなくてもしかたないね」
なんだ!? シークレットクラスメイトって⁉ そんな言葉、初めて聞いたぞ⁉
「条件をクリアすると
ゲームめいてきた⁉ ス〇ブラかな?
そのうち乱入イベント来るかな?
いや、乱入されたらそれこそマズいでしょ。
その女誰? 状態でしょ⁉
「見えなくてもいい気がしてきた」
「どうして? 知りたくないの?」
前のめりになる
ふと、ななみと
いや、そんなわけないか。
ななみと笑真では似てもにつかない。
「それよりも僕は
「そう」
前のめりを止め、そっぽ向きながら髪をいじりだす笑真。
「そういえば、この前すすめてくれた本、読んだよ。おもしろかった」
「本当? どれがよかった?」
「トンネルのやつ。映画化されてるだけあるよ」
「読み進めていくうちに引き込まれていくんだよね。続きが気になる作品に出会えただけで感動する」
「わかる」
押し売りしてしまったかと思ったが、楽しんでくれたようでほっとする。
「そろそろ戻ろうか。待ってる人いるし」
「本当だ」
ボート乗り場に列ができていた。
慌てて動いたからだろう。ボートが大きく揺れる。その揺れの影響で
「大丈夫?」
「うん。ありがとう」
服越しとはいえ、柔らかく生暖かい肌の感触が伝わってくる。
顔が目の前にあり、うっかり唇が触れてしまいそうだ。
これはしていいってことか?
心臓の鼓動が聞こえる。これは僕のか、彼女のか。
僕はゆっくりと
それから何食わぬ顔をしてボートを漕ぎ、乗り場につける。
僕の、意気地なしーーーーー!!!!!
ボートを降りてからはどこか甘酸っぱい空気が流れていた。
だからだろう。言葉交わすことなく、自然と手を繋いでいた。
肩に触れたことで抵抗がなくなったのかもしれない。
程なく歩くと飲食エリアに入る。
「レインボーかき氷、食べてみたいな」
ハワイ発祥らしい。こんなのあったんだな。
僕はメジャーなものばかり食べるから、こういうのって目に入らないんだよな。
対して、
今まで見たことない世界が見えるのは新鮮で面白い。
「
かき氷を食べながら訊いてきた。
「僕はいいや」
かき氷のシロップは味が同じなのは知っているけど、なんか手をつけづらい。
かき氷を頬張る姿を横目にしながら歩いていると、
「虹!」
こんな晴天で虹なんか出てるのかと指差す方を見るもなにもない。
「作ってよ」
「いや無理でしょ」
「これバラ撒いたら虹、出るかな?」
「どういう原理!?」
嬉しそうにかき氷を頬張る。
本当にバラ撒く気はないのだろう。
すべて食べきり、容器は園内にあるゴミ箱に捨てていた。
「なにあれ!」
向かう先は木でできた細い通路。
どんな動きしてるのかとツッコミたくなるほどデタラメな動きをしていた。
「なにあれ!」
小さな子供のはしゃぐ声がする。
声がする方、また
囲うように正方形に排水溝の蓋があり、中央に向けて傾斜。真ん中にも排水溝の蓋がある。
排水溝の蓋からは白い煙が上がっていた。
その周辺には人工的に作られただろう腰ほどの高さの小山がたくさんある。
小山の頂点は横一線に切られたかのように平らだ。
煙にまみれ、大きくを手を振ってくる。
一時的なイベントだったのか白い煙は次第に止んだ。
それと同時に
無邪気で可愛らしい。
白い煙以外にも、この公園には珍妙なのがたくさんあるようだ。
ドラゴンがいるエリアだったり、神社を思い出す長い階段だったり、先が尖った建造物(奥に進むにつけて大きいのがある)。
その度に
ひとしきり遊んだら、ちゃんと僕の下に戻ってくるのだから、かわいくないわけがない。
「私、新しいものや珍しいものが好きだから、すぐ飛びついちゃうの。憶えてる? 高校入試の日に私、迷子になってたんだよ」
憶えてる。かわいい子がいるなと思った。
風で飛んできた受験票を見て、同じ高校を受験することを知ったんだ。
不謹慎だけど、受験票に書いてある名前をこっそりメモしておいた。忘れたくなかったからだ。
だから入学した後も、
同じクラスだと知った時の悦びを忘れない。
「あの時も、今日みたいに珍しいものを見つけては飛びついて。気づいたら迷子になってたの。そこに
だが、いつまでもそうしているわけにもいかないため、場所を移動する。
しばらく歩き進め、広場に腰かけ、一休みする。
「そうだ。今度は私のおすすめの本を読んで欲しいな」
「どんな本?」
「えっと、この本なんだけど」
その本のタイトルは『同一人物』
表紙には、小学校高学年程の男女2人が、仮面を被りマントを羽織った怪しげな人物と相対していた。
男女2人はドアップで上半身だけ写され、男の子は右手で握りこぶしを作っている。
仮面でマントは城のベランダにいて全身が写っている。
背景は夜で、満月がキレイだ。
「貸すから読んでみて」
「わかった」
そうだよな。これが正しい本のすすめ方だよ。
買わせてしまった僕の行動が悔やまれる。
「あとあと、お弁当作ってきたんだ。一緒に食べない?」
「さっきの話からするに、
「安心して、
弁当箱の蓋を外し見せられた中身は確かにシンプルだった。
卵焼き、から揚げ、塩おむすび、プチトマト、レタス。
実は目に見えないだけ、ということもなかった。
「おいしい」
「よかった」
のんびり昼食を摂っていると、スピーカー音が広場に響いた。
音が鳴る方を見ると、ステージとスピーカーがセッティングしてある。
なにかが始まりそうな雰囲気を醸し出している。
今にでも踊りだしてしまいそうな軽快な音楽が流れたと思ったら、ひとりの女の子がかわいらしい衣装を纏ってステージ脇から現れた。
音楽が止んだと思ったら、別の曲が流れる。
「もねです。よろしくお願いします」
自己紹介したと思ったら、曲に合わせ歌いだした。
アイドルのライブだ。
「あれ、
りょうというのは
本名を大声で叫んでいいものなんだろうか。
「え? でも今、もねって自己紹介してたよ」
「それは偽名。私と一緒……じゃなかった。今のは忘れて」
アイドルって聞くと雲の上の存在であるかのように感じてしまうが、クラスメイトかと思うと途端に身近なものに感じる。
「ありがとうございました」
ライブを終え、慣れた感じにお
そして別のアイドルが歌いだした。
しばらく観覧を楽しんでいると同い年ぐらいの女の子に声を掛けられた。
「
「まぁね。
「ていうか大声で本名呼ばないでよ。非公表なんだから〜」
「ごめ〜ん、つい〜」
ふたりは友達特有の慣れた感じで話している。
というか
私服姿だからか、近くで見てもピンとこない。
「
「
「そうなんだ?」
「うん……まぁ……」
「その様子だと、ななみが誰なのかわかってなさそう」
「誰なのか知ってるの?」
「知ってるもなにも……いや、やめておこう」
一瞬、
「ふたりの邪魔しちゃ悪いし、もう行くね」
「うん、また学校で」
僕は未だにななみの正体がわからないままだ。
わかる時が来るのだろうか。
「いい感じね」
「また後をつけてたの?」
「当然!」
胸を張り堂々としている。開き直っているようにみえる。
休日デートを終えて翌日の放課後、僕らはお決まりの喫茶店で作戦会議をしている最中だ。
「次はいよいよ告白よ」
「は⁉」
「どんなのがいいかな~」
「いやいやいや、まだ早いよ」
「いえ、もういいでしょ」
「うまくいく気がしないんだけど」
「大丈夫よ。
「前にも言ってたけど、どうも僕にはわからない」
「好きじゃなきゃ、休日にふたりっきりで出かけたりしないわよ」
「そうかな……」
わからない。
なにがわからないって。ななみと
ここまで確信を持てるあたり親密なのは間違いない。
親密なら
家に帰り、
好きな子が薦めてくれた本だ。読まないわけがない。
この本がどんな内容なのかざっくり説明しよう。
小学校高学年の男女が怪しげな城へと冒険に出る。
そこで仮面をつけた怪しげな人物に遭遇する。
正体を突き止めるべく仮面の人物を追いかけていくと、一緒に出掛けたはずの女の子だった。
よくよく読んでみると確かに、女の子と仮面の人物が同時にいるシーンがない。
しかも、声や背格好が似ているという男の子の心理描写が入っている。
こんなの気づくだろ。そう思うも実際に同じ境遇だったら気づけるだろうか。
僕は恰好や髪形など見た目が変わっただけで気づかないことが多々あるからな。
「薦められた本、読んだよ。ふたりが同一人物だと気づかないなんて、現実であんなことあるのかな?」
今日は下校を共にしている。
告白をする予定だ。緊張が止まない。
心臓が張り裂けそう。何度も止めようかと思ったが、ななみとのことがある手前、後に引くのも気が引ける。
告白するならここだろう。
僕は足を止める。
横にいた笑真は正面に移動し、横一列だったのが、縦一列になる。
「笑真、ずっと気になってて、えっと、その……」
続く言葉を
まるで何を言われるのか分かってるかのよう。
そうか。この空気が、雰囲気が、そうさせるんだ。
もうすでに言葉にせずとも伝わっている。
そう考えると幾分か気持ちが楽になった。
ひとつ深呼吸してから僕は言う。
「
強風が吹き、
思っていたのと違ったのだろう。
なぜなら僕は今まで、ななみが言った通りに行動していたからだ。
今回も同様にそうすると思っていたのだろう。
「いつからわかってたの?」
「最初からだよ」
本当は『同一人物』を読んでからだけど。
「最初から? でも、私の告白を断ったじゃない」
「笑真は明らかに別人を装うとしていた。だからそれに乗っただけだよ」
適当なことを言ってみる。
「そう、最初から気づいてたのね」
納得したらしい。
しばしの沈黙が流れる。
告白しようと思ってたのに、どうしてこんなこと言っちゃったんだろう。
沈黙を破ったのは
「どっちがよかった? 黒髪で三つ編みの私と、金髪ストレートのななみ」
過去のやり取りを思い出し、脳内でふたりを比べてみる。
比べるまでもない。
「どっちがいいもないよ。どっちも笑真であり、ななみでもある。どっちも同一人物じゃん」
「そうだね」
ホッとしたような笑みを
それから
なぜ、ななみを装って僕に告白したのか訊いてみた。
すると、なんてことはない。
友達――
友達との悪ふざけでしたことが
「私は誰でしょう」
「
「正解!」
――問いのならない問いに応える日々が続いている。
金髪美少女のギャルに告白されたが、僕は断った。なぜなら、僕は彼女を知らないから。クラスメイトらしいけど、どうでもいい。 越山明佳 @koshiyama
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