金髪美少女のギャルに告白されたが、僕は断った。なぜなら、僕は彼女を知らないから。クラスメイトらしいけど、どうでもいい。
越山明佳
第1話 君は誰? 訊いても答えてはくれない。これはそういう物語。
「彼氏にしてあげる」
「へ?」
僕――
目の前にいる金髪美少女でストレートヘアの彼女に手紙で呼び出されたからだ。
イタズラの可能性を考えたが、どうやら違ったらしい。
だが、別の問題が浮上する。
「そもそも君は誰? 僕と会うのは初めてだよね?」
「私はななみ。会うのは初めてじゃないよ。っていうか同じクラスだし」
「そうなの? ななみって下の名前だよね? 名字は?」
「ないよ」
「ない!?」
「それで? 答え聞いてないんだけど?」
「答え?」
「私と付き合うの? 付き合わないの?」
なんてことだ。こんな展開考えたことなかった。
だが、答えは決まっている。
「悪いけど君とは付き合えない。好きな人いるから」
「知ってる。
見た目だけでいえば、目の前にいる金髪美少女とは正反対に位置する。
「知ってて告白してきたの?」
「うん。そうだよ」
「でも、そうか。好きな人がいるから……ますます気に入っちゃった」
ななみは僕の腕にしがみついてきた。
「ちょっと離れてよ」
「いいじゃん。今はフリーなんでしょ」
「確かにそうだけど、こんなところ誰かに見られでもしたら」
「手伝ってあげる」
「へ?」
「
「いや急にそんなこと言われても……」
「約束」
そう言って強引に、ななみは指切りをさせてくる。
急に触れられドキリとした。
「それじゃまた明日、ここで」
ななみは駆け出し、手を振りながら走り去っていく。
なんだったんだ今の……。
僕は家に帰り、入学時にもらった名簿をみる。ななみの名前はない。
もしかして、ななみは幽霊なのか?
名字がないのも気がかりだし……。
手の感触を思い出す。幽霊とは思えない。
同じクラスだと言ってたけど、いったい誰なんだ?
「ボートは外せないと思うんだよね」
ななみと喫茶店に来ていた。
放課後、校舎裏に行くと作戦会議をすると言われ場所を移した。
レトロでこじゃれたお店で僕一人では決して来ない場所だ。
ここで僕らは
ななみと新井は正反対だと思うから参考になるのかという疑問はある。
だが、ななみは僕の言うことを聞かず話を進める。
僕はてっきり、1時間単位で計画を立てるのだとばかり思っていたが、蓋を開けてみれば、ただただななみが行きたいところをつらつらと紙に書き留めるのみだった。
こんなんで本当にうまくいくのかな?
本人不在でこんな話、机上の空論でしかない。
やんわり断りたいところだが、楽しそうに空想世界に浸っているをみると言い出せずにいた。
「ボートに乗るんなら公園かな?
ほぼ初対面の相手に名前を呼ばれビックリする。
「え? 僕?」
「そう」
「
「
「いやでも、女の子を下の名前で呼ぶのってどうなんだろう」
「嬉しいと思うなぁ」
「そうかな?」
「そうだよ」
本人不在で決めることじゃないと思いつつ言われた通りにする。
「
「
「そういうもんかな?」
「そうだよ。好きな人のことならなんでも知りたいと思うし」
「いや、
「好きだよ」
「なんでわかるの?
しまった。
言ってはいけないことだよな。
嫌味を言ってるようになってしまった。
だが、思いの外、ななみは気にしてないようだ。
あっけからんと応える。
「同じクラスだよ。ななみっていうのは偽名」
「偽名? なんでそんなこと」
「当ててよ。私はいったい誰でしょう」
イタズラ好きな小悪魔のような笑みを浮かべている。
「変装してるってこと?」
「そう」
そう言われても金髪が似合う子なんていたっけ。
他の要素で判断をと思い、ふくよかな胸に目線が吸い寄せられる。
「えっち」
ななみが腕で胸を隠す。
「いや、違う。もっとよく見て判断しようと思って」
「見たいの?」
「いや、見たいとかじゃなくて」
「見たくないの?」
「見せてくれるの?」
「えっち」
ななみと立てた計画を下に放課後、
とはいえ、計画と言える程でもないけど……。
「
「いいよ。どこに行くの?」
「駅前の繁華街」
「わかった」
思いのほか、すんなりと了承を得られ、初デートに行くことができた。
なにか言われそうなものだけど、気にしすぎか。
繁華街は賑わっていて、特別、僕らが目立っているようには思えない。
慣れないことをしていることから緊張が止まらない。
「たい焼きおいしそうだよ。食べない?」
食べ歩き計画を実行していく。
「いいよ。食べよう、
僕が一方的に下の名前で呼んでいるわけではなく安心する。
直接、確認を取ったわけではないけど、了承を得た気分だ。
「僕はカスタードにしようかな」
「私は季節限定の抹茶クリームで」
会計を済ませ、食べながら繁華街を歩いて回る。
「
「たまにかな」
「そうなんだ。どこか行きたいとこある?」
「
僕が行きたいところか……。
「わかった。それじゃ」
そう言って向かったのは本屋。
繁華街にあるとあって規模は大きい。
よく利用させてもらっている。
デートとしてはどうかと思うが、僕が好きなのを知ってもらうのはありだろう。
ななみが好きな人のことならなんでも知りたいと言っていたし。
「1冊完結で無駄がなく、よくまとまった作品が好きなんだ」
「そうなんだ」
具体的に何冊か、おすすめを教える。
「読んでみるね」
優しさからか、
ここは僕がプレゼントするところではないか?
そんなことを思うも、後の祭り。
会計を済ませた後に気づいた。
「なんか無理やり買わせたみたいになっちゃった気が……」
「そんなことないよ。教えてくれて嬉しかった」
「そう。なら、よかった」
「今日はありがとう」
「ううん。こちらこそ」
店を出るとすでに夕暮れ時で帰るには良い時間だ。
「送ってこうか?」
「ううん。大丈夫」
「それじゃ、また」
「うん。また明日」
初日にしては良いのではないか?
僕は心の中でガッツポーズし、多幸感に包まれながら帰路につく。
「順調のようね」
「うん。まぁ、そうだけど、なんで知ってるの? まだ詳細については話してないんだけど」
「こ、こっそり後をつけてたから」
「そうなんだ。全然、気づかなかった」
「人の後をつけるのは一流だという自負あるの」
「あまり胸を張ることではないような」
「それより、次のプランに進むことにしましょう」
「そうだね」
「放課後デートはクリア……そういえば連絡先交換がまだじゃない?」
「確かにそうだね」
「なにをやってるの。いの一番にすることじゃない」
「そうだね。それじゃ、ななみともしとこう」
「そうね……って私はいいのよ」
「どうして?」
「連絡先交換したら私が誰なのかわかっちゃうじゃない」
「確かにそうだけど……それってそんなに重要?」
「重要よ! そもそも私が誰なのか考えてるの?」
「いや……別に誰でもいいかな、なんて……」
「考えなさい!」
「はい!」
異様な剣幕に押され、大きな声で返事をしてしまった。
レトロで落ち着いた雰囲気の喫茶店に響き渡り、周囲の視線を集めてしまう。
いたたまれなくなり、ブレンドコーヒーを口に含む。
喫茶店のコーヒーってなんでこんなに美味しんだろうな。
値段がそう思わせるのか、雰囲気がそう思わせるのか、そもそもとしてコーヒーが美味しいのか。
……どうでもいいな。
ななみの正体と同様に……。
こんなこと言ったらまた、怒られそうだ。
ちなみに、ななみが飲んでいるのは季節限定ストロベリー抹茶ラテ。
また限定か……また?
そういえば、
「とにかく、連絡先交換は必須。いいわね」
極端までに小声で話しかけてくる。
「わかった」
つられて僕まで小声になる。
ななみが誰なのかはわからないけど、声は聞き覚えがあるんだよな。
あと顔や背格好がなんとなく誰かに似ているような。
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