第10話 買収

「ビジネスの基本は成功事例を真似ることだ。他人の小説を真似して学ぼう」


 おれは得意げに提案した。


「はい。学ぶ手段としてはありですね」

「いや待て、どうせ真似するなら、そのまま投稿しちゃえばいいんじゃね?」

「え……それは著作権違反です」

「まじか……」


 一瞬、おれって天才かと思ったが惜しかった。


「じゃあ、ライティング代行に頼むか」

「それ、高いですよ。小説一冊で100万円以上することもあります」

「そんなにか……だったら、おれが勤めている会社に頼んでライティング代行会社を買収して、社内で代行させるってのはどうだ?」

「……そんな目的で会社が動くと思いますか?」


 愛さんは冷静に問い返す。声のトーンは固くなり、その目は鋭さを増していた。

 おれは返答に詰まり、黙り込んだ。


「そもそも、他人に書かせた小説で受賞して、本当に嬉しいんですか?」


 その言葉に、おれは自分の浅はかさを思い知る。

 受賞のためなら手段を選ばないと豪語していたが、大切なものを見失っていた。


「……ちゃんと自分で書かなきゃ意味がないよな」


 すると、愛さんの表情が柔らかくなり、優しい笑みを浮かべた。


「それなら、プロのライティング教室を試してみては? 10万円くらいで受けられる講座もありますよ」

「おお、それだ!」


 おれの心は一気に晴れた。

 プロの指導を受け、文章力を磨く!

 小説もビジネスと同じで、自己投資が未来への道を開くのだと気付いた瞬間だった。

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