最終話

「もういいのか?」


「うん」


 そう言って、ラビュリーが離れていく。その姿が光に包まれ、次の瞬間にはセーラー服姿に戻っていた。


 ラビュリーが頬をかく。


「ごめんね?」


「や、別に。俺こそ悪いっていうか」


 寂しいって気持ちに気づいてやれなくて、悪い。


「ううん。わたしの方こそ。監禁しようとしてごめんなさい」


「それはマジで反省してくれ」


「そこは許してくれる流れじゃないの……?」


「バカ言え、あんときは死ぬかと思ったんだぞ」


 ラビュリーに監禁された日々は、マジで地獄だった。


 ごはんはあーん、抱きつかれながら愛をささやかれ、絡みつかれながら寝……俺に安息のときはなかった。


 にこやかに笑うコイツの手を離れたあとも、迷路にはばまれ、モンスターに襲われ、こうやってダンジョンを出たあとも、ダンジョンそのものとなったラビュリーに追いかけまわされ……。


 思いだすだけでため息がれるね、こりゃ。


「でも、楽しかったでしょ?」


 俺はなにも答えない。


 肯定も、否定もしない。


 ま、どっちと受け取ってもらっても構わないさ。


「それより、どっか行くとことかないのか? 地球にはいろんなとこがあるが」


「えーとね、まずは海人んち!」


「は、なんで?」


「わたしという存在を知ってもらうためだよ!」


「いやだからなんで」


 俺の言葉に、ラビュリーの目が丸くなる。


「わたしたちお付き合いをはじめたんじゃないの!?」


 俺の腕をつかみ、ギュッと胸元に引き寄せて、ラビュリーが叫ぶ。


 信じられないって顔してるが、それは俺も同じだ。


「してないが。というか、腕をはなしてくれ」


「あ、ごめんなさい。でもでも、義妹さんも来いって言ってたじゃん」


「義妹て。結婚でもしたつもりかよ!?」


 でもまあ、確かにラビュリーの言うことにも一理ある。もちろん、美夏のことを義妹扱いしてることじゃないぞ。


 おにいちゃんはそんな呼び方、許しません。


 ラビュリーは目を輝かせていた。


 ……しょうがねえな。


「じゃ、俺んちだな」


「はいっ!」


 次の瞬間には、ラビュリーは変身を開始している。


 巨人のような姿ではなく、巨大な三角コーンみたいな感じの山を想像してもらいたい。


 それが、ラビュリーの本当のすがたである。


 この中に、俺を閉じ込めたダンジョンがある。


 今でも思うんだけど、どんな仕組みなんだろうな、これ。いつの間にか話せるようになってたし、女の子の姿になってるし。


「さあ早く」


 岩肌に穴が開く。そこから入れってことらしい。


 俺は中へと入っていけば、すぐにラビュリーが動き出す。


 浮遊感。


 ダンジョンが空へと飛びあがったんだ。


 風を切り裂くように飛行するダンジョンは、まもなく光に包まれてワープするだろう。


 行先はもちろん、俺んちだ。

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ダンジョンが重すぎる 藤原くう @erevestakiba

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