第4話 魔人襲来

 「オラアアアアアアア!」


 大きなたいを持った魔人が、大剣を振り回す。

 人々は声を上げて逃げ惑う。


「「「きゃあああああああ!」」」


 魔人とは、人型の魔物のような存在。

 暴れている魔人も、二足歩行の熊に人の顔が付いたような姿だ。

 だが、身体能力は人間のそれとはまるで違う。


「ガッハッハ! 弱き人間どもよ!」

「「「きゃあああああああ!」」」

 

 大剣をブオンっと一振りすれば、木々は倒れ、岩は砕ける。

 その圧倒的な力の差の前には、人々は逃げることしかできない。

 迎え撃てるとすれば、勇敢ゆうかんの者のみだ。


 ──そんな勇敢な者の声が、小石と共に飛んでくる。


「やめろー!」

「あん?」


 小石がカンっと当たり、魔人は振り返った。

 そこにいたのは──レグスだ。


「なんだあ? このガキ」

「俺はこの村の衛兵だ!」

「ほお?」


 巨体の前にひるむレグスだが、後退はしない。


「ど、どうして村を襲うんだ!」

「決まってるだろ? 人間の女子供は高く売れるんだよ」

「……っ!」


 レグスは顔をしかめる。

 一瞬、幼い頃の記憶がフラッシュバックしてしまったのだろう。

 だが、ここで逃げ帰ることはない。


「そうはさせるか!」


 【無垢の剣】を片手に、魔人へ迫る。

 この体格差で引かないのは、レグスの強い意思によるものだ。

 しかし、現実はそう甘くない。


「ああ? いま何かしたか?」

「……!」


 斬りかかったはずのレグスの剣は、魔人の太い腕に容易に止められてしまう。

 そこには、かすり傷すらついていない。


「人間ごときがたてくんじゃねえ!」

「ぐわあっ!」


 ブンっと腕を振り回され、レグスは木に叩きつけられる。

 力の差の前に、レグスは学んだことを思い出していた。


(こういう、ことなのか……)


 天器のランクは、ただ威力によって分けられるわけではない。

 威力と同時に、どれだけ魔人に有効か・・・・・・・・・・も評価基準となっているのだ。


 高ランクの天器ほど、魔人に有効である。

 上位騎士団が天器ランクで足切りをしているのも、この理由が大きい。


 それを当然知っている魔人も、ニヤリとした顔を浮かべた。


「その天器、低ランクだな?」

「……っ!」

「その程度じゃ傷一つ付けられねえ。もっと、これぐらいじゃねえとなあ!」

「……!?」


 魔人が大剣を振り回すと、見えない斬撃が飛んでくる・・・・・

 なんとか回避したレグスだが、その威力には目を見開いた。


(こ、この威力は……!)


 斬撃の方向にあった木々が、簡単になぎ倒されたのだ。

 魔人は上がった口角で続ける。


「武器を授かんのは人間だけじゃねえ。お前らは天器ならば、俺たちは“めい”だ」

「……!」

「こいつはAランク冥器【ざんけん】よお!」

 

 冥器とは、魔人が邪神より授かる武器のこと。

 ランクの基準は天器と同じ。

 だが、人間と魔人では元の身体能力が違う。


 ならば両者には、ランク以上の差が生まれる。


「勇敢なガキは、こいつでぶった切ってやるよ!」

「ぐうっ!」


 魔人が大剣を振り回すだけで、レグスは近づくことさえできない。

 また、飛んでくる斬撃にも大小があるようだ。


「気づいたか。【飛斬剣こいつ】は、振りの大きさによって斬撃が変わる」

「!」

「細かいやつもできれば──」


 口角を上げた魔人は、今までで一番大きい振りを見せる。


「こんなこともできんだよお!」

「……ッ!!」


 その瞬間、突風でも通ったかのような強烈な斬撃が起きる。

 斬撃は木々をことごとく破壊し、森にぽっかりと穴が空いた。

 この光景には、レグスはぞくっと背筋を凍らせる。


(ラ、ラフィアはこんなのと戦っているのか……?)


 あまりに強大な力だ。

 自分の右手に持つ天器それとは格が違いすぎる。

 すると、魔人は舌なめずりをした。

 

「そう、それだよそれ」

「え……?」

「俺はその、人間が絶望する顔が大好物なんだよ」

「……っ!」


 さらに、魔人はチラリと横に視線を移す。

 そこには逃げ遅れた少女がいた。


「ひ、ひぃっ……」


 今の斬撃で、隠れていたのがバレたのだろう。

 魔人は下劣な顔を浮かべると、少女に迫った。


「ハッハッハ、このガキはもらってくぞ!」

「きゃああっ!」

「……!!」


 思考が研ぎ澄まされたのか、レグスの視界がスローモーションに映る。

 そんな中で、レグスは激しく後悔した。


(俺は女の子一人守れないのか……? いや──)


 その瞬間、レグスは体の内側からドクンとしたものを感じる。

 同時に、体が自分の想像を超えて動いた。


「やめろ」

「なっ!?」


 気がつけば、レグスは少女と魔人の間に割り込んでいる。

 今までとは別人のような速さだ。

 その雰囲気・・・も。


「それ以上、この子に近づいてみろ」

「……っ!」

「俺はお前を殺す・・ぞ」


 すると、【無垢の剣】が禍々まがまがしいオーラに包まれた──。





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ハズレ武器を授かった俺が、隠されたぶっ壊れ性能を覚醒させて英雄に成り上がるまで~俺だけ成長する魔剣で最底辺から最強へ~ むらくも航 @gekiotiwking

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