5話:豊と黒髪ロングメガネっ娘
悪友である大塚豊渾身のギャグも滑らずに、しっかりみんなの笑いを誘っていた初日の自己紹介からすでに数週間が経った。
みんなからクラス委員長の候補に蓮佛さんが推され、チャラそうなイケメンの何某くんがクラス委員長をしたがっていたものの、部活もあるし大変でしょう? と長身ボーイッシュ担任にはねのけられてしまい、見事に彼の策略 (?) は失敗した。
イケメンくん以外に我こそはと名乗り出る男子がいなかった事もあってか、最後は大江原先生の独断で、正統派美人の蓮佛さんが委員長、仲の良い金髪ギャルの和嶋さんが副委員長のW女子という珍しい構成でそれぞれポジションにおさまっていた。
クラス内を見渡すと、仲良しグループや固まるメンツもおおよそ決まってきたようで、クラスの空気にもみんな馴染んで来たようだ。
そしてもうすぐ新学年度が始まって最初の長期休み、ゴールデンウィークがその先に見え隠れ。
今日もホームルームでは、長身ボーイッシュ担任がいつものジャージ姿で快活な口調で話を進めている。
「最初の頃は新しいクラスで緊張がほぐれていない人もいたと思うが、そろそろ雰囲気にも慣れて来たか?
ずっと気を張っていると、この後のゴールデンウィークで気が緩んで一気に疲れが出て、体調を崩すことも少なくない。何かを自分一人で抱えているよりも、クラスの友達や担任の私にでも気軽に声をかけてくれ。
あと、ゴールデンウィーク前に恒例の課題があるので…」
「えええ! 今年もまた課題あんのの!?」
クラス中にブーイングにも似た悲鳴が巻き起こる。
(そもそも気軽に声をかけることが出来ないから抱えてしまうんだよなぁ。陽キャ体育会系には分からないことなのかもだけれど…)
一人陰キャモードに入っていると、
「彗人はゴールデンウィークの予定はなんかあんのか? やっぱり今年も忙しかったりする?」
僕と遊ぶことを期待してか、目を輝かせながら振り返って話しかけてくる豊。その行動に同調して振り返り、僕の回答をせかすようにその視線をこちらにむける黒髪ロングのメガネ女子。
(んっと、なんて名前の子だっけ??)
記憶を探るも該当する回答が出てこない。
みんなの自己紹介をまともに聞いていなかったせいだ。この子はプレサージュ製の制服をチョイスしてるんだな、くらいしか思いつかない。
「今年もバイト三昧で潰れちゃうと思う」
「まじかぁ? 一日も空いてねえの?」
残念がる豊。
顔の前で両手を合わせて、ごめんというポーズをして謝っておく。
「じゃあ、一恵 (ひとえ) ちゃんは?」
僕から隣の席の女子に視線を移す豊。
(え、もう名前呼びしてるの? やっぱり豊のコミュ力はすごいな)
「私もバイトはあるけど単発だし、全部じゃないかな? 豊くんは?」
黒髪ロングのメガネな彼女も、おそらく豊に好意のある目を隠さず返している。
「え? そうなの? じゃあどこか行く?」
と、返している豊を見ながら、
(真面目そうな感じだし、黒髪ロングの見た目は豊の好きなタイプに入りそうだし、何より屈託のなさそうな笑顔が好感が持てる。裏表なく気の優しいタイプっぽいから、もしかすると豊も悪くないと思ってるのかも)
なんて考えていたところで、ホームルーム終了のチャイムが鳴り、その思考は彼方へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます