4話:和嶋翼と蓮佛早苗

「次はキミたちのことを教えて貰おう。

そうだな...こっちの1番から...では面白くないから、廊下側の後ろから逆にいこう」


フェイントをかます長身ボーイッシュ担任。

 

「え〜! まじ〜?

なんであたしからなの〜?!」

ボヤきつつも立ち上がったのは金髪ギャル。


「じゃあ…、え~オッホン! 和嶋翼で〜す。前の席にいるさなっちやほかの友達からは、ばっさーと呼ばれてます! 去年は1組でした。部活はしてなくて、だいたいいつも尼咲駅前のマケドナルドでバイトしてるんでみんな来てね!」

先陣を切って一瞬にしてクラスの雰囲気を良い感じにした金髪ギャルにあちこちから拍手がおこる。


金髪ギャルは150センチよりは少し高く160センチはなさそうな感じ。

顔が小さくハーフツインの巻き髪も特徴的ながら、髪を括っているリボンも濃い原色でなかなか派手だ。第二ボタンまで外しているせいかそこそこありそうな胸元のアピールもかなりあざとく主張が激しい。

制服はパステルを基調としたチェルビー製の方を着ているようだ。チェルビーの採用しているカラーとデザインがその容姿と雰囲気にマッチしていて、自分の見せ方が分かっている。きっとこういう子はクラスのカースト上位になるのだろう。


(なるほど。名前と去年のクラス、部活や趣味などを順番に言うパターン。去年とおおよそ同じか)


続いて豊がさっき目配せしてきたお気に入りの女子が、金髪ギャルと入れ替わりに席を立つ。

 

「蓮佛早苗です。去年はばっさーと同じく1組でした。

ばっさーの自己紹介を聞いててわかったと思いますけど、さなっちと呼ばれています。

ばっさーは見た目がギャル全開! といった感じですが、中身は純新無垢でウブな乙女ちゃんです。ぜひ可愛がってあげて下さい! 結構これでも打たれ弱い防御力ゼロな子なので、優しくしてあげて下さいね?」

そう言い終えてぺこりと頭を下げる。


「さなっち! それほとんどアタシの紹介じゃんか! しかも乙女ちゃんってなに! 防御力ゼロってなによ!」

顔と耳を真っ赤にしてギャルがつっこむ。


またしても拍手と笑い声で教室がどっと湧いた。


さなっちと呼ばれた美女は、綺麗な黒髪を肩まで伸ばし、大きな二重の目とエクボが特徴的だ。

こちらは160センチくらいの身長で、えんじ色と黒を基調とした落ち着いた色調のプリーツスカート、プレサージュ製の制服をチョイスしている。学校指定の寒色系カラーのカーディガンとの組み合わせもよく、彼女にとても似合っていて、スレンダーなスタイルが際立っている。カワイイ系ハーフツインな金髪ギャルの肉厚的なシルエットとは正反対で、こちらは正統派清楚美人という感じ。


(多分この一年間は、この二人を中心に回っていくんだろうとこの時点でクラス全員が直感的に思ったことだろう)


そう思いながら教壇の方に目をやると、ふふふっと笑みを浮かべている長身ボーイッシュ担任の笑顔が目に入った。

 

「早苗ちゃんかぁ、やっぱりこの中で一番綺麗だよな。もしかしたら学年一じゃね?

去年10組だった俺らは、フロアが違った1組とはほとんど絡みがなかったから知らなかったけど、あんな掘り出し物がいたんだな」


「掘り出しもんって、その言い方」


「そう言われればそっか、表現がおかしかったか」

片目をつぶってわりぃのポーズ。


「でもあれだけのルックスとスタイルなら、豊が言う通り僕らが知らなかっただけで、かなり有名だったんじゃないかな?」

二人でヒソヒソ話していると


「私、去年2組で隣のクラスだったけど、あの二人はめちゃくちゃ有名だったよ? 1年の中でも1、2を争う美女なんじゃないかって女子の間でも噂になってた」

隣から黒髪ロングのメガネ女子のヒソヒソ声が加わってきた。


「え? やっぱりそうだったの?」


物怖じもしない陽キャな豊は隣の黒髪ロングのメガネ女子と会話をし始めている。


豊の相手という役目を終えて、手持ち無沙汰に窓の外を眺めていると、途中チャラそうなイケメンくんが何やらアピールして歓声を浴びていたようだ。



その後はつつがなく自己紹介もかなり進んできていて、窓側2列を残すのみとなった。

僕らの列が来たら順番的には僕が最初に自己紹介。今一度、何を言ったらいいのかと思い悩む。


(僕には具体的なエピソードがあるわけでもないし、あだ名も特にない。部活にも属してないし…)


おかしなことを言ってハズしてしまえば嘲笑をかうのがオチだろう。無難に名前と元クラ、帰宅部とだけ言っておいて、後は豊の漫談に耳を傾けることにした。

 

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