2話:レッツエンジョイハイスクールライフだぜ?

大塚豊と話しながら学校にたどり着くと、すでにエントランスの掲示板の前にはかなりの人だかりが出来ている。


「あちゃ〜、こりゃ自分のクラスを確認するだけでもひと苦労だな」


「僕は人混み苦手だから豊が見てきてよ」


「何言ってんだよ! お前もこいよ」

僕の腕を強引に引っ張り、群衆をかき分けて進む豊。


「あ、あったあった8組! お、まじかよ! やったぜ、今年も彗人と一緒だな!」


「……」


「おい! 露骨に嫌そうな顔をするなよ」

ケラケラ笑う。


「ま、そゆことで、今年もよろしく頼むわ」


「うん、こちらこそだよ。正直言うと、他の人と一から関係性を作るのは苦手だしめんどくさいし、去年と一緒の豊と同じクラスで、まあ良かったと思うことにするよ」


言い終わると、肩を目掛けて手加減を覚えないグーパンが飛んできた。


「その言い方よ! 素直に喜べよな!

2年は6階と7階だっけ?」


「去年の構成と変わっていなければ、確かそうだったはず。

でも基本的に何年生でもエレベーターは使ったらダメだったんじゃないかな? エレベーターは先生たちとハンデのある子とその介助の人だけが使っていいことになってたと思う」


しかしホントに痛いよ! 手加減覚えなよ! と肩を擦りながら付け加える。


「まさかの一番上かよぉ! 5組までなら1階分だけでも楽が出来たのに運が悪いぜ!

この1年間地獄の階段登りの苦痛を味わなきゃいけねぇのか...。なんで2年が1番遠いんだよ全く...」


「その代わりと言っちゃあなんだけど屋上は近いし、窓からの見晴らしも1階分だけでも上の方がいいと思うよ」


「そんな特典があってもなぁ〜」


繁華街の一角にあるこの高校は敷地内に附属中学も併設していて、1学年10クラスのマンモス高校。

とにかく中庭が広く屋上も広い。教室の広さもゆったりととられていてその分縦に長いのだ。

 

3年生の1~5組が2階、6~10組が3階、1年生の1~5組が4階、6~10組が5階、そして2年生は1~5組が6階。

僕たちは一番上の7階に配置されてしまったというわけ。

全国的にも割とレアな作りをしている校舎であることはともかくとして、通学の利便性も良く、制服も有名ブランド2社から選択出来るということで人気も高く、中学からエレベーター式の附属学校だというのに他府県からの受験者も珍しくない。かくいう僕も豊も外部受験組だ。


「やっぱ普通に考えて も1年が6.7階だろ!

2年、3年とどんどん楽が出来るようにさぁ」


「豊は去年も5階で文句言ってたけど?」


忘れてないよ? とつけくわえると、

そうだったっけか? とケラケラ笑って誤魔化される。


「はぁ〜、この階段ホントやだやだ」


そうボヤキ続けながらも豊の階段を上る足取りが軽く感じるのは、新しいクラスがどんなメンバーなのか楽しみなのだろう。


「同クラに可愛い子いるかな? 去年はこれと言って飛び抜けた美人はいなかったしな」


「どうだろね。それにしても、豊の楽しみは可愛い子が真っ先にくるんだね」

苦笑で返すと


「男子高校生って言ったら普通はそうなんじゃねーの? 彗人は楽しみじゃねぇのかよ?」


「ん〜興味もないし、特に気にもならない。男女関係なんて僕には別世界の話だよ」


「はぁ...、やっぱ枯れてんだよなぁ彗人は! こういう話になるといつもつまんねえ答えしか返ってこねーし。それにしても、相変わらず彗人はブレねぇよなぁ? もっと前向きに高校生活を楽しもうぜ。レッツエンジョイハイスクールライフだぜ」


「なにそのエセ外国人ぽいの。いやいいよ、僕は日々を無難に過ごすことが人生で一番の目標だから」


「苦行の階段を登りながら人生を語るヤツ」


「うるさ」


いつもの軽口を叩きつつ教室に向かった。

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