地の文であそぼ
冬野 向日葵
謎の部屋に閉じ込められた!脱出のヒントは『地の文』!?
「やぁ、目が覚めたかい?」
さわやかボイスで目が覚めた場所は、個室だった。
「ここは、どこ……? 私は……冬野さんだね」
そう。私の名前は、冬野ひまわり。
どこかで見た名前だって? ワ、ワタシシラナイナー(棒)
「名前は、覚えているみたいだね」
さっきと同じさわやかボイスを発したのは、目の前にいる男の子。
「あなたは?」
「僕は春野かえで。短い期間だろうけど、よろしくね」
「短い期間? どーゆーこと?」
私がそう聞くと春野くんはゆっくり話し出した。
「どうやら僕たちは、この部屋に閉じ込められたみたいなんだ。この部屋、扉のない密室みたいだし」
みっ、しつ……!?
その言葉を聞いた私は、周囲をぐるっと見回してみる。
ドア、ない!?
部屋の中には私たち二人だけ!?
「ど、どうしよう……」
私から漏れた声からは、絶望を感じさせられた。
「はい、最初のシーン終わりー。いよいよ本題だー!」
その瞬間、どこからともなく声が聞こえてきた。
「今の春野くん?」
「違うけど……誰だろうね?」
天井から聞こえる二人のどちらでもない声は、お構いなしに続ける。
「まーね、正直言ってここまでのは茶番だよ。さっさとやっちゃお! ほれっ!」
私は一気にキーボードを叩く。
「え、何が変わったの? 春野くん、わかる?」
白い画面に浮かぶ文字を見て、頭を悩ませる。
「特に変化は感じないけどね」
二人とも、ちゃんと見てよ!
「うーん、何かあったのかなぁ?」
ヒント:地の文
「「あっ!」」
二人は顔を見合わせてハイタッチした。という想像を私がした。
まったく、それだけで喜ばないでほしいところだけど……
「じゃあさ、私が誰だか、もうわかるよね?」
「地の文そのものに干渉できる存在は」
「世界に一人だけしかいないよね! それは……」
「「作者だ!」」
ぴ~んぽ~ん
改めて自己紹介しまーす!
この物語の作者やってます、冬野向日葵です! よろしくお願いします!
「えーっとですね、この空間は作者の作った異空間的なやつでーす! この空間では作者の匙加減で地の文の視点が変わりまーす!」
『―お構いなしに続ける。』までは私じゃないほうの冬野ひまわりの視点で、そこから先は私、作者の冬野向日葵がパソコンをカタカタしてた視点だったってわけ。
「ところで作者さん」
春野くん、どした?
「作者と同じ名前のキャラクターって、わかりにくくないですか?」
「そーだそーだ!」
知りたいのか、その崇高な理由を。
よろしい、ならば教えてしんぜよう。
「キャラクターの名前考えるの、メンドクサくなっちゃいました! てへっ!」
「「それでも作者かー!」」
自分で産み出しておいてなんだけど、結構扱いに困るタイプだなぁ。
……まったく、キャラクターが勝手に動き出すのも大変だ。
「あっ、そうだ!」
「私じゃないほうの冬野さん、どうしたの?」
なーんか、変わった作者だなぁ。
私は軽く首をかしげる――って、え!?
地の文に私の思考が乗っている。と、いうことは……
「まーた私の視点になってるじゃん!」
「さっきも言ったでしょ? 『作者の匙加減で地の文の視点が変わる』って」
あーもう。めちゃくちゃだ。
「作者さん、さすがにそれは職権乱用では……?」
春野くんも応戦してくれる。
そうだよね!? 私、何も間違っていないよね!?
「もういいもん! えいえいえーい!」
正直に言っていいかな?
僕には、作者がただの頭おかしい人にしか見えないよ。
「もうメチャクチャにしちゃえー!」
私は笑いながらキーボードをたたく。
面白い。このわけのわからなさ、書いている私が一番楽しんでる自信ある。
「そりゃそーでしょーね」
流石に私(=部屋に閉じ込められているほうの冬野ひまわり)があきれてきた。
「さっさと脱出する方法ないかなぁ」
私はポツンとつぶやく。
「脱出できる方法、あるよー」
「作者さん!?」
答えてくれたのは春野くんではなく、まさかの作者のほうの冬野さん。
「実はねー、この話のオチ考えてないんだよねー。だから好きな方法で終わらせてくれていいよー」
あのさぁ……
「プロットくらい考えてから書き始めたほうがよくない!?」
「そうですよ!? 作者さん、素質だけはあるんだからさぁ……」
もーいーや。
「私じゃないほうの冬野さーん」
「どした?」
「視点一回作者目線にしてくれない?」
「なんで?」
「いーから!」
聞き分けの悪い子だなぁ。まぁ、いいけど。
私には二人の姿が見えているわけじゃないんだけれどね。
視界には、真っ白な背景とそこに踊る文字だけだ。
「ねーねー春野くん! いいこと思いついたの!」
二人がひそひそ話をしている様子が頭に浮かぶ。
「せーのっ!」
「「タスク・マネージャー!」」
私は二人の幻聴に合わせてついついパソコンを操作してしまう。
「からの……」
「「強☆制☆終☆了」」
あっ。
さっきまで白を映していた画面が真っ暗になってしまった。
当然、保存はされていない。
つまり、あの世界――冬野ひまわりと春野かえでの存在も、消えてしまったということ。
まぁ、いっか。
オチ思いつかなかったし。
≪あとがき≫
読んでいただきありがとうございました。
面白いと思っていただけたなら星やフォロー、コメントなどしていただけると、励みになります!
また、ほかにも短編を投稿しているのでよければそちらもぜひ!
地の文であそぼ 冬野 向日葵 @himawari-nozomi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます