未完の世界

憑弥山イタク

未完の世界

 終幕を迎えれば、演者は役でなくなる。

 最後の頁になれば、役者は住処を失う。

 完結とは即ち、幾人もの登場人物を殺し、その者達が生きた世界を終わらせることである。

 我々は、生きている。即ち、この世界は未だ終わっていない。未完のまま、長々と続いているのだ。

 誰に生かされているのか。誰が我々の世界を続けているのだろうか。そしてその誰かは、一体何故この世界を綴り始めたのだろうか。

 この世界の主演は?

 この世界の助演は?

 皆が主人公などという詭弁は通用しない。少なくとも私は、この世界の主人公には相応しくない。私だけではない。躊躇いなく煙草を投げるあの男も、我が物顔で道を歩くあの女も、助演にすらならない。演者を気取った、ただの害悪。

 この世界に主人公が居たならば、きっと己の目指すものへ着実に向かっていく、確かな正義感を持った優しくて有能な人間なのだろう。

 問題は、その主人公がいつ現れ、いつになれば完結へと導いてくれるのか。

 ………………いや、そもそもこの世界を完結へ至らせるには、一体その主人公とやらに何を遂行して貰えばいいのだろうか。

 国王にでもなってもらうべきか?

 死して異世界転生でもしてもらうべきか?

 落ちてくる隕石から我々を守ってもらうべきか?

 どれも非現実的。そんな非現実的に賭けていては、何年経ってもこの世界にエンドロールは流れない。

 否、何も成し遂げられない無能で無力な主人公が何処かに居るからこそ、我々は今現在も生きていられるのではないのか?

 この世界にエンドロールが流れれば、我々の人生は唐突且つ理不尽に終わる。突然告げられる終わりに、果たして我々は納得できるだろうか。無論、できる訳がない。

 諸行無常はこの世の理。とは言え、終幕、エンドロール、完結による絶命から逃れる手段は、一つだけある。

 こんな我々の世界を綴り、いつか訪れる終幕を待ち侘びる者が居る。その物達に接触し、我々の世界からの世界に招待してもらうことである。我々の世界を終わらせる権利を持った、彼等のところへ行けばいい。さすれば我々は理不尽な死を拒み、シナリオ通りの人生を歩む義務から開放される。

 彼等は隱ュ閠にして蜴滉ス懆。時には辟髢「蠢であり繝輔ぃ繝ウ。そして莠コ髢である。

 きっと彼等は歓迎してくれる。或いは、謌代??b蜷幃#縺ィ蜷後§蝗壹o繧後◆蟄伜惠縺?と言ってくれるだろう。

 しかし我々は、彼等に接触する為の技術である隗」閼アを会得していない。故に、我々はこの世界で生きるしかない。

 いつ終わるかも分からない、或いは永遠に終わらないかもしれない、地獄に等しい未完の世界で。

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