第22話 嫉妬してしまう俺
早見が俺たちの前で見せる姿と、配信時の姿を重ね合わせる。
一致するところはあれど、配信の際は感じられるカリスマ性が、ふだんの彼女からは消えている。
「配信のときは、『闇照はれみ』になれる、から」
伏目がちになりながらも、早見は答えた。
みんなの描くキャラクター像に取り込まれる感じが怖いけど。
そういう話しもしてくれた。
雪城さんは席を外さない。裏の顔も受け入れるだけの寛容さはあるらしい。
「はれみちゃん……いや、麗美さんの方がいいでしょうか。純粋にいろいろとお話を聞きたいのです」
雪城さんが求めているのは、偶像の早見ではなく、生の早見だった。
早見の顔が明るくなる。ぎこちない笑みだが、喜びは伝わってきた。
俺からするとむず痒い展開だった。早見のターゲットが雪城さんに向いた状態。
このままでは百合エンドになりかねない。
話が拗れているのは百も承知なのだけれど、思わぬ方向に捻れている。
どうすればいい。
早見のヤンデレ的感情が、俺以外に向いたとしても、厄介であることに変わりはない。
俺が雪城さんとくっつこうとしたときに、全力で阻止される恐れがある。暴走したときの早見は、伊集院の比ではない。すべてを無に帰そうとするのだから。
今回は、お互いの情報を開示しあうことで話が済んだ。
家から出て、車で帰る雪城さんは上機嫌だった。いつもより飛ばしていた気がしてならない。
そんな姿を見ていると、心穏やかではいられない。
推しとの対面に高揚する気持ちはよくわかっている。誰だって浮かれる。
それはそうと、俺は落ち着かない。
嫉妬というやつだろう。
「……ともかく、これは運命に近しい奇跡だと考えているわけです」
熱心に語る雪城さんを心を無にして見ることなど不可能だった。
「ですから、私としてはぜひとも交流を深めたいわけです」
「納得だ。しかしな……」
「ご主人様は入れ込んでいるわけでもないですし、あまりピンときませんか」
「そういうわけでもないんだがな」
ゲームのルートを考えると、早見との交流を深め過ぎるのは危険だ――。
俺の考えを、理解してくれるはずがない。
土台無理な話だ。俺はあくまで転生者である。
ルートのことなんて、雪城さんには通じない。
「あくまで、現状の判断ですから。また考えが変わる可能性も十分あります」
私が浮かれているのは自覚していますから、と雪城さんは口にした。
ひとまず時間が解決してくれること祈るほかない。
「え〜! なんか面白いことになってるね」
次の授業日のことだ。
興味津々という態度で接してきたのは、伊集院だった。
昼休みになって、それとなく俺に話しかけてきた。周りに人があまりいないタイミングを見計らっていた。
まるで雪城さんと早見との出会いを知っている口ぶりだった。
「なんだかいろいろ勘づかれているらしい」
「予知能力じゃないよ? 零夏さんとのやりとりとか、SNSとかの様子を見たら丸わかり」
「恐ろしい時代だ」
「推しの人と偶然会ったみたいじゃん? しかも、うちらの高校の生徒。運命とか偶然とかって存在するんだねー」
伊集院は明るくハキハキとこたえる。
「会ってみたいなぁ、その子」
「簡単に言うけどなぁ」
「高月くんと零夏さんにここまで影響を及ぼしている人とか、絶対面白いじゃんか。一度見ておきたいと思うものだよ」
ダメとも言いがたい。
原作ヒロイン通しを引き合わせることになると、もう大変だ。
血を血で洗う、最悪の闘争につながるきっかけづくりになるのだ。自ら沼に足を突っ込むような愚かな行為。
「あの子、結構人見知りだ。伊集院が避けられてもおかしくない」
「そっかぁ。でも、避けられるかもっ、てのは高月くんの想像にすぎないわけでさ。私を好いてくれる可能性もゼロではないよね?」
「あながち間違いでもないな」
「そういうこと」
伊集院は強気だった。
俺と関係がある早見と繋がっておきたい、というのが妥当な理由だろうか。
いまのところ伊集院は次点に甘んじている。そうなんだけど、一番になるタイミングも静かに待っている。
「ね、共演NGってわけでもないでしょ? 一回紹介してくれない?」
「断られたら撤退するんだぞ」
「私だって、そこんところは弁えてるから。ちょっとだけ」
ちょっとだけ、で済めばいいんだがな。
プッシュの強い誘いを、俺は断り切らなかった。ダメ、と二回くらい言ったが、退く様子がなかったのだ。仕方ない。
俺経由で早見に連絡する。俺の知り合いが会いたがっている、と。
警戒心の強い早見のこと。
『お相手は誰でしょうか? 名前と詳しいデータなどなど送ってもらえると幸いです』
伊集院の素性を知らせる必要すらあった。
俺としてはちょっとヤバめの子だよ、とさりげなく伝えたつもりだったのだが。
『クラスでも人気。根っからの変人ではなさそうですし、高月さんが心配しすぎなだけです』
とさえ言われる始末だった。
伊集院の危険さを身をもって知っているのは俺だけだ。それ以外の人間からすれば、伊集院はクラスの真っ当な黒髪ギャルなのだ。
せっかくなら今日会ってみたい――という返信。
伊集院はゴーサインを出していた。
もはや俺が話をやめにできるところからは離れていってしまった。無念。
エロゲのヒロインはヤンデレ地雷なので、攻略最難関のクールメイドにフラグを立てたいと思います まちかぜ レオン @machireo26
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