第5話 再会

「あ……」

希心さんだ。


「お久しぶりね。怜くん。人混みが嫌…だからあの時のカフェに行かない?」

「うん」


彼女と会うのは2週間ぶりだ。

だけどすごく長く感じた。


「こちらから誘えなくてごめんなさい。だから誘ってくれてありがたかった」

「いやいや…!こちらこそ本当にありがとう……」

希心さんは表情は分からないけど、きちんと伝えてくれる。

本当にありがたい。


誰かに会うとか、どこかに一緒に集うとか億劫になっていた僕にとっては、なかなか勇気がいることだった。

でもこうやって、会うことができたのだから、少しは役に立てたのかな?



カフェに移動した。

しばらく沈黙が続く。

空調の音がこだまする。


希心さんは一息ついて話を切り出した。

「あがいてみる……の具体的な方法を考えてみましょうか」

「それって…復讐とかじゃないよね?」

僕は思わず聞き返してしまった。


「違うわ。でもある意味、復讐かもしれない。今私たちができる最大の復讐はよ」

「あなたも私も会社からあんな目にあったけど、受け入れてもらえなかった苦しさで、世間から捨てられたように感じたかもしれない」


(あ……)

彼女の表情はいつも通り分からない。


だけど──

彼女の目からは涙が出ていた。

彼女もきっと悔しかったんだ。

僕も悔しかった。何を言っても聞き入れてはもらえず、解雇は断行され、メンタルはかなり悪化した。

(この後、怜の不当解雇は取り消されることになり、業務災害に認められるが、後日談でお話することとする)


「希心さん。いま僕たちに必要なのは居場所なんだ。生きづらさを感じている人のためにできることはないかな…」

彼からそんな言葉が出るとはびっくりした。

やっぱり、彼と私は似ているのかもしれない。


「私も怜くんと同じことを考えていたのよ。私の住んでいる家のスペースを使って、居場所づくりをしようと思っていたの」


彼女の表情は分からない。

でも今は少し表情が柔らかくなっている…というより、微笑んでいるような。ちょっとぎこちない。


「まぁ…一気にはできないから、少しずつね。今度、私の家に来てよ。いろいろ考えていこう?」


メンタルをやられると、意欲がなくなることもある、できなくなることもある。

辛さなんてすぐには消えない、一生の傷になる。


その中で、彼女と僕は、乗り越えようとする一歩を踏み出した。

小さな一歩でも大きな一歩になると信じて。


居場所づくりプロジェクトはこうして始まった。

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何もかも失った僕が世界を取り戻すまで。 あっちー @atti0309

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