第2話 モブ女
その後、医務室に運ばれた俺は傷を治癒してもらった。
俺が気を失っていた間に、学院内ではアルデン・オーラーンの覚醒の話題で持ちきりだったそうだ。
それもそう、属性の力を有する魔法使いは、それだけで正真正銘の強者に分類されると言っても過言ではない。
これでメインストーリーは問題なく主人公のハーレム展開へと事を進めていくのだろう。
誰も俺の存在を視界に入れてすらいない。
ただのかませ役でしかないからな。
学院から家に帰り、早速とばかりに今後の計画を立てようと企てていた。
一つ問題があるとするならば、それはラルズ・バートンというモブキャラの情報を何一つ知らなかったことだ。
今朝にも思ったことだが、ラルズの家は尋常ではない広さを誇っている。
内観もさることながら外観は巨大な屋敷そのものだ。
モブキャラなのだから、てっきり一般的な平民とばかり思っていたが、それは大きく外れていた。
ラルズ・バートンという人物は貴族の子息なのだ。
「──おかえり、ラルくんっ!」
「わっ!?だ、誰だ!?」
突然背後から女性に抱きつかれて驚いた。
「誰だとは失礼ね。ラルズ愛しのお姉ちゃんじゃないっ」
頬をぷくりと膨らませた可愛らしい顔でそう言った。
確かにラルズの記憶の中で出てきている人物だ。
エロゲには今後ラルズ・バートンに関連する人物は誰一人出てこないから、俺にとってここからは未知の領域だ。
「えっと、ミランダ姉さん……」
「んもーっ、昔みたいにミラ姉って言って甘えてもいいんだよ?」
そう言いながら彼女の方が俺に抱きついてきている。
「あっ、ていうかラルくん。お姉ちゃん前々から言おうと思っていたんだけど、剣はどんな時でも肌身離さず持ってた方がいいよっ」
「えっ、剣……?」
「そう。やっぱり自分の剣を使った方がやる気とかもアップするじゃん?」
姉さんは自らの手に握っている剣を見せてそう言った。
剣……そうだ、俺(ラルズ)は剣を使うんだ。
「てことで、はいっ。ラルくんの剣をもってきたよ」
どこから出したのか、記憶の中で見覚えのある剣を手渡された。
握っただけで妙にしっくりくる感触と、剣を見ただけで湧き上がってくる感情は違和感でしかない。
「……どうしたの?どこか調子が悪い?」
俺の顔を覗き込むようにして見つめてくる。
「もしかして学院で何か嫌なことがあった?ラルくんのためならお姉ちゃんいつでも力になるよ」
「いや、今は大丈夫だよ。ありがとうミラ姉」
「っ〜〜〜///」
またしても抱きつかれ、
痛くはないが幸せな圧力で窒息しそうだ。
ラルズの姉というモブの中のモブキャラにこんな可愛い生物がいるのだから、やはりモブはメインよりも可愛い女の子が多いのだ。
むしろ主人公アルデンよりも大規模なハーレムが作れてもおかしくはない。
──学院の実習講義の一つに、院外の森で行うグループ実習がある。
グループといっても、今回の講義では二人一組のペアで行うものだ。
友人ゼロの人にとってはペアを組む段階で地獄を味わう。
しかし俺は今、一人のモブ女の子に目をつけている。
長い黒髪で顔が隠れており、体型もどちらかというと貧相と言わざるを得ない。
エロゲで度々描かれてはいるものの、終始発言する描写もなければメインストーリーにずっといたわけでもない。
「あの……もし良かったら、ペア組まない?俺たち二人ちょうど空いてるから──…」
「話しかけるなカス。私は一人でやる」
表情こそ前髪で見えないが、明らかに拒絶された。
「や……一人じゃできないんだって。ただの埋め合わせだと思ってもらっていいからさ。………いいか?」
とりあえず距離を置いてあまり刺激しないようにしなければいけない。
まずはペアを組んでもらうところからだ。
「二度も言わせるな。私の前から失せろ」
とても初対面の人に向けて放つ言葉ではない。
だがしかし、俺はここで諦めたりはしない。
ハーレムをつくると決心した男がこんなことで諦めるなんてダサいだろう。
黒髪で隠れた先にある素顔が可愛い女の子であると信じて、俺はただ突き進むのみだ。
胸が小さいのはもう気にしない。
「頼むって!俺はどうしてもきみとペアを組みたいんだ。どうかこの通りっ!なんでも言うこと聞くから」
両手を合わせて切なる願いをアピールする。
「……っ、分かった。自分で言ったことは守れ」
なんでも言う事を聞くという条件の下でペアを組ませてもらえることになった。
隠す気がないのか、堂々と殺気を俺の方へと飛ばしてくる。
実習が始まって早々に「死ね」なんて流石に言われないよな……?
エロゲ主人公のかませ役に転生した俺、モブちゃん達と幸せになることにした はるのはるか @nchnngh
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