第57話 2024年アニメ映画評56・「ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い」
とうとう2024年もラストとなった。本作はトールキン『指輪物語』のスピンオフで、原作および映画から200年前のローハン王国を舞台にする。本編との関わりは薄く、末尾でサルマンとガンダルフが出てくる他は、力の指輪を探すオークや水中の監視者が登場する程度。魔法も殆ど使われない。実写映画もそこまで魔法が闊歩していたわけではないが、本作はそれ以上に影が薄い。とはいえ、奇跡や呪術が完全に消えたわけではなく、神秘に関わる逸話はちらほら語られる。その点で、中世の騎士道物語やエッダの色合いが濃いと言える。アニメーションは抜群だが、リアルな描写が多いため意外に画は地味。後、ちょっと登場人物の心理・行動が分からない点も多い。7点。
ローハンの槌手王ヘルムの娘で主人公のヘラは自由奔放な性格をしている。王国西境には異民族ダンレンディングがおり、その長・フレカは国王の招集に応じ、ヘラの幼馴染である息子・ウルフと王宮を訪れる。フレカは息子とヘラの結婚を求めるが、彼女にその意志はない。野心家のフレカはヘルム王と決闘して殺され、ウルフは復讐を誓って失踪する。ウルフを探すヘラは彼の部下・ターグ将軍に拉致され、監禁先でウルフがダンレンディングの首領になったと知る。彼女はローハンへの攻撃を止めるためウルフへ結婚を申し出るが断られ、味方に救出される。ヘルム軍は、侵略してきたウルフ軍と正面衝突するも仲間のソーン卿が造反していたため敗退。ヘラはソーン卿を殺し、王都・エドラスの民を角笛城(ホーンブルグ)へ避難させるが、エドラスは陥落する。王は負傷し、二人の息子・ハレスとハマは死亡。それにショックを受けたヘルムは昏睡状態に陥る。ウルフに包囲されたホーンブルグでヘラ達は籠城を始め、やがて厳冬になる。ある日、ヘラは寝台から王が消えていることに気付く。その夜から次々と包囲兵が死ぬようになり、王の亡霊の仕業と敵味方で噂される。ヘラは王の寝室で隠し通路を見つけ、城の外、包囲軍後方にて父に再会する。隠し通路から外に出たヘルムは包囲軍の兵士を拳で殴殺していたのである。ヘルムはヘラを正門へ送り届けようとするも包囲軍に攻撃され、娘を守るため門外で戦って仁王立ちのまま凍死する。ウルフが攻勢を整える中、腹を括ったヘラは、ヘルム王の鎧兜を大鷲に運ばせてフレアラフへ救援を請う。その後、ヘラは隠し通路を使って民を逃すと同時に、時間稼ぎのため城内にあった古い花嫁衣装を纏ってウルフを挑発、戦いを挑む。ウルフを退けたヘラは降伏を要求し、ターグ将軍も撤退を進言するが、憎しみに囚われたウルフは将軍を殺害、総攻撃を命じる。その時、王の鎧を着けたフレアラフが軍と共に到着、ヘルムが蘇ったと誤認したダンレンディング兵は潰走する。破れかぶれにウルフはヘラへ襲い掛かるが殺され、戦争は終わる。ローハンの新王にはフレアラフが就き、統治に無関心なヘラは、指輪を集めていたオークについて知りたいと手紙を寄越したガンダルフのもとへ旅に出る。
アニメーションはハイクオリティで、色の美しさ、植物を含む種々のオブジェクトの凝り様は瞠目に値する。中世風の街並み、建築物もとても拘りが感じられ、『指輪物語』の世界が巧みに再現されていよう。手描きの戦闘シーンも動きに重さが感じられる優れたもので、映像の快楽は存分に味わえる。ただ、大量の人や動物が出てくる箇所や象みたいな動物・ムマキルの戦闘シーンなどで使われるCGについてはやや動きが固く、ぎこちない印象がある。手描きがの箇所がいい分、落差が鮮明。また、先述の通り、意外に地味な絵面が続くので、2時間観てるとそれなりに飽きる。アーティスティックな映画と言えば、そうかもしらんが。
ウルフがローハンを恨むのは逆恨みではあるが、勢力の強さに反して異民族ゆえに冷遇されていることを踏まえると、まあ宜なるかな。ただ、ちょっと度を越している感じはあるし、ローランの歴史背景が語られないので、忿懣がどこに起因してるのかは憶測するしかない。そこはもっと突っ込んでくれてもよかったか。
ウルフは感情に身を任せているキャラクターだが、激情とそれに紐づく悲劇こそが本作の眼目で、中世文芸を彷彿とさせる。自勢力の地位を高めようと無理な結婚を強請するフレカに、手加減を知らず決闘でフレカを殴り殺すヘルムと、感情に流される統治者が数多く登場する。そうした感情の爆発は不合理ゆえに人間らしいものだが、本作では激情の果てに死と喪失が待ち受けており、フレカは死に、ヘルムは愛息を殺された上で死亡、ウルフも自軍と自身の命を失う。怜悧に見えるターグも、その実ウルフへの愛着に囚われており、それゆえ王を諫められなかったことが領地の破滅と自らの死を招く。その点で本作は理性と感情の対立を描いていると言え、最終的に生き残り、賢明な者とされるのは、理性的なヘラやフレアラフである。
ただし、ヘラは常に冷静というわけではない点にも注意したい。暴走するムマキルを沈着に処分する手並みや自らの心を抑えてウルフに婚姻を申し出る箇所には理性が感じられるものの、籠城中は父の死を悲しむばかりであるし、冒頭で侍女らに何も告げず外出するなど、奔放なところが見え隠れする。最終的には、指導者として意を固め、フレアラフに助けを求めつつ、自身が囮になるという無茶ながら勝ち筋のある作戦を立案するようになる。花嫁衣装を纏ってウルフを挑発するのも策略的で、ウルフが憎悪だけで動いているのと対比される。ここから、本作はヘラが賢明な王になっていく成長物語と取れるが、フレアラフが王になるという史実があるためか、指導者としての責務に目覚めつつも戴冠を拒否する点にはやや矛盾が感じられる。
また、本作では実利以上に体面が何より重視されている。フレカが結婚を強請する理由の一つは一族の地位に関わるものだし、ウルフにしても沽券を守るために敵討をしなくてはならない面があろう。ヘルムがフレアラフの忠言を退けるのも、臆病者と謗られるのを忌避するがゆえである。名誉欲は現代人並みに中世人も強く持っており、その再現と取れるが、王の位置を捨てたヘラが自由であったと肯定的に描かれ、上記人々が軒並み死んでいることからメンツに拘ることは愚かと見做されているのだろう。
にしても、ヘルムが仁王立ちで死ぬシーンはちょっと意味不明で、娘と一緒に城の中に入ればよかったのにと思った。別に軍がすぐそこまで迫っていたというわけでもなかったし。あと、キャラクターが直情型の人が多いので、そういうもんかと受け取らないと、消化不良になるかも。それにしても、あの大鷲は一体何だったんだ……。
そういえば、主演の小芝風花はかなり上手かった。
2024年アニメ映画評 @Kan_Itoga
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