クロスステップ・ダンスホール

設楽敏

クロスステップ・ダンスホール

黄と黒のバーの手前に立って、僕はその時をじっと待っていた。

カンカンだかファンファンだかよく分からない警告音がうるさく鳴っている。そのうるささと言ったら、目の前の開けた空間を我が物顔で響き回り、その勢いは空まで届きそうなくらいだった。この昼日中から酔っ払っているんじゃないかと思えるような節操のない騒ぎ方だ。それを囃し立てるように赤いライトも行ったり来たり忙しなく明滅している。とんだ乱痴気騒ぎだった。

もう一つのバーの向こう側にも、同じようにその時を待っている人々がまばらに並んでいた。彼らのほとんどは俯いたままで、この騒がしさとは別の世界にいるようだった。己の高潔さを証明しようとする修行僧のようにも見えた。

2つの矢印が点灯し続けている。もう何時間もこのままだ。

僕は座るところのない客席で主役の登場を待ち侘びていた。左右のどちらを見ても、果てしなく伸びる線路と青空があるだけだ。たまにゴーという音が聞こえてくるが、耳をすませばそれが空から降ってきていることが分かり、上を向くと小さな白い点が白い帯を引きながら飛んでいるのだった。

また同じ音が聞こえてきた。しかし今度は両側からだった。

次第に音は大きくなり、ガタンゴトンと段差を乗り越える音が聞こえるようになった。

ついにそれらは現れた。

けたたましい轟音を上げながら、2本の電車が駆け抜ける。警告音なんて目じゃないくらいの、凄まじい音と勢いだった。

駆け抜ける彼らの足音には重量感があったが、すれ違う2本の電車がわずかに異なるタイミングでステップを刻むことで、どことなく軽妙なリズムに聞こえた。

レールの上でステップを踏む車輪は、車両の重さに不釣り合いに薄かった。マッチョな大男がギャラリーのガヤを制圧しながらつま先立ちで踊っている、そんなイメージが脳裏をよぎった。

やがて走り去ると、何事もなかったように警告音が鳴り止んで、2色のバーが持ちげられた。

そこにダンスホールはなかった。

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クロスステップ・ダンスホール 設楽敏 @Cytarabine

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