肉
「お前らって、すごく仲良いよな。」
あの頃から、一ヶ月は経っただろうか。
「お前のおかげで、俺らは恋人になれたんだ。他人事みたいに言うなよ。」
本田と佐川は、恋人になった。
吃驚した。
本田が恋愛で、あんなに笑顔になるなんて。
でも、俺は性格が悪いのかな。
また、本田があの顔をするのを想像してしまう。
いや、俺は性格が悪い。
「あ、忘れ物。広、ちょっとまってて。」
なあ、そうだろう。
「わかった。」
俺の性格が悪いんだろ。
じゃあ、なんで。
「なんで、お前はそんな顔してんの?」
あの時と、そっくりそのままではない。
だけど、俺にはそっくりそのままに見えた。
「あ、いや。」
口角は上がっているけど、瞼が落ちている。
「隠すほど、俺よりあいつの仲の方が上なのか?」
この沈黙が、とても嫌だ。
凡そ、予測はついているよ。
事情が知らないが、不快なことされているんだろ。
「迷惑かけんのは、肉食系とは訳が違う。あの、下劣な女!」
通った道を走った。
左前十字靭帯を断裂して、間もない俺が。
こんなスピード、出せたんだな。
階段もお手の物。
むしろ、段を飛ばしたりもして。
調子がいい時は、二段も飛ばして。
「あれ、あなたも忘れ物?」
出くわした。
友達の彼女だから、ちょっと可愛いと思っていた顔面も。
今は、ぐしゃぐしゃにしたい。
いや、落ち着け。
冷静に話そう。
「佐川、お前。本田との関係はどうだ。」
目の前の首が傾いた。
「私たちが恋人関係だってこと、最も理解しているでしょう。」
息を切らしてることを、謎に思っているようだ。
「違う、そんなことで楽しいか。そう聞いている。」
あいつを、あんな顔にさせて。
「楽しいのかな。まあ、嬉しいよ。素敵な本田くんのことを考えると、責任感は感じるけど。」
白々しい、頭にくる。
「なあ、佐川。お前が忘れ物を取りに行った時に、本田は苦い顔をした。本田の悲惨な過去に残した苦い顔の俤があった。」
声をあげたくなったが、怒りを心臓で煮詰めた。
「申し訳ないね。やっぱり恋愛は怖かったのかな。」
佐川は、頭に爪を立てる。
「あいつも『やっぱり、怖かった。』なんてことを言うような馬鹿じゃない。あいつのあんな顔は、よっぽどの事。少なくとも、お前の記憶に残るようなことだろうな。」
佐川の目線は、俺に合わない。
「正直に言いますが、やましいことがあるんではないかと思ってますよ。」
俺の心臓も高鳴ってしまうのが、馬鹿らしい。
この高鳴りの不快感は、本田のために我慢しよう。
「先走りすぎるなよな……」
本田。
先に帰っているかと思った。
「本田との仲は、佐川より上ではない。だけど、佐川との仲も、本田より上ではない。」
佐川には、ここで。
ちゃんと叱らないと。
「怖気付くなよ。」
彼の目は、強いけれど。
奥に隠しているものが見える。
「なあ、言ってもいいか?」
後ろを振り向くと、表情が暗い佐川。
「私、余命が少ないんだよ。」
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