乳緒

「俺の事を紹介した転校生の佐川さんをわかるだろ。その子の男のタイプ、聞いてくれないか?」

たしか、一週間前ぐらいに紹介したな。

「なんで、俺を経由するんだよ。」

しかも、なんでそんな内容が気になるんだよ。

「ここまで言えば、わかるだろ。俺、あいつのこと。好きになった。」

何を言ってんだ、こいつ。

「まあ、薄々気づいていたよ。だけど、なぜ?」

恋愛なんて、ただの感情の伝えあいで。

それに青春まで賭けるやつは、中々な変わり種なんだがな。

「なんでって、好きだから?」

恍けてんのか、こいつ。

「違うよ。愛華の件。散々言われて、まさか忘れたなんてことないだろうな。」

ちょっと、間が空いた。

口に出さない方がよかったかと心配したが、野暮だった。

「ひとつの恋愛で失敗したら、好きな人に関わるなってか?」

確かに、的を得ている。

だが、そんなこと言える余裕があるとは思っていなかった。

いつもはまともな発言をしないから、少し感心した。

まあ。

本田が本気なら、止めるのは害悪行為だ。

「佐川、お前の好きな男のタイプはなんだ。」

こんな発言、女にしたことないな。

少し緊張している自分が、忌々しい。

「あいつ。既読、早いな。」

よっぽど、暇なんだろうか。

そもそも、学生の本分は勉強。

暇なんてことは、いけないことなんだがな。本来。

「あ?」

既読は早いのに、返信が遅い。

好きなタイプひとつ書くか、はたまた言いたくないことを伝えるか。

そんなの、すぐにできるだろ。

少なくとも、俺がしていた考え事の間ぐらいには返せていた筈だ。

躊躇う理由でもあるのか?

「言いたくないなら、いいぞ。別に言えって、脅しかけてるわけじゃないんだ。」

俺、優しい。

ジェントルマンだな。

おっと、気持ち悪い妄想に励んでいた。

「いや、言う。」

もしかして、女に好きな男のタイプを聞くのは禁句とかあるのか。

そうだったら、俺が悪い。

「本田くんみたいな人が、好き。」

俺と佐川の信頼は、細いもの。

例えるなら、乳緒。

なのに、それすらも切ってきやがった。

こいつ、嫌い。

たった一週間で、言ったことを忘れたのか。

あいつは恋愛で深い傷を。

いや、でも。

本田も佐川が好きなら、幸運ってことでいいのかな。

「本田が好きってことだよな?」

彼女は、すぐに肯う。

「あいつ、お前のことを好きらしいぜ。うだうだするくらいなら告白しとけよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る