4命

嗚呼烏

「ねえ、本田くんって人。私に紹介してくれない?」

芋っぽい女が、そう言ってきた。

正直、嫌だった。

あいつは、恋愛で深い傷を負った。

体の傷はいつか治ることが殆どだが、心の傷はどうにも癒えない。

こんな話を聞いたことがある。

実際、人間は忘れ去ることをできない。記憶の中に存在するファイルは消せないが、開くことが難しくなることならある。

可哀想。

彼は何も悪いことをしていないのに。

中学校生活で、二回くらい好きな人ができた。

それだけで、浮気者と蔑まれた。

一度に二人を好きになった訳でもないのに。

「あいつを、これはまたなんで?」

人間は大きく区別することが好きだ。

ひとつの恋愛で苦い思いをしたら、恋愛自体を嫌に思う。

だから、柔らかく断りたいところだ。

「あの人は、私を救ってくれた人なの。」

救った。

あいつに、こんなに感動されるくらいに人を救った過去があるなんてな。

「どんなに強く願ってても、知らない人は知らないこと。そんなことはわかってる。だけど、あの人に感謝をしたい。」

あれ。

少し、勘違いをしていたかもしれない。

この人は、下心とかではないだろう。純粋に話したいというところか。

「わかった、君のその気持ちを受けとって。紹介するよ。だけどさ。あいつ、恋愛に嫌な経験がある。はっきり何があったというには、俺らの関係値は正直。距離感は考えてあげてくれ。」

俺は、彼女に本田の連絡先を送った。

今の時代、連絡先を送るだけで紹介したことになる。

ありがたいことだな。

こういう世界に貢献してくれた人物と、そこに生まれた自分。

若干の感謝をした。

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