第37話 電気街口

2010年夏、黄色い公園


「と、いうわけなんだ」


ホウクウドは一気に話し終えた。すると、ジロゥ、

「やっぱりホウクウド(推定)どんは、ホウクウドどんでごわしたか」

「うん。でも、その時点ではまだ ”ホウクウド” を命名してなかったけどね」


「ブゥドォー、生まれ変わったのね……」

「うん。レノちゃんの話を聞いてびっくりしたけど……

でも実際、倒したのはチャーナちゃんだったんだね」


一同、ほぼ同時に顔を見合わせて、 

「そうだ、チャーナちゃんを忘れてた!」

谷間さんの遠吠え。 

”うぉおおおお~ん!うぉおおおお~ん!……”


すると突然。目を閉じて考えていた葵さん、

「ホウクウドさん。その不思議な ”黄金の玉” って、今でもあるんですよね?」

ホウクウド即答。 

「あるよ。秘密の場所に隠してあるんだ」

葵さん快諾。

「じゃあ、その得素得裸衣?って力で谷間さんの思い出から

チャーナちゃんを復活できるんじゃないですか?」

それを聞いてホウクウド。諸手を打って答える。

「成程! それはいい考えだ。

谷間さんが一番チャーナちゃんの思い出を持ってるから、間違いないね」


すると谷間さん、黄色い滑り台から降りてきて、涙目で首を横に振る。

”うぉおおおお~ん!うぉおおおお~ん!……”


アンシー曰く。 

「谷間さんはレプリ・チャーナちゃんじゃ駄目なのよ……」

「そうか。難しいなぁ」


するとナンシー長官。

「黄金の玉から妖力が採れれば、

チャーナちゃんが昇天する前に時間移動して救出できるヨン♪」

「そうか、その手があったか。とにかく黄金の玉をだしてみるか」

ナンシー長官、早速。 

「善は急げだヨン♪」

「うん。わかった!…… それでは準備を」 

そういうといきなり全裸に……


レノちゃん疑問

「あの…… 今更驚かないケド…… 何で脱ぐの?」

両乳首に赤い羽根を刺しながら答える。

「実はあの黄金の玉は魔法結界で封印してあるんで解呪する手順が必要なんだ」

「ふ~ん……」

ホウクウドは更に体の右側に女性姿、

左側には男性姿のボディペインティングを施す。

「それってどういう意味があるの?」

「まぁ、見てて……」


黄色い滑り台の最上部に登ると、 

「ミュージック! スタート!」

突然、黄色い公園に鳴り響く…… 情熱の熱い嵐…… ランバダ!


”チャ~ラ、ラララ……ラララララララララララァ~ア”


それと同時に全身をくねらせ、リズムをとるホウクウドの ”ひとりランバダ”……

一同、唖然……  

「こういう大人にはなりたくないわ……」


小一時間を経て、ようやく ”ひとりランバダ” 終了。 

「ハァハァハァ…… もうこのぐらいでいいだろう」

ヘトヘトになったホウクウドは電話ボックスに向かうと、

「次は、¥10 入れて架空の某所に電話するんだ。

そこで秘密の呪文を唱えると横の砂場に宝箱が出現する。

黄金の玉はその中に入ってるよ」


一同、注目!

”ガチャ、トゥルルルル~” 

”はい。こちら萬世署ですが。どうなされますた?”


ホウクウドは大きく息を吸うと、大声で一気に捲くし立てた。

「ウッヒョヒョ~ィ! 黄色い公園ですが…… きぃ○~たぁまぁあああああ!!」


すると、突然! 

ウサギとバイクと犬の遊具がグルリと回転して砂場に注目。

砂場の中央にボンヤリと宝箱の姿が浮かんできた。  

「成功しますた!」

一同、砂場を取り囲んで注視する中、ホウクウドが宝箱を開ける。


「さぁ、ここに黄金の玉が…………って、あれ?…… 無い??」


空の宝箱がポツンと……


するとルーシーがあるものに気づいた。

「待って!ホウクウドさん。なんか紙が入ってるんですケド」


言われてそれを取り出し、白日の下に晒すと…… 

そこに書かれていたのは


” ナーオ!!


ナー君でおます。

さてさて

このたびわけあってナー君は東京を離れましゅ。

飛ばされたはらいせに、いや、栄転のはなむけに

この不思議な ”黄金の玉” を貰っていきましゅが

気にしないでね(おいおい)

猫の杜のPC網でジャンク拾って

チャイナドレスの似合う

巨乳の超美神アンドロイドを

造るつもりですよん。

戦闘能力バリバリにして

辺境の地から世界征服を狙うつもりでやんす。

ジャンカー諸君の健闘をお祈りいたしやす。

ではでは。。


あと解呪手順を

ちょっと変えますた。

あはは…………”


一同、驚天動地!!!

ホウクウド、頭をかきかき

「そう言えば ”伝説のジャンカー、ナー君” にだけは秘密を話していたっけ」


「ナー君ってチャーナちゃんを造った猫の杜の猫さんでしょ?」


遠い目をしていたアンシー、突然思い出して、

「そう…… 確か…… 

谷間さんのダンボールハウスでまだバラバラのチャーナちゃんを見たとき

…… 腰の部分に不思議な玉があったわ」


と、いうことは………… 

万事休す。

谷間さんの遠吠え。 

”うぉおおおお~ん!うぉおおおお~ん!……”


すると突然! 

黄色い公園に横付けする一台のパトカー。 

”キキキキィ~ッ!バタン!”

中から数人のおまわりさん…… こちらを見るなり、


「……また、お前?…… 本当にいい加減にしてよ」


数ヵ月後、黄色い公園


”7時のニュースをお送りします。今年6月に帰還したハカブサが依然周回軌道を

取っている件に関してJAZAから正式見解が発表されますた。それによると

JAZAから再三、着陸信号を送信しているもののハカブサ本体から無視されているとのことで、何らかの制御系統のトラブルが発生している模様です。更にハカブサの今までの周回軌道を解析した結果、地上の何かを探索している挙動を示しており、

この件に関してJAZAでは…… プツン♪”


さて、ラジオを消してと

う~ん、今日もいい天気だぞ、っと


ダンボールハウスからぞろりと出てきた谷間さん

大きく伸びをするとリアカーのハンドルを担いでキコキコ引き始める

公園の出口近くに置かれたドラム缶には旭日ペイントで描かれた


茶穴の碑


チャーナちゃん、じゃ、行って来るからね


軽く微笑みを送ると見慣れたいつもの横道へ

ひとつ折れてジャンク通りを南下

早朝、人影も疎らで空気も冷たい

”ガゴッ!”…… ¥100 の缶珈琲を握り締めてひと時の暖をとる


でも去年の今頃、猫の杜で

避けたはずのチャーナちゃんのハートアタック

今考えると……

一個だけおいらの心臓に直撃してたんだね


だってこんなに胸が苦しい


チャーナちゃんのいない昨日今日…… そして明日

もう慣れたつもりだけど

やっぱりリアカーの上が気になる


軽くなったリアカーを引き南下する


思えば一緒に暮らしたのは秋冬…… 春の数ヶ月

いろんな思い出がのこったけど

夏が来る前にさよならしちゃったから

夏の思い出はポッカリ抜けてる

けど 忘れようとしても思い出せない思い出 だから


また来年の 夏が来れば思い出す


あ、そうだ…… ホウクウドさんが言ってたこと


思い出をかたちにすることは難しいけど

現実の風景はどんどん簡単に変わっていく


でも人が人と出逢って一緒に紡ぐ横糸と縦糸

出来上がった織物に浮かび上がる 思い出のかたち

それはたったひとつの 永遠に変わらない現実の風景 なんだって


おいら難しいことは解らないけど

チャーナちゃんと一緒に歩いた 秋葉の思い出 は

たったひとつの 永遠に変わらない秋葉の風景 だって

今もそう思うよ


でもやっぱり…… 本当は…… もう一度逢いたいな


この広い宇宙で人が人と出逢う確率

そして一緒の時間と場所を共有して

同じ思い出を残せる確率って

ありえないぐらい小さいと思うけど


そんな奇跡を生み出す力は

誰もがみんなはじめっから持ってるって


そしてそれが本当の 得素得裸衣 の力なんだって


ホウクウドさんがそう言ってたけど

おいらもそんな気がするよ


だから…… もう一度逢いたいな


そんな思いを巡らせながらたどり着いた電気街口

アホレ秋葉の開店を間近に控えざわめく人混み


「あれ?…… ここって…… 電気街口」

そうかチャーナちゃんのことを考えてていつのまにかここに来ちゃったんだ

そう…… 最初にチャーナちゃんと逢ったのはここ

でもあの時は秋葉デパートだったけど今はアホレ秋葉

現実の秋葉はずいぶん変わっちゃったな


すると突然! 

青空を引き裂く閃光の流れ星ひとつ

「あっ流れ星だ」


チャーナちゃんに逢いたい

チャーナちゃんに逢いたい

チャーナちゃんに逢いたい


その時奇跡が起きた


突如、流れ星の向きが直角に変化すると秋葉目掛けて一直線


”ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ”


「うわぁあああああああああああああ!!!」

開店間近のアトレ秋葉を直撃! 大破!!


”グァアシャボカァアアアア~ン!!”


崩壊するアホレ秋葉の瓦礫が谷間さんに降り注ぐ


”ズザザザザザザザザザァアアア~”


舞い上がる砂塵の中でリアカーの荷台に倒れこむ谷間さん

その頭上に大量に降り注ぐ何か……


”ザララララッラララララ~”


ようやく砂埃が落ち着くと顔を拭いながらあたりを見回す


「うわぁあ、ペッペッペッ…… 凄いことになったなぁ

でも何だ…… これ?…… 荷台に飛び込んできたけど……」


よく見ると、それは……

荷台一杯に溢れる、食べるラー油


「やぁったあ♪ 3Fのスーパーのかな? 今晩はラー油ごはん食べ放題♪」


ひとつ手にとって狂喜する谷間さん


「うわぁあ~い……って…… あれ?…… でも…… これ、違うよ

何で…… これひとつだけ…… 穢土村さ来 なんだ?」


すると突然

谷間さんの真横からスッとさしだされる手……

顔を向けて見上げると、

逆光に浮かび上がるシルエットは、

巨乳の女性……


「誰?…… あ……」


次の瞬間、

耳元に囁かれる懐かしい声……


「それは大事なものだから…… 返して欲しいの(ハート)」  fin

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思い出のかたち キムオタ @kimuota

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