第36話 ホウクウド
2010年夏、黄色い公園
チャーナちゃん行方不明の報を受け、急遽アンシー、ルーシー、葵さんらが集結。
レノちゃんはルーシーの癒しの力を浴びて修復。
ジロゥは葵さんが持ってきたラーメンを駆けつけ3杯完食。
「…… と、いうわけなの……」
「レノちゃん、元気だしてヨン。秋葉最強のチャーナちゃんだから大丈夫だヨン♪」
あたりを見回してアンシーが尋ねる。
「で、…… 谷間さんはどうしてるの?」
ホウクウド、黄色い滑り台を指差して、
「さっきまで亀太カキピー食べながら茎水飲んでたんだけど、
今はチャーナちゃんが裏書した古文書を咥えて黄色い滑り台の上で吼えてるよ」
”うぉおおおお~ん! うぉおおおお~ん! うぉおおおお~ん!”
チャーナちゃんの消えた空に向かって咆哮する谷間さん。
眉目をひそめるアンシー。
「谷間さんが一番辛いのよね……」
すると、腕を組んでしばし考え込むホウクウド。
「う~む…… 今のレノちゃんの話を聞くと…… ちと、思い当たる節がある」
「ホウクウド(推定)さんのこと…… ヨン?」
目を閉じて熟考。
「うん。それと ”黄金の玉” のこと…… 実は、1999年7月に……」
昔話を語り始めるホウクウド……
1999年7月、その後の黄色い公園
レノちゃんたちとチャーナちゃんがいなくなったその後の黄色い公園。
残っているのはブゥドォーの残骸と黄金の玉……
それに、ズタボロになったホウクウド(推定)さん……
”……こりゃ、まずい…… 全身複雑骨折で身動きできん……”
意識を取り戻したホウクウド(推定)であったが、目を開けるのが精一杯。
すると何処からか不思議な声が…… 心の中に響く。
”すいません…… すいません”
”何だ? 誰が呼んでるんだ?”
見ると目前に黄金に光る一個の玉があるだけで、他に人影は無い。
すると、また、
”玉です…… 目の前にある黄金の玉です”
びっくり仰天! 黄金の玉が心の中に語りかけてくる。
”びっくりさせてすいません。ところで、今は西暦何年でしょうか?”
ホウクウド(推定)は心の中で答える。
”1999年ですが、何か?”
”やっぱり、そうですか…… 200年ぐらい寝ちゃったんですね。
そうすると、もう馬琴さんはいないんでしょうね……”
”馬琴? 滝沢馬琴なら江戸時代の人ですから…… ところで、おたくどなた?”
”あっ、申し遅れますた。わたし、 金星のタマ といいます。”
”……きん……た……○?”
”略さないでください…… 金星からやってきますた タマ です”
びっくり仰天! 黄金の玉は金星人? しかし、ここは冷静に
”金星人さんが、何か?”
”はい。今、起きたばっかりなんで勝手が分からなくて……
取り合えず自分語りを始めますが……小一時間かかりますがよろしいでしょうか?”
”あの…… 全身複雑骨折で逝きそうなんで手短にお願いします”
”わかりますた。短縮版でいきます”
金星人を名乗る黄金の玉は自分語りを始めた……
”…… あれは、今を去ること6600万年前。
まだ地球上では恐竜たちが跳梁闊歩している頃。
花も恥らう私は出会いを求めて 「宇宙バトバスツアー三泊二日 地球の旅」
に参加しますた”
”ごくり…… 凄い話だぞ……”
”しかし運命とは皮肉なもの。直径10kmのバトバス隕石は地球直前で制御不能。
乗員含めた数十人の金星人たちは隕石ごと地球に落下しますた”
”メキシコに堕ちたっていう…… あれか?”
”その衝撃で地球では大規模な地殻変動、異常気象が勃発して恐竜たちは絶滅。
長い氷河期に突入したのです。”
”やっぱり、そうか”
”そしてその時に、
衝突のショックで私自身が 「智慧」 と 「力」 と 「勇気」 の3パーツに
分裂してしまったのです……
分かりやすく説明すると、
智慧 → 黄金の玉、今の私
力 → 可憐な乙女の肉体、依然行方不明
勇気 → バラバラの欠片になって地球全域に拡散
それから 「自分探しの長~い旅」 が始まったというわけです”
”分かりますた。それは大変なことだったんですね。お察しします”
”長い氷河期が明けた後、地球上では多種多彩な動植物が芽吹きますた。
そこで私、黄金の玉は彼らの胎内に宿って、その運動機能を活用。
その代わりに彼ら動植物には知能を与えたのです。
まぁ、イソギンチャクとヤドカリの共生みたいなものですね。
そうして数多くの動植物との出会いと別れを経験しますた。
その経験は貴重な 「思い出」 として私の中に今でも息づいています”
”生命の記憶? ……って、いうことですか”
”そうです。
その 「思い出」 は、思い出をかたちにする力、 「得素得裸衣」 によって
私の 「アビリティ」 に変化しますた”
”得素得裸衣?…… ですか”
”貴方たちの感覚では、ぶっちゃけ、旅の思い出を綴る 「写真機」 の様なものと
思ってください。「思い出」 が 「ネガ」 で、 「アビリティ」 が 「ポジ」 です”
”RPGでいうと、 「経験値」 で レベルアップ するような仕組み?”
”しかし、長い間地球上の隅々を探しますたが、 「力」 と 「勇気」 は見つかりませんですた。ところが今から650万年ほど前、お猿さんの中から貴方たち人間の祖先が生まれたのです。人間は他の動物たちよりちょっとだけ知能が高かったので、私はこれに賭けてみることにしますた。案の定、火と道具の使い方を教えるとメキメキと進化していったのです”
”……それって、神話に出てくるような話…… 神様だったのですか?”
”そして金星からの救助隊に分かるように、古代人たちにバベルの塔やピラミッドを
造らせたり、ナスカに地上絵を描かせたりしますたが駄目ですた。急激な文明の進歩は歪を呼び、古代インドで核戦争を引き起こすような事態になりますた”
”それ…… モヘンジョダロとヴィマナの話?”
”反省した私は暫く身を隠して人間たちの自然な進化に委ねることにしますた。
そうする内、人間たちの中に勇者と呼ばれる特別なものが生まれてきたのです。
興味深く観察するとどうやら彼らは、もと私の一部であった 「勇気」 の欠片を
身に宿していることに気づきますた。そうです、バラバラになった 「勇気」 の
欠片は地球上の様々なところで伝説の武器や防具に変成していたのです。勇者たちは冒険の末にそれらをGETすることでその身に 「勇気」 を宿していたのです”
”勇者って…… お宝探しの元祖ジャンカーみたいなものだったんだ”
”これは面白いと思った私は、あるパラダイムを流布しますた。考えてみてください。おとぎ話では、お姫さまは、なぜいつもいつも魔王にさらわれるのでしょうか?
その度に勇者が助けに行かなくてはなりません…… 変でしょう?”
”まぁ、確かに良く考えると変ですが……”
”実はこれが私の流布したパラダイムです。
人類の記憶に、絶大な力を持つ魔王とさらわれたお姫さま。
それに伝説の武具を携え魔王を倒してお姫さまを救う勇者の存在。
この3角関係を植えつけたのです”
”なるほど…… 神話、伝説の類にもそんなパターンが多く見られる……”
”そうすることで、私自身が不思議な力を持つ魔王とお姫さまを演じます。
すると伝説の武具(=「勇気」)を持った勇者たちが私のもとに集まって
くるのです。
正に 「鴨葱」 状態 …… こうして 「勇気」 を取り戻していきますた”
”つまり人類は踊らされたと……”
”悪く言えばそういうことです…… しかし、
古代中国で 「那托太子」 に転生した私はわけわかめの内に封神されてしまったし、
「ナザレのイエス」 として転生した時は 「ロンギヌスの槍」 に刺されたし、
「仏陀」 になった時は孫悟空に 「如意棒」 で殴られたし、
「八岐大蛇」の時は尻尾を切られて 「天叢雲剣」を盗られたし、結果は惨々ですた”
”……何か…… 良く…… 分かりませんが?”
”そしてもうひとつのパラダイム…… 「羽衣伝説」 というのはご存知でしょうか?”
”はい。 世界中の民話にある定型パターンですね。
天から堕ちた天女が紆余曲折を経て羽衣を取り戻して天に還る話です。”
”そう、広い意味で「堕天使ルシフェル」→「サタン(=古き龍)」のパターンです。
私の最終目的は金星に還ること。それには、金星への過酷な星間航行に耐えられる
だけの 「力」 (羽衣=肉体) が必要です。
ところが、 「力」 (羽衣=肉体) は依然、行方不明”
”よほど頑強な肉体だったのですね”
”そう、言わば 「秋葉最強の肉体」。
しかし、この星の有機生命体の肉体では星間航行に耐えられないことが分かりますた。巨大なクマムシがいれば別ですが……”
” 「秋葉最強」 ……ですか”
”そこで私は寝ながら待つことにしますた。人類が星間航行可能な技術を得るその日まで。そこにある 「升田剣(=マスタソード)」 を目覚まし時計のタイマーにして……って、あれ?
…… 無いじゃん?……”
”そういえば、 「退魔の剣マスタソード」 を探して地下迷宮に入ったところから先、
記憶が無いんですケド……”
”それはともかく。 見ると貴方も有機生命体。 しかも怪我をしている様子ですね”
”知らないうちに全身複雑骨折で…… もう、逝きそうです”
”良ければ助けてあげましょうか? 私の 「得素得裸衣」 の力で”
”そんなことが可能なんですか?”
”はい。 5匹ほどの 「聖獣・魔獣の魂」 を貴方に託しましょう。
そうすれば貴方の生命力は増大して完治するでしょう……
でも、それにはいくつか条件がありますが……”
”どんな条件でもOKですから、お願いいたすます!”
”わかりますた!…… それでは、得素得裸衣!!!”
すると突然!
黄金の玉の上空から5匹の 「聖獣・魔獣」 が出現するとホウクウド(推定)の肉体に憑依した。ズタボロだった体はみるみる内に完治した。
「うぉおお~い!…… 直ったどぉー!!…… ありがとうございますた」
”いえいえ、たいしたことではありません”
ホウクウド(推定)は立ち上がり、直ったばかりの体を確認しながら、
「それで、どういう条件を飲めばいいのですか?」
”はい。
今後、 「聖獣・魔獣」たちは貴方の 「守護獣」 になって様々なアビリティを発揮します。しかしそれには以下の制約があります。
ひとつ。 戦闘時には一切の武器と防具を装備できません。 基本、 「全裸!」 です”
ホウクウド(推定)は考えた…… わし、もともと変態だからいいんでネ……
「わかりますた! OKです!」
”ふたつ。 「聖獣・魔獣」 たちは燃費が悪いので最低、あたちの大盛りかパンジョの番長クラスを常食しなくてはなりません……
かなりの大食いを強いられますが大丈夫ですか?”
それはむしろOK!
「大丈夫です…… あたちの特盛りを予告されてますから」
”最後に。
私はこれからまた長い睡眠状態に入ります。
眠っていても 「聖獣・魔獣」 たちがアビリティを発揮して護ってくれるのですが
強大な存在にそれを悪用される可能性があります。
それで申し訳ありませんが、貴方が私を多くの目に触れない場所に隠して頂けると
ありがたいのですが……
お願いできますか?”
「OK、OK。
泥舟に乗った気で安心してください。秋葉の守護神として貴方をお守りいたします」
”ありがとうございます。
それでは、 「***MAX」 と唱えてください。
そうすれば 「聖獣・魔獣」 のアビリティを 「着装変身」 できます。
それともうひとつ。 「全裸」 で戦う場合は 「忍者」 にクラスチェンジすると
アーマークラスー10で便利です。
貴方はLV1000の忍者にあやかって、「ホウクウド」と名乗ると吉でしょう”
「わかりますた…… 早速…… パワー&素早さMA~Xぅ !!」
全身を半透明の大熊猫が覆い尽くすと同時に背中からバサリと開く一対の大翼……
全裸で徘徊するもの …… ”変態忍者 ホウクウド” ……爆誕!!
「こ、これは…… 凄い…… よし、試しに空を飛んでみよう」
ホウクウドは公園の上空に飛び立つ。しかし、周囲を見回すと、
「あれ…… あれあれ?…… 秋葉の街が消滅してるぅ~、何で?」
”大丈夫。 そこで、 「秋葉の街の思い出」 を心の中に呼び起こしてください”
そういわれてホウクウドは 「秋葉の街の思い出」 を思い起こす。
”得素得裸衣!!!”
すると突然……
秋葉の街並みが積み木細工の様に次々と復活していった。
「得素得裸衣って、「人の思い出」 もかたちに出来るのかぁ~」
”そうです。だから悪用されると危険なのです……
ちょっと力を使いすぎたようです………………
私は一眠りしますので、後はヨロ…… Zzzz”
ホウクウドは黄色い公園の真ん中に降り立つと、
「それはそうと、上から見て分かったけどバラバラの残骸ってブゥドォー?」
残骸を眺めながら歩くと、金色に光る妙なものを発見。
「……あれ?…… これって、激レアの ”金色外装のPTPC110” だ!」
手にとったものは確かに、 ”金色外装のPTPC110” (実在します)
……しかし、フリーズしている。
「再起動してみるか…… オイショ!」
電源表示ON、起動OK!
「動くかな?…… wktk」
256色カラー液晶が点灯する。黒い画面に白い文字で、
起動しますた
システムが破損しています。修復しますか (Y/N)
「当然、 ”Y” を…… ポチッと」
*****>>>修復できません
*****>>>修復できません
*****>>>修復できません
*****>>>修復できません
*****>>>修復できません
*****>>>修復できません
「駄目かな…… こりゃ」
レノちゃん乙女の秘密>修復中
「あら?…… これは?」
レノちゃん乙女の秘密>修復中
レノちゃん乙女の秘密>>修復中
レノちゃん乙女の秘密>>>修復中
レノちゃん乙女の秘密>>>>>>>修復完了!
・
・
お姉ちゃんたちの思い出>修復中
「これは、でかいファイルみたい……」
お姉ちゃんたちの思い出>修復中
お姉ちゃんたちの思い出>>修復中
お姉ちゃんたちの思い出>>>修復中
お姉ちゃんたちの思い出>>>>修復中
お姉ちゃんたちの思い出>>>>>修復中
お姉ちゃんたちの思い出>>>>>>修復中
お姉ちゃんたちの思い出>>>>>>>修復中
お姉ちゃんたちの思い出>>>>>>>>修復中
お姉ちゃんたちの思い出>>>>>>>>>>>>修復完了!
・
・
システムを起動いたすます
「やったぁ!……」
サァーっと画面が明るくなると、起動メロディが流れた。
♪モエモエキュ~ン♪
「こりゃ、変わってるぞ!…… Windowsじゃないみたいだし」
画面にPC名を入力するウインドウが開いた。
PC名を入力してください:┃
ホウクウド、ちょっと悩んでから入力。
PC名を入力してください:萌臓
「今日からお前の名前は ”萌臓” だからヨロ!」
すると突然!萌臓の内臓スピーカーから元気な声が、
「初めまして、僕は萌臓。今後ともよろしく♪」
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