第35話 星への帰還
チャーナちゃん、必死!
「ブゥドォー、何いうとるんや。
これ、わいの思い出やんか。おのれの思い出ちゃうやろ」
それでも納得しないブゥドォー。
「だって僕、みんなに虐められるから。思い出の造り方…… 知らないもん……
だから、みんなから思い出を分けてもらうの。
いいでしょ? 返事は聞いてないし」
優しく諭すレノちゃん。
「それは違うわ!
思い出はみんなと一緒に造るもの。決して人から奪うものじゃないわ……
ブゥドォー、あたしたちはもう友達なのよ」
「そうでごわす。 喧嘩するほど仲がいい友達でごわす」
「ともだち○こ……って、言ってみて」
少し間をおいてから、
「……・と・ともだちん……
うわぁああ~! 僕の友達は動物さんたちだけ。お姉ちゃんたちとは違うもん……
僕、僕、何がなんだか分からないよぉ~」
困惑して真っ赤になったブゥドォーの頭に ”ねじり鉢巻” が出現!
「タコさん、力を貸して」
USBケーブルの吸引力がUP。
”ズゥォオオオオ~”
「うおおおお! こりゃたまらん~! もう無理…… 谷間さ~ん!」
その時奇跡が起きた。
今朝、
谷間さんがチャーナちゃんのHDDにインストールした ”ワクチン” が
ブゥドォーを ”ウイルス” として認識したのだ!!!
”ウイルスを発見しますた。除去いたすます!”
USBケーブルを通して強力なワクチンがブゥドォーのHDDに強制介入。
「うわぁあ~!なんか変なのが入ってきて僕のHDDを荒らしてる~」
”不正ファイルを消去いたすます! 消去いたすます! 消去いたすます!”
「うわぁあ~ん! 今まで秋葉の人たちから貰った思い出を勝手に消してる~」
1999年。
この時代のワクチンであればもはや機械生命体にまで進化したブゥドォーの敵では
ない。が、しかしチャーナちゃんのHDDにあるワクチンは ”2010年VER”。
流石に10年未来からきたワクチンは解析不能なのだ。
ブゥドォーは手も足も出なかった。
「やったわ! 見て、ブゥドォーが苦しんでる」
「ブゥドォーって、ウイルスだったんでごわすな」
「わけわかめだけど…… 谷間さんの思い出は護ったど~」
「そうだ!……
チャーナちゃん、谷間さんから貰ったワクチン入りのUSBメモリー、
今持ってる?」
「豊満な胸の谷間にしまってあるケド…… どうすんの? これ」
「ちょっと待ってて♪……
ね、ジロゥ。グルグル巻きにされてるこのUSBケーブル解けない?」
ジロゥはムズムズと体を震わす。
「そうでごわすな……
ブゥドォーが気を抜いてるせいで少し緩んでいるでごわす……
これなら、大丈夫かと」
そういうと、ムン!と一声。体を巻いているUSBケーブルを引きちぎった。
その後、レノちゃんのも同じく引きちぎる。
自由になったレノちゃんは神速でチャーナちゃんの傍に近寄ると、
「おまた!…… えーと、あっ!これね♪」
豊満な胸の谷間から ”ワクチン入りUSBメモリ” を取り出すと、
それをチャーナちゃんの残ったもうひとつの鼻の穴にぶち込む。
「えい!」
”ズボッ”
「フンガァアアア!!(なにするねん?)」
「チャーナちゃん、ごめんね♪
あのね…… 今、ぶち込んだUSBメモリーの中のワクチンを、ケーブルを通して
ブゥドォーにインストールしちゃって」
なるほど…… それは手っ取り早い。
チャーナちゃん全力で、
「フンガァアアア!!(ラジャ!)……
フンガァラーラ!!(インストール!)……」
すると、どうだろう?……
USBケーブルを通して ”銀色の光” がブゥドォーに突き刺さる!
あたかも、 ”魔王の動きを止めるため放たれた銀の矢” の如く。
「うわぁあ~ん!もっと凄いのが来たよぉー!!!」
戸惑うブゥドォー。 暗灰色だった体が少しずつ白くなっていく……
「見て!効いてるわよ♪」
「外部からの物理攻撃には無敵なブゥドォーも、システムCOREへの直接攻撃には
無防備でごわしたな…… しかも、未来からの攻撃では」
「フンガガガ、フンガッガ (谷間さんが助けてくれたのね♪) 」
ワクチンはブゥドォーのシステムCOREのあらゆる不正なものを次々と消去していった。そのためシステムを維持できなくなり、
「駄目だぁ~ 浄化されていくぅ…… 僕、 フ・リ・ー・ズ……す・る・よ・」
蠢いていたUSBケーブル群も力を失った。
灰色だった目玉の回転も停止した。
体色は真っ白になり、うな垂れた姿勢で……
ついには機能停止。
この機を逃さず、レノちゃんが叫ぶ!
「チャーナちゃん、今よ! 升田剣でブゥドォーを封印するの」
チャーナちゃん、鼻のUSBを取り外すと大きく深呼吸。
「ラジャッ!!」
ホウクウド(推定)さんに近づき、それをムンズと鷲づかみ。
下段に構えると低い姿勢で力を溜める。
大きく弧を描くようにゆっくりと、自らを中心としてそれを回転。
”グルグルグルグルグルグル……”
”うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーー!!”
高速回転を伴ってブゥドォーに突撃!
”ガガガガガガガガガガガガガァアアアーン!!!!!”
砕けて飛び散るブゥドォーの上半身……
と、甲冑装甲???
「……チャーナちゃん、それって思いっきり違くネ?」
「……升田剣では…… 無いでごわすよ」
チャーナちゃんが振り回していたのは、ホウクウド(推定)さん……だった。
ボロボロになったホウクウド(推定)さんを公園の片隅に無造作に投げ捨てると、
「いけね…… 間違っちゃった…… スマソ」
「首と手足がありえない方向に折れ曲がってるんですケド」
「生きてるで…… ごわすか?」
「……2010年には現存してるんで、大丈夫かと…… ただし、本人ならば」
それはともかく。
「チャーナちゃん、升田剣を振り回しては駄目よ♪」
「どぼすれば良いのですか?」
ちょっと言いにくそうなレノちゃん。
「……刻印にあった様に…… ”たま” に…… 刺すの」
「良く分かりませんが。目玉ですか頭ですか?」
更に言いにくそうなレノちゃん。
「……あの…… その…… ”黄金の玉” ……よ」
「勿体つけて無いで、はっきりしてください。
それは何処にある何という名称の玉ですか?」
容赦ないチャーナちゃんの追求に顔面真っ赤……
この機を逃さず。更に追い込む怒涛の勢いのチャーナちゃん。
「さぁ! ここはひとつ。ハッキリスッパリ 言い切って頂こう!!」
蚊の無く様な小さな声で、
「……股間の……」
「股間の?…… もっと、大きな声でお願いします!」
「……き……」
「き?……」
「……ん……」
「ん?…… 聞こえんなぁ~ 続けて!」
「きぃ○~たぁまぁあああああ!!」
キタァアアアアアー!!
この時、チャーナちゃんのHDDに新たな思い出が記録された。
”レノちゃん乙女の咆哮(高音質).mp3”
「うあ゙ぁああ゙ぁあぁ゙ああぁぁうあ゙ぁあ゙ぁぁ」
「鬼畜でごわすな……」
「ハッキリスッパリ分かりますた。
ブゥドォーの股間にある○玉に深々とブッ刺してやれば宜しいのですな。ズブリと」
「チャーナちゃんの馬鹿~! どっか逝っちゃえ~」
言葉責めに完全勝利した余韻も覚めきれぬまま、
チャーナちゃんは升田剣を拾うと、頭上に大きく振りかざす。
すると突然、升田剣が黄金の光を放ち敢然と光輝く。
「チャーナちゃんの勇気に升田剣が反応してるでごわす……」
下半身を残して微動だにしないブゥドォー……
神妙な面持ちのチャーナちゃん。
「あと10年…… 遅く生まれてくれば、いい友達になれたかも……
…… ここでお前を斬らねばならぬとは、まこと未練よのぉ……」
呼吸を整え静かに剣を降ろし、下段に構える。
「秘剣、諸刃流睾丸崩し!!…… 参る!」
低い姿勢から飛燕の如く滑走。そのまま升田剣を突き出す。
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨…… ズブリ! ズサー!
升田剣は下半身ごと黄金の玉を貫通した。
すると突然! ブゥドォーの下半身が一瞬、金色の光に包まれる。
”ポポポポポポポヮァァアアアア~ン……バゴァオオーン!!”
爆発四散!……
もはやブゥドォーの原型は消失し、黄金の玉だけが残った。
「やったわ♪」
「ブゥドォーの最後でごわすな」
立ち上がり砂を払うと、振り返りレノちゃんたちのもとへ。
「ブゥドォー! 生まれ変わって出直せぃ!」
すると突然! 数本のUSBケーブルがもぞもぞと蠢き升田剣に絡むと、
それを黄金の玉から抜き取る。ブゥドォーに連結していた副脳のひとつが
最後の力を振り絞って升田剣をチャーナちゃん目掛けて投げつけた!!!
「危ない!チャーナちゃん!!後ろ、後ろ!!」
レノちゃんの叫びに振り返るものの一瞬遅れて、升田剣が尻に深々と突き刺さった。
ピュー! ズブリ!
「大丈夫?」
「油断大敵でごわすな」
すると突然! チャーナちゃんの下半身が金色の光に包まれる。
”ポポポポポポポヮァァアアアア~ン……バゴァオオーン!!”
尻に升田剣を突き刺したまま、その場に立ちすくむチャーナちゃん。
良く見ると両目がグルグル縦に回転している。
「……チャーナちゃんが…… 変よ!」
「……B96、巨乳、OK。W58、OK。H83、OK」
「……何か言ってるでごわすが?」
「……HP999、OK。MP999、OK。LV1、OK」
「……チャーナちゃん?…… どうしたの?」
「……有機複合素材確認。某工業製バイブ機能確認」
「……ねぇ、返事してよ」
「……真空強度確認。高低温強度確認。耐放射線強度確認……」
「…… チャーナちゃん?」
どこからか…… 鳴り響くファンファーレ!!!!!!
「完璧です。すべてのチェックに合格しますた!!」
不敵な笑みを浮かべるチャーナちゃん……
なんと! 両目が金色に発光している。
「こんなチャーナちゃん、見たこと無いわ!」
「金目教でごわすか?」
レノちゃんたちの方には意も介せず、諸手を大きく挙げてチャーナちゃんが叫ぶ!
「得素得裸衣!!」
驚天動地!!「えすえらい??」
すると、突然!
チャーナちゃんの頭上から間欠泉の如く、大小様々な動植物たちが飛び出した。
”ズオオオオオオオオオオオ~!”
鳥や獣。魚や昆虫。はたまた草木や花……
地球上に溢れる様々な動植物たちが黄色い公園狭しと満ち溢れる。
彼らは皆、チャーナちゃんを中心にして集合。異口同音に、
「姫さま、おめでとうございます」
「姫皇女さま…… 感無量です」
「姫皇女さまの立派なお姿」
「わしら全員、この日をお待ちしておりますた」
「うぉおお~い! 涙が止まりません」
チャーナちゃん、一同を見渡し、
「皆さん、ありがとうございますた。これでようやく星に帰れます」
「星~???…… 帰る???」
動物さんたち一同、万歳三唱
「万歳~!!」
我に返ったレノちゃん、真顔で、
「何、言ってんのよ!
もうすぐ一緒に2010年に帰るんだからね! 寝ぼけてんじゃないわ」
傍にいた動植物がいぶかしげにレノちゃんたちを見て、
「ウサギさん、豚さん?」
しかし、そんなレノちゃんの叫びもチャーナちゃんには届いていない。
「さぁ、出航です!」
すると突然。真夏の昼間にもかかわらず空がサァッと暗くなり星空に変わった。
満天の星空の下、チャーナちゃんの頭上に三つの正三角形で構成されるミツウロコ紋のような紋章が出現。それはキラキラと黄金に輝く。
動植物さんたち一同
「姫皇女さま。わしらも一緒にお供いたします!」
すると、チャーナちゃんの尻に刺さっていた升田剣がニョキニョキと伸び始め、
巨大な黄金の樹の幹になり枝になった。
その一番上にチャーナちゃんが居座る。
動植物さんたちは我も先にその枝の一本一本に取り付くと、
赤や黄色の色とりどりな星に変わっていった。
そう、それはキラキラ星に飾られた真夏の巨大な ”クリスマスツリー”
「……なんて綺麗なのかしら…… はっ、チャーナちゃん!」
一番上のチャーナちゃん、星空を仰いで歌いだした……
♪
Shalom, Chaverim! Shalom, Chaverim! Shalom, Shalom!
lehitraot, lehitraot, Shalom, Shalom!
それを聞いたレノちゃん突如号泣!
「駄目ぇー! 絶対、駄目ぇー!
どっか逝っちゃえなんて言ったの嘘だから……
もうチャーナちゃんのことおばんとか妖怪とか奇怪生命体とか言わないから……
乳だけデカい頭空っぽの馬鹿女(笑) なんて思っていても絶対言わないから……
下ネタだって言葉責めだって怒らないから……
あたし、本当はチャーナちゃんのこと大好きだから……
だからお願い…… 何処にも逝っちゃ駄目ぇーーーー!」
願い空しく……
”ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……”
次第に上昇しはじめる真夏の ”クリスマスツリー”
「いっちゃ、やーーー!!」
神速で空中に飛び出すレノちゃん。
チャーナちゃんを掴もうとするも不思議な力に遮られ跳ね飛ばされる。
”ビシッ! バシッ!”
跳ね飛ばされたレノちゃんをジロゥがキャッチ。
「ジロゥ! チャーナちゃんを連れ戻して!」
「わけわかめな力が働いていて無理でごわす……」
「チャーナちゃぁーーーーーーーーん!!」
すると突然!
はるか遠くから聞こえる汽笛の音!
”ブゥゥォォオオオオオオオーーーー”
”ガタ、ゴト……ガタ、ゴト、ガタゴトガタゴトガタンゴトンガタンゴトン……”
定刻になった ”時渡りの汽車” が、レノちゃんたちを迎えに来た。
「レノどん。 ここは一旦2010年に戻って考えるでごわすよ」
駄々を捏ねジタバタと暴れるレノちゃん。それを押さえるジロゥ。
「やー! チャーナちゃんと一緒に帰るのー!」
”ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……”
更に上昇していく真夏の ”クリスマスツリー”
力ずくでレノちゃんを引きずり汽車に乗り込むジロゥ。
「おいどんたちも帰れなくなるでごわすよ」
「ややや、やー!…… ジロゥの馬鹿ぁ~!」
”デンデンデンドロドロドロドロ…………プゥオオオオオーーッ”
公園のアスファルトグラウンドがメキメキとひび割れ、
ゆっくり地中に沈んでいく ”時渡りの汽車”……
レノちゃんとジロゥを乗せて2010年へ帰還……
一方、
チャーナちゃんを乗せた真夏の ”クリスマスツリー” は満天の星空の中へ
どんどん上昇して逝く……
次第に空は明るさを取り戻し、再び夏空へと変わる。
数分後
地球を周回する各国の軍事衛星はほぼ同時刻に大気圏を抜けて上昇する
不思議な物体を観測した。それは巨大な樹を彷彿させるもので ”クリスマスツリー” という表現が一般的であったが、 ”セフィロトの樹” とも ”ユグドラシル” とも ”世界樹” とも形容された。
しかし、極一部の記録には ”総裁Xの帰還” と形容された……
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