1780、リフォームタウン・ピープル

 

 1780話、書き手と聞き手。さてどこから話そうか。

 

 ……うむ、最初から話そうか!ではではオホン。


 とある日に私は、まだ名も知らない街の中心で噴水をみて感動していたんだ。ようやく休めると思って安堵して、肩の荷が下せると、背負った荷物を降ろそうとしたんだけどね。

 そしたらなんということだろう、謎の男クンが私の胸に飛び込んできたではないか! あつーい抱擁をして、なだめ諭したところで、ようやく観念してくれた。きっとここから面白い話がたくさん聞けることだろう!あぁぁ……愉しみだっっ!


 おい待て!オレは宥められてねえし諭されてもいねぇ!この化け物女が!

 俺はお前がこの件の元凶じゃねぇかと思ってたんだよ!でもなんかそうじゃねぇ気もするし……あぁもうわかんねぇ!


 はぁ、口が悪いねぇ……私は化け物じゃなくて魔女だよ。


 つーか、あんたが言ってた魔導ってのは、なんなんだよ。


 魔導は自分の求める結果を導く邪な業さ、悪い心理テクニックって言えば伝わるかい?


 ほーん、なるほどな。

 

 さてと前回の続きだね、話していくから行儀よくして聞くんだぞ~!

 

 あ?誰に言ってんだ?つかどこ向いてんだよ。

 

 ――――――――――――――――

 町の噴水広場で二人が佇む。男は肩身を震わせ魔女を睨み、叫んだ。

「おまえなんなんだよ!何がしてぇんだ一体!」

 表情は怒りを見せるが、その瞳にはどうしようもないことに対する恐怖がしまわれていた。

「大丈夫さ少年、そんなに焦らなくても全部教えてあげるから」

 どこまでも優しげな顔をし、声色もその心に安寧を宿さんと男に侵入していく。撫でるような優しさではなく、根を張るように、奥まで掴んで離す気のない優しさだ。転じれば狂気、妄信……在り方を歪めかねないその魔導は彼女の気持ち一つで大きく揺らすだろう。

 

 噴水の前でのやりとりは、反対の人々には聞こえない。町一番のシンボルは、どれだけ大きな声であっても人である限り、叩く水音には及ばない。


「スゥー……ふぅ、あーやることねぇ~。暇すぎだろこれ、この街もう制圧済みなのはいいんだけど、やることねぇからといって町出るわけにはいかねぇしよぉ。っチどうすっかなぁ」

 シスターは修道女を意味し、姉妹も意味する。その女は一見しても修道女のそれだった、ウィンプルを被り修道服を身に纏う、ごく普通の町民。その顔は、色の違う瞳が左右に充てられ、髪の色が中心から分けられていた。

 少女然とした佇まいをし、老女のような動きで噴水のへりに腰掛ける。口にはたばこ状のココア菓子を咥え、シスターは喫菓子ていた。

 

 「時層設定、アルビアンサズ」

 虚空よりの声があった直後、モノクロに空気が震え、噴水より消失した飛沫が再び粒を形成する。雫は大きくなっていき、人を形作った。それは球体関節をもつ人だった。それ以外に見られるのはごく普通の人としての特徴でしかなかった。この街にいてもなんら不思議でないごく普通の女性、ただ球体関節であるだけの人だった。


 「おー来たかよ」

 噴水の縁に両手を付けて腰掛けたシスターが、隣に声をかける。

 球体関節の人は、青いとんがり帽子を被った童女を伴っていた。


 「あなたには今しばらくここにいてもらわなければならない理由がある。それはまだ覚えているでしょう?」

 物言いは無機質ながらも、抑揚は正しい。その声は模倣に近く、作られたもののように聞こえる。


 「覚えてるも何も、仕事だろ。命令なんだし忘れるかよ、オレはもっと暴れて壊してぶちまけたいんだぜ?それを我慢してんだからよ」

 「それなら言うことは何もありません。ヘミリカ、くれぐれも余計なことはしないように」

 「あいよ、わーってるってのー」

 「コンプレギス物質の支配者、足元お気をつけて。行きましょう」

 球体関節の女は童女に声を掛け、ヘミリカに大した話をすることなく、噴水から離れていく。


 「クソ、粗製乱造の機械人形グランギニョルのくせにオレを座標のアンカーにしやがって」

 悪態をつきながらも、ヘミリカは立ち上がり、噴水を後にする――。


 ――――――――――――――――


「うーんそういえば少年、君の名前を知らなかったね。物語を綴るためにも、君の名前を教えてくれないかい?」

 思い出したように男に名乗るよう、ただ問いかける。だがそれはファブラの前では強制となってしまう。望んだままに人を手玉に取ってしまう。魔女は小賢しく、そして魅力的だ。

 そのうちのどれが男に作用をしているのか、魅了魔術であるのか魔導であるのか、はたまたそのどれもであるのか、とにかく男には名乗らないという選択肢を与えなかった。

「リエルだよ……」

 不本意に言わされたことは不服だろう。

 敵だと思っていた相手、違うと思った矢先に、対応も考えを改める機会をも失って、謝ることもできず気持ちの整理を付けられなかった。

 勘違いでしたとすみません。その一言は機会を流されて、どういう顔をすればいいのかも、どんな態度を取ればいいのかもわからなくなった。

 唯一少年にできたことは、未熟な心で唇を噛んで、名を差し出すことだけだった。

 

「うーんインパクトに欠けるなぁ……ガブガブ!ガブ!ガブリエルって名前はどうだい?」

 両手を顔の横に並べ、噛みつく仕草を見せつけながら、少年の気持ちなどお構いなしに魔女は名前で弄ぶ。

「てめぇ!人の名前で遊んでんじゃねぇ!勝手に天使の名前にするんじゃねぇよ!」

 魔女は意外だといった風に驚いた顔をする。わざとらしくも見えるが、それくらいするものだ。本心であろうがなかろうが、そういう性質であるのなら。

「教養があるねぇ……まぁいいさ、それじゃ君の言っていた”元凶”について教えてもらえるかい?お姉さん早く聞きたくてうずうずしているんだ!」

「元凶の事とか言ってねぇだろ……何勝手に人の考えとか読んでんだよ気持ちわりぃ……。けど、あんたになら言ってもいいか」

 僅かな逡巡の後、リエルは自身の境遇を交えながら街に関わる異常について話始めた。


「半年くらい前だったか……。食糧を調達しに店へ向かう途中、何を作るか考えながら歩いてた時うっかり人にぶつかっちまって、咄嗟に謝ったんだが……その相手が妙だったんだ」

「ほう、妙とは?」

「袖から見えた肘……腕の関節が、人形みたいだったんだ――」

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描く魔女の物語 電子サキュバスショコチャ @swll

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