描く魔女の物語

電子サキュバスショコチャ

虚構の命、書き手と聞き手


 ある日ある日の出来事です!

 その日歩いた道行きで、出会った一時の物語。

 私はそれらをまとめて紡ぐ、夢見て起きて、また描く。

 

 今日は何があったかな?


 ――――――――――――――――――


 「初めましてこんにちは!私は物語を紡ぐ旅の魔女、ファブラ・フィクトゥス・ブバルディさ!」

 着いた街の中央に私の発した声が轟いた。きっと背後にある噴水にも負けていない。そのはずなのに、道行く人々は一瞥するものの、顔色悪く過ぎ去っていく。


 「おやおや?みんな元気が無いようだねぇ……どうしたことだろうか」

 顎に指を当て首を振り、とんがり帽子の先端を揺らしながら、悩んだ振り。そう、こうして訳知り顔の住民が声をかけてくれることを狙って、愛らしい魔女の私はこうしてチャーミングにチャームするのだ。もちろん魅了魔術なんか覚えていないので、旅行く中で見出した賢い魔女の知恵ってやつさ。そうしたらほうら、誰か近づいてくるぞ!


 「しねぇえ!」

 ゆっくり近づいて、目の前に着た瞬間その男は刃物の先をこちらへ向けて突撃をしてきた。


 「おっと?よしよしどうしたんだい、おねえさんの胸に飛び込みたい年頃だったのかい?それとも何かな、つらーい悩みでもあったのかい?なんでも言うといい……っ!吐露するんだっ!君の苦渋を奥底まで!私は全て物語の糧……。もとい、君の心が晴れるためにすべて受け入れるからっっ!!」


「え……?え??なん、え??」

 男は呆気にとられており、何が起こっているのかわからずにいた。それもそのはず、男が構え、突撃した先には、黒い衣服を身に纏う一見するとただの女。当然、虚を突いた男の攻撃は避けられることなく、閃刃が腹部を裂き貫いたはずなのだ。感触もある。


「どうしたんだい?ん?おねえさんにいってごらん?」

 何事もないかのように振舞う女。それは魔女で、攻撃を無力化している。そんなことは一般人の男には理解できない。だってついさっきこの街に来た、何の事情も知らないただの女なんだから。その微笑みが、男は理解できない。間違いなく腹部は貫いている、痛みがあるはず。なのになぜ平気そうなのか。


「そっかそっか、そんなにおねえさんの抱き心地がいいんだね。いいよいいとも、好きなだけそうしたまえよ」

 おねえさん役に酔い、あるいは先生のような相談役に入りきったファブラにはなんの攻撃も効きはしないのだ。それは彼女が物語の魔女であるからこそで、そしてその性質は彼女が制御できるものでもない。だがファブラがその性質を知らぬわけでもないので、自信たっぷりに「どうせ自分は死ぬことはない」と信じている。それが不死性を与え、そのせいで自分が主人公では居られない。物語の魔女なのに、物語の主人公になれない。そう思っている。

 彼女は書き手が主人公になる物語を知らない。だから、自分が主人公になりえない物語の中で、自分が登場人物に殺害されることも考えてはいない。飽くまで聞き手で、登場人物に助言をして、どう転ぶかを見るだけなのである。


 


 

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