愛罪

渡谷澤楓

第1話佐倉と志野

「今日は特に寒いですね」

ブルっと身を震わせながら佐倉芽衣がつぶやく。


「それはそうでしょう。11月にもなってるのにそんなペラペラのコートなんて着てるんだもの。見た目よりも私を見習ってベンチコートにしたら?」


「志野さんな~んも分かってない。こんなかたっ苦しい青い制服着てたらコートくらい可愛くなきゃ。ただでさえ街の嫌われものだもん、見た目くらい好かれたいじゃないですか。」


本当にこの子は能天気だなと私は考える。

確かに警察官は子供くらいにしか人気のない職業で毛嫌いする人も多いだろう。

むしろそのくらいが私は心地が良い。

それなのにわざわざ好かれようとする芽衣の気持ちが分からないのだ。

それに芽衣は顔が抜群に整っているのだ。

何を着てても目に留まるだろう。


「志野さん、なーに黙りこくってるんですか〜。寒いから早く車で帰りましょ〜。今回もいたずら電話で収穫なしだし。報告だけしてちゃちゃっと飲みいきましょうよー!」


「今日は奢らないからね?」

「そこをなんとか、、、!」


まったく、、、。頬を緩めながら憎めないやつだなと思いながら車に乗り込む。


署に戻り簡単な報告をし終え、2人でよく行く居酒屋へ向かう。

2人とも酒は強くないため長居することはめったにないので仕事終わりの一杯程度のつもりで暖簾をくぐる。


「てか志野さん、やばい話あって。聞きたくないですか?」

普段愚痴ばかりの芽衣が急に話を変えてきた。


「あんまり聞きたくないけどどうせ話すでしょ」


「私の良き理解者だなあほんとに志野さんは。もう話すテンションになってました。」


「ほんと調子いいんだから芽衣は。聞くよ。」


「志野さん、この子みたことあります?」

芽衣はスマホの画面をこちらに向けてきた。

そこにはランドセルを背負っている少女が笑顔で写っている。


「可愛らしい女の子ね。見たことないけれどこれのどこがやばいの?」


「あ~志野さんってSNSとか見ないタイプでしたよね。そりゃ可愛いだけに見えるか。じゃあ、問題です。この子は何者でしょうか!」


「急に出題されても困るなあ。何者って、どこかの小学校に通ってる普通の女の子じゃないの?画質的にも最近の写真のように見えるし、ランドセルも綺麗なベージュで昔はなかったもの。」


「うわー、やな観察眼ですね。職業病ですよそれ」

「うるさい子ねほんと。」


「もう面倒だから答えいっちゃいますね。この子は、佐藤美琴ちゃん。正体は快楽殺人犯です。」



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