社会不適合者の姉

@suika666

1話

俺には姉がいる。


年齢は29歳だ。


見た目は普通。スタイルも普通。性格は楽天家。


特に見た目が不潔で汚らしい訳でも明らかなコミュ障で人間関係が構築できない訳でもない。


だが俺は思う。この姉は、社会不適合者だと。




俺は薬学部に通う大学一年生で姉とは9歳年が離れている。一人暮らしをするお金もないので実家から通っており、まぁまぁの田舎なので車で通学している。因みに車は中古で親が買ってくれたものだ。

自身の勉強の頑張りもあり高校も県内で1番の所に通っていた。

現在ではバイトもしながらコツコツと稼いだお金を貯金して口座には60万くらい貯まっている。

たまに友達と旅行に行ったり、ご飯を食べに行ったりして学生生活を謳歌しているつもりだ。



俺は自分のしてきたことが大してすごいことだとは思わない。いや、それなりに勉強は頑張ってきたつもりではあるが、そんなの他にも出来ている人は大勢いる。これといって秀でた人間ではないと思っているつもりではあるが、しかし、どうにもこの姉という存在が近くにいると、俺は自分が優れた生き物なのだという実感を得てならない。


姉という生き物は、本人は自由人を謳っているがその実、だらしのない人間だった。


姉は看護師免許を持っており、新卒で病院で働いていたが、始めに勤めた所を3ヶ月で辞め、ニート生活を挟み、別の病院に勤めだしたが2年で辞めた。それからは派遣看護師として全国を飛び回っていたらしいが3年もしたら実家に戻って来た。それからは異業種派遣の仕事を見つけては辞め見つけては辞め、両親も何度も出入りする姉に再三説教するものの、何故か姉はまた繰り返す。

ある時は借金を作って帰ってきており両親二人に詰められて号泣していた。


しかし懲りずにまた繰り返す。


自身の持論を展開し今度は何とかの仕事だから大丈夫だ、給料はいくらだから長続きする、など散々言い散らしていてもすぐにやっぱり仕事が気に入らない、あんなことするとは思わなかったと言って帰ってくる。


いい加減学ばないのか、と俺は自身の姉ながら見ていてほとほと呆れる。


看護師として勤めていただけの脳はあるので分からない訳ではないだろうに。何故そんなことを繰り返すのか。



時々、姉は俺に当てつけの様に学生はいい身分だよなぁ、と言ってくる。



俺はそれを言われるとカチンとくる。

当然だ。今の俺の生活は、努力の末勝ち取ったものだ。平日も塾に遅くまで残って勉強したし休日も返上して勉強した。9歳離れているが姉が学生の頃そんなに勉強していなかったことくらいは俺だって覚えている。

自身の怠慢を棚上げしひたすら俺が優遇されただけの様な物言いに腹が立つ。


そう言うと姉は訳知り顔のような顔をして


「やっぱりお前は20歳だな」


と言ってくる。




なんなんだ、偉そうに。

碌に働けず、30にもなって親のすねかじりの自分の方がみっともないくせに。

そう言うとまた喧嘩になるので俺は言うのを我慢しているが、本当は言ってやりたい。

だが傷ついた姉の顔を見たところで俺もどうしていいか分からない。別に嫌いな訳では無いのだ。



実家に住まう姉はお金が無いらしく、食費を出せと母に詰められてものらりくらりと交わして払っていない。その代わり家事を手伝っている。俺にも家事の手伝いを強いてくるが、俺は勉強が忙しいので無理だと言うと、母の援護もありノータッチですんでいる。



そうするとこれがまた姉の勘に触るらしく何故俺にさせないのかと母を詰める。

母はお前はいい歳して家に一銭も入れないんだからやって当たり前だが弟は学生であり勉強することが本分だから当然だろう、と言っていた。



しかしそれもまた気に入らない姉の苛立ちの矛先は俺に向く。


「20歳にもなって米の研ぎ方も知らない、料理は出来ない、掃除も母にやってもらうばかりで家事をさせられたことがないコイツが勉強に集中出来るのは当たり前だ!」


姉曰く俺が薬学部に入学出来たのは出来て当然の結果らしかった。


「小学生の頃から塾に入れさせてもらって大学に行けるのは当然だろう!コイツのために私が飯を作ることもあった、洗濯も掃除もいつも私ばかり用を押し付けて看護師だってアンタらが言うから入ったんだ!合わなくて辞めて来たら何で辞めたのか責めるばかりで話なんて聞く訳でもない!私がこうなったのもアンタらのせいでもあるんだからな!」



スイッチが入るとヒステリックになるところは母と似ている。


母も負けじと

「そんなのアンタは9歳も年上なんだからやって当然でしょう!?歳の離れた弟にそんなこと言って恥ずかしくないの!?それに看護師はアンタが自分で学校に行きたいって言ったんじゃない!」


と反論していた。


「いいや!言った!女でも食うに困らないからって看護師は良いよって側で言い続けられたらそう思うじゃない!都合悪くなったら自分の言ってたこと忘れるの本当ムカつく!あと親父の言いなりになってる所もキモい!男!男ばっかり優遇して本当気持ち悪い!私はアンタを見て結婚なんてキショくて最低だと思ってるから絶対しないしもうこれからは自由に生きるって決めたの!」



もう分かったからさぁ、と俺が止めに入ると

「お前ばっかり家事をしないからだろ!」

と姉が言ってきたがはいはい、分かりました、じゃあこれから俺も家事したらいいんですね、と返す。もうめんどくさいから静かにしてくれと言う気持ちだった。



「今更したところで小学生の頃からやってた私とは訳が違う」


と姉がこぼしていた。

全く。なんなんだ、家事ごときで。手伝いくらい他所の家も何処もしているだろうし、それで東大入った人だっている。結局のところ姉が無能なのは姉自身の責任であるというのに。

いつまでも親や周りの環境のせいにしているから行った先の仕事でも周りのせいにして何にも続かないんだろう。


そういうこともありつつ、だが普段の姉は


「今日学校どうやった?」

「バイトどうやった?」

「暇やしどっか行く?」


と気のいい友達のような側面もある。



普通のようでいて闇が深い人間。


そのような人が社会不適合者になるのかもなと俺は思った。


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