朝顔

学生作家志望

僕が作るご飯

生きていれば何度も朝はやってくる。夜は姿を見せず静かにしている太陽も、朝になれば元気になってうっとうしい。


でも君の朝の顔は違う。夜でも朝でも大好きだって思える。安心させてくれる。うっとうしいなんて思ったこともない。


だけど、ひとつだけ欠けてる部分もある。どんな顔をしている君も好きだけど、やっぱりなるだけ暗い顔は、元気のない顔はしてほしくない。


朝は太陽と同じくらい元気な君も、夜になればへとへとに疲れて帰ってきて、いっつも浮かない顔でご飯を食べる。


「どう?美味しい?」



「………あ、うん。」


僕の質問に一言だけ返す君。


うちの家庭は周りの家庭とは少し違う。僕は専業の主夫だ。

そんなのダメだって親戚とか、いろんな人に反対をくらった。でも、君だけはずっと僕の夢を壊さないでいてくれた。


妻に自分でご飯を作ってあげたい、毎日のお弁当を、朝ご飯を、夜ご飯を、作ってあげたい。僕の夢。それを君が守ってくれた。


だから、朝も夜も君が好きなんだ。



「なんでやねんっ!お前ちゃうんか!」



「このテレビ面白いね」


暗い顔をして下を向きながら食べている君を、どうにかして笑わせたかった、こっちを向いて話してほしかった。


でも僕には君を楽しませるようなトークも話題もない。テレビに頼るしかない。


ブチッ


「えっ………」



君が突然、テレビのリモコンを手に掴んで電源を消す。そして、僕の方を見て言った。


「ごめんね、いっつもごめんね。」


どうして謝るんだろう。僕は何も嫌な気持ちになんてなってないのに。そんな暗い顔、見せないでよ。


「夜になったらどうしても怖くなっちゃう。全部不安になる。ご飯、ほんとに美味しい。なのに、なのに、美味しそうに食べれなくて、残しちゃって。」


朝と夜の君は、まるで別人のようだ。顔の形は同じでも、表情とかがまったく。妻は、非定型うつ病という気分障害を持っている。


この非定型うつ病は、夕方から夜にかけての精神状態が不安定になるのが主な症状であるが、妻の場合は、併存した摂食障害もある。


僕の作る朝ごはん、お弁当は、いつも綺麗に食べてくれる君でも、夜ご飯だけは完食にはいたらない。


「毎日、頑張ってくれてるのに、私、最低だよね、」


「そんなことないよ!」


「ほんと………?」


「毎日頑張ってくれてるのは里緒りおの方だし、美味しいってたった一言で、僕は作って良かったって心から思える。」


ご飯は、心を込めて作るともっと美味しくなる。どんな技術を磨いても、どんなに勉強をしても、これだけは絶対に忘れてはいけない。赤信号を渡っちゃいけないのと同じくらいの常識。


ご飯を作れるのは紛れもなく君のおかげ。


「謝らないでいいからね、僕はその分、ありがとうって言い続けるから。」


夜なのにちょっとだけ君が微笑んだように見えたのは、眠気のせいかな。


 ◆


「ん………」


意識はまだはっきりしない、なんだかふわふわしたような不思議な感覚をまといながら、僕はゆっくり体を起こす。朝の準備をしなきゃ。


「ふー……………」



シーンとした部屋の中で君はまだ寝ていた。僕は絶対に起こさないようにと、忍び足で部屋を出ようとした。その時だ。



「おはよう、」



「っわ!ごめん、まだ寝てていいよ、早いから。起こしちゃった。」


おかしいな、いつもこれくらいの音じゃ起きないのに。珍しいことが起こってつい焦る。なんだって里緒は今日も仕事なんだから、なるべく長く寝てもらわなければならない。


「う………そうじゃなくて、、」


「ん?どういう、」


そうじゃない、そう言いながら体を起こす君。


そして、僕に笑顔で優しく

「美味しいご飯食べたい。」


と、言ってくれた。


「ほんと?やった!今すぐ作るね!ちょっと待ってて!」


やっぱり、夜の君も好きだけど、朝のあの明るい顔も、大好きだ。


僕は急いでキッチンに向かい、早速冷蔵庫の中を見て、今日のメニューを考えた。


「今日は、何にしようかな!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朝顔 学生作家志望 @kokoa555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画