第43話 オタクに優しいギャルと何にもない僕と⑤

 絵が上手くなるにつれて僕の世界の解像度はどんどんと高くなっていった。街中の無機質なビルだってよく見れば個性がある。路地裏の影にも濃淡があり、空の色にも彩度があった。世界が綺麗に見えていく。そのことに僕は夢中になっていった。


「マツゴロー。今度の土曜日ひまー?」


「暇ですけど」


「じゃあさ。アキバ行くの付き合ってよ。実はさネットで人気の絵師さんたちとのオフ会に誘われてさ」


「それ僕邪魔じゃないですか?」


 まだまだへたくそな僕が行っても話についていけないような気がした。


「そんなことないし!むしろちょっと怖いんだよね。男の人とか変なトラブルあってもいやじゃん?マツゴローがいてくれたら安心ていうか」


「あーなるほど。じゃあ僕も行きますよ」


 こうしてオフ会に参加することになった。





 オフ会の会場はメイド喫茶だった。絵師らしいのか、みんなおしゃれに見えた。僕は地味でこの中では浮いていたように思える。


「あなたさんがギャルソルジャー先生?」


「もしかしてあなたがミカ先生?」


 会場で黒髪ロングのすごい美人さんと僕たちは出会った。田村さんとミカさんは手を合わせてキャッキャしている。


「すごいすごい実物も本当に美人さん!きゃー!」


「そんなこと。ギャルソルジャー先生も別嬪さんで私驚きましたわ!」


 ミカさんはコスプレイヤー絵師として動画配信している人気絵師さんだそうだ。すでにラノベの挿絵なんかも担当しているすごい人だ。


「そちらの男の子は彼氏さんです?」


「え?いやーそういうのじゃなくて……えーっとその……手伝ってくれてる友達」


 僕はミカさんに紹介されて軽く会釈する。


「それにしては仲良く見えたんどすよ」


「あはは…」


 ミカさんは揶揄うような口ぶりだったけど、田村さんは困っていた。まあ僕はあくまでもアシスタントでしかない。あくまでもファンなのだ。そう。ファンに過ぎないのだ。


「お二人さんちょーきれいじゃん。マジビビるんだけど!」


 チャラそうな絵師さんが田村さんに話しかけてきた。


「俺ペペロンチーノ・アルパチーノって言うんだけど」


「うそ!あの神絵師の?!」


 田村さんが興奮気味に食いついていた。それを見て僕は寂しくなるのを感じた。


「今度さぁ。サークルで壁サーするからトゥゲザーする?」


「ええ?!いいんですか?!」


 二人の話は盛り上がっている。僕はそれを横で聞いていることしかできなかった。


「ええんですか?」


「な、なんですかいきなり」


 ミカさんが僕に話しかけてきた。


「ああいうので盛り上がってそのまま付き合いだすとかよく聞く話どす。ええんです?」


 そんなの僕だってわかってる。わかっているけど、田村さんの嬉しそうな顔を見たら止められないじゃないか。田村さんとペペロンさんは横並びに座って楽しそうに同人誌づくりの話をしている。


「僕には彼女の行動を止める権利なんてないんですよ」


 ミカさんは僕がそう言うとそれ以上の興味を失ったのか。スマホを弄り始める。なにか惨めさだけをこのオフ会で僕は覚えたのだ。
























 朝になってタエコと別れて俺は家に帰る。学校の時間までギリ寝てようかなって思ったけど、ふっと気になって高橋のSNSのアカウントを覗いてみた。


「げ?!フォロワーが10万超えてる?!すげぇ?!」


 メッチャ人気やんけ。リンクにポートフォリオがあったので、作品集を見てみる。


「うわぁすごい……なんだよこれ」


 そこにはさまざまな絵画、彫刻、粘土像、陶芸、フィギュア、そして漫画などが華々しくリストアップされていた。どれもこれも素人の俺でもわかるくらいに、完成度が高く、なによりも『エモい』のだ。


「ひゃあ……本物じゃん。藝大生でも多分本当のトップだよなこれ?」


 おそらくは高橋は天賦の才を持っている。この間の女性像もエモかったけど、他の作品もすべてがエモい。


「思わずファンになってしまいそうだ」


 ていうか本音で言えば高橋作品のティーカップとかグラスとかすごく欲しい。俺のベースのデザインとかしてくれないかな?


「こんな人に手伝ってもらえるなんてタエコは恵まれてるなぁ。俺なんて音楽ほぼ独学だったのに」


 最初の家はメジャーもマイナーもわかんなかった。どれみふぁそらしどだって意味不明だった。だけど今となってそれなりに結果は出せているわけで。頑張れば人間なんだって案外できるはず。できないのは出来るまでやらなかったものの言い訳だ。


「いやまあ出来なくなっちゃう事だってあるのはわかるけどね」


 もちろん俺だって何回か挫折した。とくに母さんの幻影がちらついたときは音楽そのものが憎くなった。辛い。何かを創ることは、何か自分の心の内側を捧げることに他ならない。そこに他人の視線を曝すのだ。ズタボロにならないわけがないのだ。


「タエコはそうやって壊れたのかな?でもそれは自業自得だよ」


 俺たちクリエイターはそうやって何かを創って狂気に身を委ねる。高橋は何か狂気を乗り越えた人間だ。逆にタエコは狂気の前にいまだに足踏みしているように見える。


「はぁ。タエコに言わなきゃダメなのかな?めんどくさいなぁ」


 壁を超えるには言われなきゃいけない言葉がある。それを言うことに俺は憂鬱になった。




---作者のひとり言---


脳を壊さないと創作のレベルは上がらないんですよ(´・ω・`)

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オタサーの姫と、オタクに優しいギャルと、パパ活メンヘラ地雷系と、あざとい小悪魔系後輩と、ヤってしまった。なおカノジョたちの傍にはBSSしている主人公っぽい陰キャがいた模様やべぇオワタもう遅い! 園業公起 @muteki_succubus

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