道端の丸太、動かない車
武藤勇城
↓本編はこちらです↓
道端の丸太、動かない車
車の免許を取ると、あちこちドライブしたくなりますよね。一日だけの休みに、近場の観光地や海や山に行ったり。少し時間が空いた時に、気まま足の向くままに出掛けたり。すぐ近くのスーパーに車で行く人も多いでしょう。これは、そんな免許取得から数年、若葉マークが取れるか取れないかの頃のドライブ帰りに起きた事件の話です。
車の運転中は、皆さん誰でもそうだと思いますが、かなり注意していますから、大きな事故や問題はなかなか発生しないものです。ただし、最も気を付けないといけないのが、家が近くなって少し気が緩む瞬間です。夕食の買い物をどうしようか、などと考え事をしながら運転していると、周りの様子が見えなくなってしまうものです。
その日はどこか近場でドライブをして、もう家まで数百メートルの所まで帰って来ました。家の裏手には雑木林がありまして、その脇の道は舗装されていない砂利道になっています。車一台通るのがやっとという道幅で、車同士はすれ違えません。歩行者か自転車ぐらいなら何とか横を通れる程度です。車の轍もしっかり一台分、それに沿って運転すれば基本的には何も問題なく走れる、といった感じです。右手側には雑木林があり、左手側には子供一人分ほどの段差があって、その下は芝生が植えてありました。万が一左手側に転落したら、車がひっくり返ってぺしゃんこになってしまうでしょう。ですので、轍からやや右手、雑木林の方に寄せて、ゆっくりと走っていたと思います。
少しボーっと考え事でもしていたでしょうか。いきなり車が跳ね上がって、タイヤが何かを踏んだ感触がありました。「あれっ!?」と思い、ブレーキを踏んで停車、サイドブレーキも引いて(多分エンジンは掛けたまま)車を降りてみました。運転席側に雑木林があり、ドアのすぐ外にも樹々が生えていますので、助手席側から降りたと思います。後ろに回って車体の下を見てみると、右側の前・後輪の下には、伐採した木の幹が横たわっていて、ガッチリタイヤの内側に嵌ってしまっていました。ボーっとしていたので、伐採した木が置いてあるのに気付かなかったんですね。というか、そんな道端に置いてあるのもどうかと思いますが。取り敢えず、何かの動物を轢いたりはしていなかったので一安心でした。
もう一度助手席側から乗り込み、そのまま軽くアクセルを踏んでみましたが、右側の車輪が浮いてしまっていたのか、全然進みません。少し「ガガガガッ」という、車体の下部で物が当たるような音もしたかも知れません。強引にアクセルをふかせば脱出出来る可能性はありますが、同時に車体を傷つけ、場合によってはオイル漏れなどの可能性も出てきます。ここはあまり無理しない方が良いだろう、と判断しました。今度はエンジンも切って、また助手席の方から車を降りました。その後で、もう一度車の下の方を覗いてみて、木の幹は車体の『ヤバそうな部分』とは接していない事を確認、後ろから両手で押してみましたが、やはりびくともしませんでした。
家のすぐ近く、歩いて数分の所に、自動車工場があります。現在地点から歩いても五分程度でしょうか。工場の人に事情を説明し、来て貰うのが一番確実だと思い、徒歩で向かいました。歩き出して一、二分でしょうか、後ろの方で「ブッブー!」と車のクラクションの音がしました。自分の車が道を塞いでいたため、他の車が入って来て通れなかったみたいです。慌てて一旦戻り、その見ず知らずの方にも説明してバックして貰った、なんてハプニングもありつつ。再度車屋さんに向かいました。
「すぐ裏の林の所に置いてあります」と言うと、仕事の手を止めて即座に来てくれました。向かう途中、「車輪の所にしっかり嵌ってしまっているみたいで、アクセルを踏んでも動かないんです」と説明。現場で状況を確認して貰って「これなら押しても大丈夫」と言うので、「押してみたんですけど動きませんでした」との旨も説明しました。「どこか引っ掛かっちゃっているんですかね?」と尋ねてみましたが、車の下を前から後ろまで確認しても、そんな様子はなさそうでした。工場の人が後ろに回り、全体重をかけて押しました。自分も手伝って一緒に押しましたが、やはり全く動きません。工場の人は首をひねって、「おかしいなあ?」と呟くと、助手席の方から車のドアを開け、すぐに原因を発見。
「サイドブレーキが掛かってるじゃないか」
車が横倒しになった木の幹に引っ掛かっていたわけではありません。引っ掛かっていたのはサイドブレーキだったんです。気が動転した自分は、車を降りる時に(いつもの癖で)サイドブレーキを引いていたんです。車を押して動かそうとしたって、そりゃあ動くわけないですよね。こんなイージーミスで、修理工場の人を呼んでしまいました。何かの際、同じような失敗をしでかさぬよう、皆様この話をどうぞ心の片隅にでも留め置き下さいませ。
道端の丸太、動かない車 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
第50回衆院選についての雑感/武藤勇城
★6 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます