第79話 新たな依頼者①(リベールSide)

 ピオニールのギルドホームで、ギレスがウォルグに顛末てんまつを聞かせていた。


 リベールはギレスと一緒にベントの話を聞いていたので、改めて聞かずともその内容は知っている。


 あの戦いでベントが新しく使った道具は、脳波連動AI搭載型レーザー・ドローンというものだった。


 通称、AIレーザー。


 脳波連動AIを搭載しているので、脳内で目的を命令すると、AIがその目的を果たすために自分で判断して動作する。


 AIレーザーにおける動作とは、飛行することとレーザー光線を発射することである。


 そのレーザーは光線銃と同じもので、出力も調整可能となっている。


「ベント・イニオン……あいつは開発能力もさることながら戦闘センスも図抜けているぜ、兄貴。いや、単純に知能が優れているのか。あの発想力はもはや兵器だ」


 ギレスは道具の説明に続いて、あの戦闘で何が起こったかも説明した。


 ウォルグがベントに飛びかかろうとジャンプしたとき、ベントが光線銃を撃ってウォルグに大剣で防御させて視界を奪った。


 その目的は自分が距離を開けることに気づかせないことと、AIレーザーの存在に気づかせないことだった。


 特に後者は重要で、大剣がウォルグの視界をおおっているうちにウォルグの背後へと移動させたのだ。


 ベントが新たな道具の存在をにおわせていたので、ウォルグは余計にベントに注意を向けていた。

 だから背後を飛ぶAIレーザーの存在に気づく余地はなかった。


 ウォルグが大剣を振ったあと、ふたたび光線銃を向けることで大剣を防御位置に誘導し、AIレーザーで防波リングと大剣を一気に撃ち抜いた。


 大剣に穴が開けば、たとえ大剣の陰に隠れても小型GESの超音波を防ぐことはできない。


「完敗だ。恐れ入った」


 ウォルグは近くのテーブル席にいたリベールに視線を落とした。


「リベール。もうベント対策の開発はしなくていいぞ。改良も不要だ。余った資金は好きに使って構わん」


 プライドの高いあのウォルグが、負けたのに清々しい顔をしていた。


「あ、ありがとうございます」


 リベールはやっと重責から解放された。


 今日までずっと緊張を強いられる日々を過ごしてきた。


 開発品の効果が出なかったらどうしよう。

 開発が間に合わなかったらどうしよう。

 資金が足りなかったらどうしよう。


 ずっと不安で仕方がなかった。


 結局、ウォルグの戦闘はベント対策の効果を実証する機会にはならなかった。


 しかしベントの行動はリベールが対策をきっちり仕上げた前提のものだったので、いちおう役目は果たしたといえる。


 これまでのリベールはランク5thの依頼をこなしてどうにか食いつないでいた。

 どれも低報酬のわりに手間暇ばかりかかる仕事だった。


 その生活からも当面は解放される。


「リベール」


 ふと女性に呼ばれた気がした。


 リベールは空耳かと思ったが、女性が近づいてきて改めて声をかけてきた。


「リベール」


「は、はい!」


 声の主はセルフィート・メイジェスだった。

 リベールにとってはウォルグ以上に緊張する相手である。


 彼女の美しい容姿と圧倒的なオーラは、軟派な人ですら女性に耐性のないウブ男のように変えてしまう。


 そんな彼女が、リベールの前にグラスを置いた。

 酒かどうかすらわからない濃橙色の液体が入っている。


 リベールが戸惑っていると、セルフィートの斜めうしろに控えていた妹のマイネが「姉さんのおごり。飲みなよ」と促してきた。


「はい、いただきます」


 リベールがそれを口に運んで傾けると、甘いのに針で刺されるような刺激が脳天まで駆け抜けた。


 酒のようだが、何の酒かはわからない。

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