第78話 戦いはとっくの昔に始まっていた②
ウォルグは大剣使いなので、中距離戦にも対応可能な近距離戦闘型である。
相手が遠距離武器を持つのなら、最初に取る行動はひとつ。
距離を詰めることである。
「ふんっ!」
ウォルグは地を蹴った。たったのひと蹴りだが、まるで巨人の一歩だった。
ベントとの間の遠い距離を一瞬で詰め、近距離戦に持ち込んだ。
「おらっ!」
大剣が水平に走った。ベントは膝を曲げて上体を反らし、大剣を下に避けた。
大剣の動きは速かったが、それが動きだしたときにはベントはすでにその体勢になっていた。
ベントの体は膝から上が地面と平行になっているが、万能AIスーツが姿勢を制御しているので地面には落ちない。
「おらよ」
ベントの足に衝撃が加わった。ウォルグが足払いをしたのだ。
ベントの体は半回転して地に落ちる。
いや、落ちなかった。
万能AIスーツがベントの体を浮かせている。
さらに加速上昇し、復路で戻ってくる大剣をかわした。
ベントがそのまま空を飛ぼうとすると、逃がすまいとウォルグの左手が飛んできた。
だがベントの行動はとことん先をいっていた。
光線銃から赤い光が飛び出し、ウォルグの左肩に直撃して左腕の動きを止めた。
ベントは空に上がり、
ウォルグもベントを見上げた。
「まるでランク1stの動きだな。動きが速いが、それ以上に動きだすのが早い。それも開発品のおかげか?」
「ええ。いま私は白衣の下に万能AIスーツを着ています。これは新しい開発品ではなく、冷感シャツ、ダイスーツ、AIスーツ、エアスーツの四つを組み込んでひとつにまとめたオールインワン・スーツです。AIレンズを通して得た情報からあなたの動きを予測しているのです」
ベントの白衣が激しくはためいている。
それは風が強いからではなく、万能AIスーツが空を飛ぶための風を放出しているからである。
「言っておくが、その位置は俺の跳躍で届く距離だぞ」
「私も言っておきます。私は訊かれたら惜しみなく開発品の説明をしますが、それはあくまで訊かれたものだけです」
ベントの忠告返しは呪いの言葉でもあった。
ベントの狙いどおり、ウォルグは新たな道具を警戒してベントを注視している。
だがこのままでは距離を開けられると気づいたか、ウォルグは腰を落として足のバネを溜めた。
「ふぬんっ!」
溜めたバネを開放し、ウェアウルフの巨体がベントへと一直線に跳んだ。
ベントが光線銃で赤い光を放つ。狙いはウォルグの頭部。
ウォルグは大剣の腹でそれを受けとめた。
それは自分の視界を遮る行為だが、空間把握能力の高いウェアウルフには問題にならないようで、光線の発射位置で正確に大剣を振った。
しかし空振り。そこにベントはいなかった。
ベントはさっきよりも高い位置にいた。
ウォルグの体が重力によって地上へと引っ張られる。下は見ない。
ひたすらベントを注視しているのは、新しい道具を警戒してのことだろう。
「ウォルグさん。あなたが地に足を着けるまでに決着をつけます」
ベントがウォルグに光線銃の銃口を向けた。
ウォルグの大剣はさきほど振り抜いて体の外側に流れている。
だが持ち前の
だがそのとき、ウォルグの後方から青い光が走り抜けた。
「なっ!」
その青い光は無骨な首輪を破壊し、さらに大剣に穴を開けた。
防波リングが外れた。
「くっ……」
ウォルグが地に足を着けたとき、その大きな体重を支えきれなかった。
両膝をつき、さらに上体が傾く。
バタリと床に倒れ伏し、そのまま動けなくなった。
ベントが手に持つ銃の形は変わっていた。
銃口はなく、先の部分がパラボラアンテナ形状になっている。
光線銃から小型GESに持ち替えたのだ。
人以外を完全無力化する超音波が大剣に開いた穴を通ってウォルグに直撃していた。
ベントは地上に降り、ウォルグのそばに歩み寄った。
ウォルグの顔は横を向いているので、その視界に入るように屈んだ。
「ウォルグさん、私の勝ちです。それでは、私はこれで」
「待て……。説明……説明だけ……頼む……」
「わかりました。あなたはその状態なので、弟さんに説明しておきます。弟さんから聞いてください」
ウォルグは黙ってうなずいた。
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