第72話 成果報告①(リベールSide)

 リベールはウォルグからの支援を受け、自分の研究室を建てた。


 金銭的に余裕ができたので、もうランク5th向けの雑用めいた仕事をこなす必要はない。


 ただ、ベント対策の開発は雑用以上に粛々しゅくしゅくと進める必要があった。


 あの恐ろしいウェアウルフからの依頼で、なおかつ投資も受けている以上、決して失敗は許されない。


 そして今日、ベント対策の開発品のお披露目日を迎えた。


 ギルド・ピオニールの庭に人が集まっている。


 依頼人のウォルグがいるのはもちろんだが、興味を示して集まってきた人たちはそうそうたるメンバーだった。



 ギルドマスターのエメル・ポーア。


 白髪白ひげの高齢男性だが、そのたくましい体つきはウェアウルフにも引けを取らない。


 赤いケープとレザーアーマーの上からでもわかる鍛え抜かれた肉体と美しい姿勢は、彼の品格をこれ以上ないくらいに高め、最強ギルドのマスターとして申し分ない威厳を放っている。


 普通、ギルドマスターというのは戦士を引退している場合も多いが、彼は現役バリバリでランク1stのハルバード使いである。



 セルフィート・メイジェス。


 彼女はウィルド王国一の女傑と謳われているランク1stの勇士である。


 絶世の美女でありながら猛獣のような迫力を持ち、他人を寄せ付けないオーラをまとっている。


 長く艶やかな黒髪と透き通るような白い肌はとても凶獣と戦う戦士とは思えないほど美しいが、その黄色く鋭い目を見れば、誰もが彼女は狩人なのだと思いなおすだろう。


 剣、槍、クロスボウなどあらゆる武器を使いこなすオールラウンダーで、しかも頭脳明晰。


 性格は見た目通りに厳格で、リベールが特に苦手とする人物のひとりでもある。



 マイネ・メイジェス。


 セルフィートの妹で、姉と一緒に行動していることが多いランク2ndの勇士である。


 目つきは姉よりいくぶんか柔らかく、髪はブロンドで姉よりも長い。


 姉とは対照的に肌の露出度が高く、一見軽そうに見えるが、したたかな側面を持っていてつかみどころがない。


 彼女は二丁拳銃を使いこなし、ピオニールの中でも実力は高いほうである。


 彼女はリベールに話しかけてくることのある希少な勇士のひとりだが、リベールは緊張してまともに話すことができないでいた。



 ほかにもリベールの見知った顔が全員そろっていた。


 剣聖と呼ばれるランク1stの女剣士、ホーリス・ウォルド。


 ホーリスの弟子でランク2ndの女エルフ、ディーア・テス。


 ウォルグの弟でリベールをピオニールに引き入れたランク2ndのウェアウルフ、ギレス・エフカイン。


 たくさんの人が集まり、総勢20名くらいになっていた。


 そして、リベールの正面に立つのは依頼主にして投資者のウェアウルフ、ウォルグ・エフカインである。


 ランク1stの財力は伊達だてではなく、もし開発が失敗したとしても決して資金不足を言い訳にできないだけの投資をしてもらっていた。


 リベールの緊張は、かつてシエンス共和国で初めて大統領と対面したときのそれをはるかに超えていた。


「あの、それでは、ベント・イニオン対策の道具をお披露目させていただきます」


 リベールは脇に置いていたカゴに手を伸ばし、おずおずと道具を取り出した。


 最初に披露したのは、太い鉄のリングだった。


「これはGESキャンセラーリングです。名前が長いので防波リングとでも呼んでください。GESの超音波を妨害する干渉波が出るので、これを着けているとGESの影響を受けなくなります。それと撃音波銃も無効化できます」


 リベールが防波リングのボタンを押すと、1ヶ所から折れるように開いた。

 それをウォルグに手渡す。


 ウォルグはそれを黙って受け取り、手首にはめた。


「あ、すみません。それは手首じゃなくて、首に着けます」


 リベールがそれを言った瞬間、ウォルグの鋭い視線が刺さった。


「これを首に着けろだと? 捕虜の首輪みたいなこれを? おまえ、俺を馬鹿にしてんのか!」


 ウェアウルフの眉間から鼻にかけてしわが寄った。かなりご立腹の様子である。


 たしかに高価な装備と装飾で全身を固めたランク1stが着けるビジュアルではなかった。


「すみません……」


 ウォルグは威嚇するかのごとく激しく唸ったが、あきらめたように息を吐くと、それを首に装着しなおした。


 サイズはピッタリだった。


「もう少し、ゆとりも欲しかった」


「すみません」


 ピッタリすぎた。おそれ多くて首のサイズを測らせてほしいとは言えず、目測で設計していたのだ。

 小さくて入らないという最悪の事態は避けられたことを幸運に思うしかない。

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