第71話 ベント・イニオンは忙しい

 ベントは搭乗型コンバットロボットの格納庫兼整備工場にいた。


 通称、コンロボ格納工場。


 ベントはここでひとり、黙々とコンピューターに情報を打ち込む作業をしていた。


 その情報というのは、アルチェから聞いたもので、エルフの里周辺で目撃された凶獣に関するものである。


 凶獣ドギー。


 太陽系地球の狼という動物に似た凶獣で、たいてい群れで行動し、連携して狩りをおこなう。

 単体ではさほど強くないが、群れをなすと脅威度は跳ね上がる。

 討伐する勇士の推奨ランクは3rd以上。


 凶獣ベアル。


 太陽系地球の熊という動物に似た凶獣で、鋭い爪を備えた剛腕と、見た目に反した軽いフットワークが厄介。

 討伐する勇士の推奨ランクは2nd以上。


 凶獣ティゲル。


 太陽系地球の虎という動物に似た凶獣で、凶獣の中でも突出した俊敏さと腕力と咬合力を持っている。

 討伐する勇士の推奨ランクは1st。


 以上がアルチェから得られた凶獣情報である。


 もちろん、この3種以外の凶獣が出る可能性はじゅうぶんにある。

 発生源がベルグバルト大連山なのだから、全種類出ることを想定しておく必要がある。


 凶獣リノセロ。


 太陽系地球のサイという動物に似た凶獣で、超硬質な皮膚に攻撃を通すことはきわめて困難。

 討伐する勇士の推奨ランクは2ndの上位以上。


 凶獣コンダ。


 太陽系地球の蛇という動物に似た凶獣で、鋭い牙、毒、締め上げと多彩な攻撃手段を持つ。

 何よりも厄介なのは、体の模様を変えて擬態し、音もなく忍び寄る点である。

 討伐する勇士の推奨ランクは3rd以上。もちろん、これは通常サイズでの話である。


 凶獣ビルダ。


 太陽系地球の鳥という動物に似た凶獣で、さまざまな種が存在するが、だいたい鋭い爪とくちばしを持ち、群れを成していることが多い。

 討伐する勇士の推奨ランクは4th以上。


 もっとも、ベントからすれば勇士の推奨ランクなど関係ない。どんなに強くて狂暴な凶獣であろうと、小型GESを使えば一発で無力化できるのだから。


 ただ、広範囲に散在する凶獣をスピーディーに処理するのであれば、搭乗型コンバットロボットで移動しながら処理するほうが速い。


「あ、ベント君、いた!」


 アルチェが手を振りながらやってきた。

 ベントの前まで来ると、手に持っていた封筒を差し出した。


「招待状を作ってきたよぉ。はい、これ」


「たしかに受け取りました。ピオニールに行ってホーリスさんに渡しますね」


 アルチェを助けてくれたお礼として、ホーリスをギルド・プログレスの食事会に招待するという話になったくだんの招待状である。


 アルチェはギルド・ピオニールが怖いという理由で、ベントに招待状を渡してほしいと頼んだのだった。


「わぁ、広いねぇ。あ、これがあのコンロボ? すごい迫力!」


 ここコンロボ格納工場は、ベントがいるときに限ってプログレスのメンバーも入れるように設定してある。


 滅多にお目にかかれない光景を前に、アルチェは目をランランと輝かせた。


「そうです。これはタイプF、モデル・オウギワシです」


「タイプF?」


「フライのFです。飛行タイプということです」


「へぇ。じゃあ、ほかのタイプのロボットもあるってこと?」


「ええ、ありますよ。まだ調整中ですが」


 アルチェは巨大なオウギワシに羨望の眼差しを向けている。


 カリナーリ襲撃時、巨大な凶獣コンダとの圧巻の戦いを見ていれば、その目が羨望に染まるのは至極当然といえる。


「ねえねえ、これ、あたしは乗って操縦できないの? いいなぁ。乗ってみたいなぁ」


「設定をいじればアルチェさんでも乗れるようになりますよ。そうですね、今後、私からお願いしてアルチェさんに乗ってもらう日が来るかもしれません」


「ほんと!? それは楽しみだなぁ!」


 アルチェはルンルンで跳ねるように去っていった。


 静かになった格納工場で、ベントも巨大なオウギワシを見上げた。


 この巨体で森の中を動き回る凶獣の相手をするのは難しい。


 ベントは開発の優先順位を見直すことにした。


 現在、最優先で開発を進めているのは、AI搭載型の戦闘用機械である。


 ベントは開発品の情報を逐一開示しているため、ベントを知る者はしっかりと対策してくる。

 自分で作り上げた状況ではあるが、そのイタチごっこで常に優位に立っていなければならない。


 ベントは仕方なくスカイタクシー開発の優先順位を下げた。


 ただでさえ開発が滞っている案件だが、また再開時期が延びてしまった。


「はぁ……」


 ベントは気分転換に招待状を渡しに行くことにした。


 単純な移動のためにコンロボは使わない。

 コンロボはエネルギー消費が激しいので、最終兵器のようなものである。


 ベントはアルチェからもらった封筒を持つと、外のエアバイク改を目指して歩いた。

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