第66話 風の射手と剣聖①(アルチェSide)
アルチェ・ウィンドルは故郷であるエルフの里に向けてエアバイク改を走らせていた。
エルフの里から出ていた凶獣討伐依頼には凶獣の種類は書かれていなかった。
とにかく里に近づく凶獣をすべて討伐してほしいとのことである。
報酬は歩合制だが、目安を見る限りかなり渋い。
それはつまり、エルフなら故郷を守りに来いと圧力をかけてきているのだ。
アルチェはその依頼を受けはしたが、討伐をこなせるかは凶獣の種類によるので、ひとまず様子見するつもりで里へと向かっていた。
ケリーオ山のふもとまで来ると、アルチェはエアバイク改を降りた。
排他的な里のエルフたちにエアバイク改を見られると
エルフの里はケリーオ山の頂上付近にあるので、ふもとで降りれば見られることもない。
「はぁ……」
本当はエアバイク改で山を登りたい。
エアバイク改の快適さは山道でこそ発揮されるはずであり、それを考えるとアルチェはなおさら排他的方針を固持する里に
山を登ること3合ほど。
アルチェは警戒心を高め、背負っていた弓を手に取った。
「いる……」
エルフ族は普通の人間よりも聴覚が鋭い。
人族との違いでいえば、体力、身軽さ、五感のすべてが優れているが、その中でも聴覚は飛び抜けている。
その聴覚が、遠方で木の枝を踏み折る音を捉えた。
アルチェは軽い身のこなしで近くの木の枝上に登り、音のした方向に視神経を集中させた。
「ドギー族か」
ドギー族は灰色の体毛に覆われた四足歩行の凶獣である。
その細長い四肢で駆ける速度は70km/hとダロスよりも速く、何よりも厄介なのは10匹以上の群れで行動する性質である。
いまアルチェの視界に映っている凶獣ドギーは1匹のみ。
生い茂る木々で見通しは悪いが、用心深く見渡してもほかに凶獣の姿は見えない。
「まあ、大丈夫よね……」
アルチェは弓を構えた。
身にまとう緑のドレスは背中が大きく開いているが、それはアルチェが露出狂だからでも極度の暑がりだからでもない。
背中で風を感じるためである。
――風の
アルチェはそう呼ばれている。
エルフ族は五感が鋭く風からさまざまな情報を得ることができるため、風とともに生きる種族と言われている。
その中でもアルチェは風との親和性が高い。
アルチェが風に乗せて放つ矢は百発百中。
飛距離もほかのエルフに比べて頭ひとつ抜けている。
そんなアルチェが弓に一矢をつがえ、引き絞り、そして放つ。
矢は風に乗り、森の中を閃光のごとく走り抜けた。
「キャウウンッ」
凶獣ドギーは眉間に深々と刺さった矢により、一撃のもとに仕留められた。
「…………」
アルチェは凶獣ドギーが倒れたのを視認した。
しかし警戒心をさらに高めた。
凶獣ドギーの悲鳴が存外大きく、それを聞きつけた別の個体が走りだした音を聞いたのだ。
アルチェはすぐに次の矢をつがえた。
すぐにでも放ちたいのを我慢して冷静に風を読む。
「ワオオオオオォン!」
むくろとなった仲間を見つけた凶獣ドギーの遠吠えが響く。
直後、アルチェの射た矢がその左目を貫き、脳を串刺しにした。
「遅かった。吠えられた!」
こうなったら長居はしていられない。来た道を走って下っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます