第56話 巨獣大戦闘②
「なるほど。加熱されると自動で外れる仕組みですか」
「そうよ」
カリナーリは凶獣コンダの眉間に手を当てて自分のペットを落ち着かせている。
いまならベントは安全に上空に上がれそうだ。
だが、ベントは動かなかった。
そんなベントを、カリナーリはフルヘルムを取ってにらんだ。
「何なの、あなた……飛びなさいよ! まさか、あきらめたわけじゃないでしょうね」
流れてきた雲がふたりと1匹に影を落とす。
「いいえ、そろそろなんですよ」
「そろそろ? 何の話よ!」
「じきにわかります。マスターさん、もしかして、怒ってます?」
「当り前じゃないの! せっかくお互い全力で戦っているのに、一方があきらめたら、おもしろくないじゃない」
ベントの顔に陽が
ベントは笑っていた。
「マスターさん、勘違いさせてしまってすみません。あきらめたわけじゃないんですよ。もう終わっているんです。私の脳内ではね」
「何を言っているの? だからそれは、あきらめたってことでしょう?」
カリナーリの顔はまだゆがんでいた。
ただし、怒りが薄れて困惑の色が混じっている。
一方、ベントが笑ったのは一瞬だけだった。
いまはもう、いつもの無表情に戻っている。
「違いますよ。私の脳内シミュレーションでは、5分後くらいにあなたは敗北して泣きじゃくっています」
「ボクちんが負けたくらいで泣くわけがないでしょうが! 万にひとつも負けないけども」
「あなたの敗北は万にひとつではなく、ただひとつです」
「コン、やれぇえええっ!」
シャァアアアアアアアアッ!
カリナーリが叫んだ瞬間、特大の威嚇音とともに太い尻尾が振られた。
ぎっしりと詰まった筋肉が繰り出す極太の薙ぎ払い。絶対に避けられない。
だが、上空から急降下してきた巨大な何かがその尻尾をガッシリとつかんで止めた。
「なっ! と、鳥!?」
突如として現れたのは巨大な白黒の鳥。
いや、鳥の形をしたロボットだった。
全長10m、翼開長20mの巨体が凶獣コンダの尻尾をつかみ、体をひねって遠心力で投げ飛ばした。
頭にカリナーリを乗せている凶獣コンダはうまいこと着地したが、その衝撃でカリナーリは手に持っていたフルヘルムを落としてしまった。
だがもうフルヘルムがどうという次元ではない。
ここからは巨獣のプライドを賭けた戦いとなる。
ベントはエアスーツで上昇し、鳥のくちばし部分から鳥型ロボットの内部へと入った。
機械によって拡声された声で、律儀にその怪鳥について説明を始める。
「これは搭乗型コンバットロボット。通称はCRB、またはコンロボです。シエンス共和国にいたころに作り、そのままそこに隠していたので、呼び寄せるのに時間がかかってしまいました。太陽系地球のオウギワシという最強の猛禽類をモデルにして作った飛行型ロボットで、AIとも連携可能です。特殊チタン合金製の超軽量翼で羽ばたきによる飛行を実現し、ほとんど音を立てずに飛行することが可能です」
「なるほどね。飛行音を消して、影も雲の影に重ねられたら、さすがのボクちんでも気づかないわ」
カリナーリは言いつつ
命令を下すと凶獣コンダが前進を始めた。
「ベントちゃん、5分って言ったわね。その5分後まではあと1分くらいよ」
「ええ。決着をつけましょう」
凶獣コンダとオウギワシがお互いに全速力で接近する。
先に相手を射程に捉えたのは凶獣コンダのほうだった。
最速の攻撃手段である頭突きを放つ。
オウギワシはその頭突きを左のかぎ爪で受けとめ、そのまま爪を食い込ませた。
右のかぎ爪がカリナーリより後方の部分をつかむ。
ベントはオウギワシに大きく羽ばたかせて上昇を開始した。
「高所から落とす気ね? そのまえに絞め潰す!」
凶獣コンダが持ち前の筋力で胴体を持ち上げた。
長い尻尾がオウギワシを囲うように素早くとぐろを巻く。そして一気に引き絞る。
その瞬間、オウギワシが翼の前縁に沿うラインにレーザーブレードを展開した。
かぎ爪が凶獣コンダの頭を離し、そして自身は回転しながら上昇する。
翼の前縁が青い残光で二重螺旋を描いたとき、凶獣コンダの胴体は細切れになった。
最初に落下したのは凶獣コンダの頭部。
その上にカリナーリが着地し、それから細切れになった凶獣コンダの胴体が大地に降り注いだ。
ちょうど5分が経った。
カリナーリは泣いていた。凶獣コンダの無残な姿に泣きじゃくっていた。
「コンちゃああああん! なんて姿になってしまったの……。ああ、あああ、あああああ!」
そんなカリナーリに影がさし、オウギワシが着陸した。
クチバシからベントが出てくる。
カリナーリがベントをにらみ上げるが、その視線の先でベントはパラボラアンテナ形状の銃を構えていた。
「あ……」
「弱き狂人はただの愚者です」
引き金は容赦なく引かれた。
カリナーリはバタリと倒れた。
目は半開きになり、だらしなく開いた口からは舌がはみ出てヨダレが垂れている。
「これは超感覚刺激波発生装置、通称GESの小型版です。あなたはエルフ。人間ではないので、この小型GESで完全に無力化できるのです」
ベントは迷いのない足取りでカリナーリへと近づいた。
改めてGESによる効果が出ていることを確認してから屈む。
左手であごをつかんで口を開けさせると、そこへ液タイプの盲信隷属薬をドバドバと流し込んだ。
「私のことはボスと呼びなさい」
「あ……あぃ……」
盲隷薬を飲むと寄生菌に寄生され、最初に見た生物を自分の主人だと思い込んで服従するようになる。
強制的にすり込み現象を引き起こす薬である。
これでバーキングのギルドマスターであるカリナーリはベントの手駒となった。
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