第57話 世直し第1弾①

「かんぱーい!」


 夕刻。


 ギルド・プログレスのメンバーたちはバーキングへの勝利の祝杯をあげていた。


 リゼの子爵領通行に端を発し、バーキングは何かとプログレスにちょっかいをかけてきていたが、ギルドマスターであるカリナーリ・アルテをベントが倒したことで決着がついた。


 カリナーリが報復してこないよう対処も済んでいる。


 ひとまず眼前のうれい事はなくなった。

 今日はもう楽しむだけでいい。


 プログレスのメンバー6人全員がひとつのテーブルに集まり、平和の立役者であるベントを中心に盛り上がった。


「飛んで帰るって、あの怪鳥ロボットのことだったんだな」


 わっはっはとグイルが笑い、周りも同調して笑い声を重ねた。


 話題はもっぱら鳥型の巨大ロボットについてだった。


「ねえねえ、ベント君。凶獣コンダを倒したとき、あのロボットは高速でグルンッて回っていたけれど、あれって中にいて大丈夫だったの?」


 エルフのアルチェが身を乗り出してベントに訊いた。


 目を輝かせる彼女に対し、ベントはいつもどおりに冷静の塊みたいな態度で回答する。


「コックピットには水平制御モードと機体一体モードがあるんです。水平制御モードに設定すると、コックピットの挙動が機体から独立します。機体がどんな向きにどれほど回転しようと、パイロットの体軸は動きません」


「へぇー、なるほどぉ!」


 テンションに任せておおげさにうなずくアルチェだが、どれほど理解しているかはベントにはわからない。


「それにしても、いいタイミングで来たよなぁ。まったく、魅せてくれるぜ、ベント殿」


 ウェアウルフのフォルマンがしみじみと思い出している。


 ベントは苦笑した。


「いえ、戦闘開始時に到着してくれていれば理想的でしたが、さすがにシエンス共和国からの移動には時間がかかりました。いちおう、ギルドホームを出るまえに研究室から遠隔起動したので、あれで最速ではありましたが」


 今度は若手勇士のクレムが申し訳程度に手を挙げて質問する。


「あの、それって、ウィルドからシエンスの機械にアクセスしたってことですよね? だいぶ離れていると思うんですけど、そんなことが可能なんですか? 電波を飛ばすみたいなことをするにしても、2国間を隔てる山脈群が障害になる気がするんですけど」


 ベントは一瞬ためらった。

 頼りなさそうな若手がこんなにも鋭い質問をしてくるとは想定外だった。


 ベントはグイルとリゼを一瞥いちべつしてから回答した。


「すみません。それについては秘密にさせていただきます。私が抱えるとある問題を解決するための最終手段、秘密兵器に関わることなので」


 その問題とは、シエンス共和国がウィルド王国の首都を投核弾で攻撃して国を乗っ取ろうとしている侵略計画のことである


 ベントがこの情報を開示したのは、ギルドマスターのグイル・マステル、受付嬢のリゼ・ティオニス、領主のモーヴ・コミス伯爵の3名のみ。


 ベントは正直なところ、プログレスの残り3名には教えても構わないだろうと考えている。


 だが、実際にそれをするメリットはない。リスクが増えるだけである。


「珍しいな。技術情報はすべて開示すると言っていたのに。もちろん無理に聞き出すつもりはないが、気になるなぁ……」


 やはりフォルマンが食いついてきた。

 彼は情報屋なので、情報収集におけるアンテナの感度が高い。


 だがリゼが気を利かせてくれた。


「あぁ、うらやましいです! 私もベントさんとコンロボの活躍を近くで見たかったです!」


「残念だったな、リゼ。あれはすごかったぞ!」


 グイルも合わせてくれている。


 ベントはひそかにふたりに感謝した。


「コンロボは研究室の横にあります。リゼさんにはいつでも動いているところを見せて差し上げますよ」


「本当ですか? ありがとうございます!」


 リゼの目がキラキラと輝くので、ベントの表情も思わずほころんだ。


 巨大なオウギワシのロボットはいま、ベントの研究室の横で眠っている。

 翼を折りたたみ、頭を垂れた状態で電源を落とされている。


 定期的に動かすか清掃しなければ、風に乗ってきた砂がどんどん堆積するだろう。


 ベントはそれを思い出し、格納庫と整備工場の建造優先度を上げることにした。

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