第53話 巨獣の侵攻①

 プログレスのギルドホームは賑わっていた。


 普段、勇士たちが昼食をる時間はバラバラなのだが、今日は珍しくそれが重なり、全員がひとつのテーブルについていた。


 テーブルには隣接する飲食店のプロトポリアで注文してきた品が並んでいる。


 テーブルを主ににぎやかしているのは、エルフのアルチェ・ウィンドルと、ウェアウルフのフォルマン・ニットだった。


 ふたりは間に若手勇士のクレム・エディオを挟んで言い合いをしていた。


「クレム君はもっと野菜を食べなきゃ駄目! 健康第一よぉ」


「野菜なんかいいから肉を食え。戦士の体を作るには肉だ!」


 サラダをつつくアルチェと、こんがり焼けた骨付き肉にかぶりつくフォルマン。


 ふたりが視線で火花を散らす下で、クレムは居心地が悪そうにパスタをフォークに巻きつけていた。


 その対面ではギルドマスターのグイル・マステルがステーキに刃を入れ、受付嬢のリゼ・ティオニスがスープカップを両手で口に運び、ベント・イニオンがロールパンをかじっている。


 3人は言い合いをするふたりを止めようとはしない。

 これはよくある光景なのだ。


 だが今日、いつもと違うことが起こった。


 リゼが口をはさんだのだ。


「あの、ちょっと……」


 珍しいから、アルチェもフォルマンも口をつぐんでリゼの方に視線を向けた。


 静かになったところで、リゼが改めて言葉を発する。


「なんだか、揺れていませんか?」


 その言葉にベントも動かしていたあごを止めた。


 たしかに揺れていた。

 地響きではない。小さな揺れが継続している。


 リゼがスープカップを置くと、スープの液面が小刻みに小さな波を作った。


「おい、何だあれ!」


 いちばん窓に近かったフォルマンが立ち上がって窓に駆け寄った。

 ほかのみんなも彼に続く。


 窓の外の光景を目にしてみんな固まった。


 とてつもなく巨大で長い胴体を持つ緑色の怪物が街へと近づいてきていた。


「あれは……凶獣コンダか!」


「あれがコンダ? それにしてはデカすぎない!?」


 凶獣コンダは太陽系地球の蛇に似ているが、大きいものは胴径約50cm、全長約20mと、地球最大規模の蛇の倍という巨体を持っている。


 だが窓から見える怪物はあまりにも大きく、アルチェがグイルの言葉を素直に受け入れなれないのも無理はなかった。


 遠くて正確な大きさは分からないが、軽く見積もっても胴径2mはありそうだった。


 リゼが両手でほおを挟んで体をひねっている。

 そんな彼女を尻目に、グイルがベントに視線を向けた。


「とにかくギルドでくいとめなければ、街にまで被害が出てしまう。ベント殿、力を貸してくれ」


「わかりました」


 プログレスの勇士たちはそれぞれ武装を整えてギルドホームを飛び出した。


 ベントも研究室に戻って装備を整えてから出てくる。


「それではリゼさん、留守番をお願いしますね」


「はい。お気をつけて。善戦健闘を祈っていますね」


 リゼが両手を組み合わせて祈るようにベントを見上げた。


「ありがとうございます。でもリゼさん、それは敗者の奮闘を称える場合に使われることが多い言葉です」


「はわわ! ごめんなさい」


 リゼはぴょこんと跳ねて両手で口を覆った。


 ベントのことを信頼しているからか、彼女の反応に焦りは見られない。

 恥ずかしそうに笑うリゼに、ベントの表情もささやかながらほころんだ。


 リゼだけをギルドホームに残し、5人はエアバイク改を飛ばして凶獣コンダの方へ向かった。

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